新太平洋艦隊ハワイに到達す
もう次のはできてるんで、
明日にはまた更新できると思います。
新太平洋艦隊ハワイに到達す
日英講和から一週間後、ハワイから西南三百五十海里のポイントに、
ハルゼー大将率いる新太平洋艦隊が集結していた。
その陣容は
正規空母「エセックス」「ヨークタウンⅡ」「イントレピッド」
「レキシントンⅡ」「フランクリン」
護衛空母「カサブランカ」「コレヒドール」「セント・ロー」「トリポリ」
「ロイ」「「ホーランディア」「ガンビア・ベイ」「キトカン・ベイ」
戦艦「アイオワ」「ニュージャージ―」「ミズーリ」「ウィスコンシン」
重巡十二隻、軽巡十四隻、駆逐艦二十八隻という、
まさしく太平洋艦隊を名乗るに相応しい陣容である。
七十海里後方には百隻を超える、陸兵を満載した輸送船が並んでいる
旗艦「アイオワ」の艦橋で珍しく静かに瞑目しているハルゼーに、
副官がおずおずと話しかける。
「司令、あと一時間ほどで予定のポイントに着きます。」
副官の声を聞きハルゼーは呟く。
「キル・ジャップス。」
「はい。」
「キル・ジャップスだよ、日英講和で士気が下がったという者もいるが、
私の信念だけはどんな時も変わらない、ビッグEの仇を取るまではな。
ポイントに着き次第、全ての艦載機をハワイに向けろ。」
ビッグEとはハワイ沖海戦で沈没したエンタープライズの愛称である。
「全てですか…、諜報部によるとハワイの航空機数は二百機ほどと聞いています。
対して我が艦隊の搭載機数は七百機を超えます。
それに敵はハワイ航空隊だけではありません。
ジャップの機動部隊にも備えなければなりません。」
「いいか、癪に障るが、我が艦隊の戦力では、
ジャップの機動部隊とハワイ航空隊の二つに正面からやり合っては勝てん。
奴らの腕前は我々の数段上だからな。」
「しかし…。」
「だが、航空戦で勝敗を分けるのは機数と言うのも真理だ。
新米ならともかく、我が艦隊には熟練の搭乗員しかおらん。
二百機に七百機をぶつければ必ず勝てる。」
「しかし、そうすれば、我が艦隊の直掩はどうするのです。
それに敵機動部隊が出てきたときには。」
「心配いらん。」
ハルゼーが言ったその一言に副官は唖然とする。
「我が艦隊の他に重巡を旗艦とする任務部隊の偵察機が、
昨日にジャップの本拠地であるトラック島を偵察した。
知らせないですまなかった、これは極秘だったからな。
部隊は空襲を受け壊滅したが、無電で連絡があった。
ジャップの機動部隊はトラック島にいるとな。」
「しかし、それでは…。」
「ああ、元から帰還は望めない任務だった。
だが、ハワイを取り戻すにはどうしても必要な任務だったのだ。
機動部隊はハワイにはおらん。
無論、偵察部隊は出すが、それ以外は全てハワイに向ける。
敵機動部隊がいない以上、直掩も必要無い。」
「分かりました、しかしなぜジャップの機動部隊はトラックにいるのでしょう。
我々が太平洋に出たことは敵も知っていた筈ですが…。」
「これは予測に過ぎんが、奴らは我々の真珠湾奇襲を恐れたのかもしれん。」
「どういうことでしょうか。」
「奴らも我々が太平洋に出てきたと聞き、一度は艦隊をハワイに向けた筈だ。
我々の艦隊を上回る大艦隊を。しかし、それほどの大艦隊となると帰港できる軍港はそうは無い。ハワイに帰港するのは危険すぎる。レーダーがあると言っても、
奴らが奇襲した時にもレーダーはあったのだからな。
だからトラック島にいたのだろう。」
「なるほど。」
