護衛艦隊建造なるか
少なくて済みません
護衛艦隊建造なるか
「私は断固拒否します。」
富岡大佐は山本大将にかみつくように言った。
「我が艦隊は敵艦隊を破るためのものです。
輸送船のお守をするためではないはずです。」
「まあまあ、落ち着きたまえ。」
永野修身軍令部総長はそういうと、山本に話しかけた。
「君の話はわかる。南方の資源を輸送する船は、日本にとって生命線になるだろう。
しかしな、軽空母を護衛艦隊に入れるのは、承知しがたいな。」
そういうと、永野は、山本が提出した護衛艦隊案をぱらぱらとめくる。
「私は、軽巡を旗艦とするこの案には賛成だ。どうかね、軽空母を
護衛艦隊に入れないなら了承してもいいと言っているのだが。」
「しかし、総長…」
何か言おうとした、富岡に永野は言った。
「君は、何を考えているのかね。君の護衛艦隊案は旧式揃いの駆逐艦、海防艦だ。
こんなものでは、輸送船の護衛は到底不可能だよ。」
それでも何か言おうとする富岡をさえぎり、山本が発言する。
「確かに、軽空母は、連合艦隊に必要不可欠なものです。
しかし、わが軍の駆逐艦の対潜戦闘は、いかんせん、良好とはいいがたいのです。
みな、水雷戦闘にばかり明け暮れていましたから。軽空母があれば、敵潜水艦、敵航空戦力にも、対抗できると私は考えています。」
「私も山本長官の意見に賛成です。」
渡辺大佐はそういうと、富岡をにらんだ、この二人は仲が悪い。
「わが軍の対潜電探は、もうすぐ、完成しますが、これは、九十七式になら、
搭載できます。軽空母の中でも旧式の、「風翔」「祥鳳」ならかまわないのでは、
ないですか。」
「ふむ、米内さんも、護衛艦隊の案は開戦前からだしていたしな、
まだ、前線の意見もきかなければならないが、よろしい。この案を可決するとしよう。」
「わかりました。」
富岡もしぶしぶ、といった表情で了承する。
軍令部から出ていく山本を永野が呼びとめた。
「山本君。」
「どうされました、永野さん。」
「南方作戦が成功するまでに、護衛艦隊は設立させるつもりだ。
しかし、連合艦隊は大丈夫かね。これが、できたら軽空母二隻、軽巡二隻
駆逐艦十隻が抜けるのだよ。」
「永野さん。」
永野の真剣な顔を見て、山本は言った。
「これからは、空母いや、航空機の時代です。戦艦が主砲を打ち合う
時代は、終わりかけているのです。ただ、私は航空機がすべてだとは
思っていません。いずれ、航空機の時代も終わりを告げるでしょう。
私も日露戦争を体験した者です。戦艦が主砲を打つ姿は、心に響きます。
ですが、それはもう過去のものなのです。」
そういうと、彼はさびしそうに笑った。大艦巨砲主義である永野は驚いた。
山本は航空機万能主義だと、思っていたからだ。
「そうか…、私は前線から身を引いた者だ。だが、わたしは、
まだ戦艦は活躍できると思っているよ。」
そういうと、永野は続けた。
「君の思う通りにやりたまえ。真珠湾奇襲か…私には考えつきもしなかったことだ。
たしかに、時代は変わりつつあるのかもしれん。君のような者が
皇国をひきいてくれるなら、なんとかなるかもしれんからな。」
「私はやれることをやるだけです。永野さんもまだまだ現役なのですから、
協力して、日本を勝利に導いていこうではありませんか。」
二人の海軍大将はそういうとはるか空を見た。抜けるような青い空だった。