「まあ、なにはともかく、機動部隊がいない今は絶好のチャンスだ。
あの真珠湾奇襲の復讐を果たす時が来たな。」
「ええ、やってやりましょう。」
ハルゼーの予測通り、一度ハワイ沖に展開した小沢中将率いる機動部隊は、
米軍の真珠湾奇襲を恐れて、ハワイ軍港への帰港を止め、
トラック島に帰港していた。米任務部隊の偵察機がそれを発見したのは、
帰港から一週間経った後である。
それを電探に捕らえた日本軍はトラック航空部隊から偵察機を出し、
重巡一隻を旗艦とする第五任務部隊を発見した。
とても任務部隊とは思えないほど脆弱な艦隊だったが、
トラック島航空部隊指揮官である東間少将は、
烈風二十機、彗星十一型六十機、天山艦攻二十二機、一式陸攻三十機を、
第五任務部隊に向け、重巡一隻、駆逐艦三隻を撃沈した。
ハルゼーがハワイ沖にいる頃、それについての議論がトラック島で成されていた。
「一体奴らは何が目的でここまで来たのでしょうか。」
第五航空戦隊司令原少将が疑問の声を上げる。
「捨て駒の偵察部隊と私は考えるが…。」
トラック島での最高指揮官である高須大将が腕組みをして唸る。
それに反論したのは黒島参謀である。
「いくら米軍とはいえ重巡を捨て駒の偵察に使うとは考えられません。
おそらく日本海軍の本拠地であるこのトラック島に殴り込みをかけ、
下がりつつある士気を上げようと目論んだのでしょう。
まあ、我が優秀な航空部隊が全艦轟沈させてしまったわけですが。」
「それはどうかな。」
むっとして黒島参謀が視線を向けた先には山口少将の姿があった。
「本拠地に殴り込みをかけるなら偵察機など出して電探にかかるような真似はせん。
私なら敵の航空機が出せない乾坤一擲の夜襲に賭けるがな。」
その言葉に角田中将も頷く。
「ああ、おそらく重巡が含まれていたのは偵察機を出す為だろう。
つまり我々の艦隊が、
トラック島にいるかいないかを知りたかったのではないかな。」
「しかし…。」
「確かに黒島君の考えよりは妥当だな。」
高須の言葉に黒島は言葉を詰まらせる。
「ということは…。」
「ええ、ホーン岬を廻航してきた艦隊が動き始めたと考えるべきです。」
「うむ、山本長官に連絡を取れ、許可が出たらただちにハワイに進路を取る。」
途端に慌ただしい空気に室内は満たされる。
いくら迅速な行動をとってもここから出港許可が出て、艦隊編成をし、
ハワイに向かうとなると最低でも八日はかかると考えられた。
「司令、敵偵察機に発見された模様です。」
予定ポイントで艦載機発艦を始めて十五分が経っていた時だった。
ハルゼーは無言で双眼鏡を覗く。
双発の偵察機が一機、艦隊上空を飛び回っている。
その偵察機の名は百式司令部偵察機、日本陸軍の偵察機である。
しかしこの世界では海軍バージョンとしての百式も作られており、
本機はそれである。名前は陸海両軍ともに同じ百式である。
「誰かあの胸糞悪い機体を落とす奴はいないのか。」
ハルゼーが呟くとほぼ同時に上空から一機のF6Fが急降下での一撃を加える。
煙を上げながら逃げ惑っていた百式偵察機は、
あっという間に周囲を囲まれ撃墜された。
ハルゼーは思わず口笛を吹いた。
「あのイカした野郎は誰だ。」
「尾翼を見たところ指揮官機ですな。おそらくカイム少佐でしょう。」
「奴が帰ってきたら酒でも振舞ってやるか。」
上機嫌のハルゼーはそう言うと上空で編隊を作りつつある航空隊を見つめた。
その見事な編隊はハルゼーに作戦の成功を確信させた。
次もよろしくお願いします。




