サンフランシスコ空襲
すこしばかり急ぎ足ですが、よろしくお願いします。
サンフランシスコ空襲
角田中将の率いる第二機動部隊がサン・ディエゴを猛撃していた頃、
小沢中将の率いる第一機動部隊がサンフランシスコ近海二百四十海里に到着した。
その陣容は
空母「信濃」「葛城」「赤城」「加賀」「蒼龍」「飛龍」
戦艦「大和」「武蔵」
重巡「青葉」「衣笠」「利根」「筑摩」「高雄」「愛宕」
軽巡二隻、駆逐艦一八隻の計三十四隻の艦隊である。
搭載機はおよそ六百四十機。
第二機動部隊と第三機動部隊の機数を圧倒的に上回っている。
それは単に巨大空母信濃、葛城、そしてミッドウェー海戦での大破の後、
改修された、赤城、加賀のおかげだろう。
戦艦部隊は長年連合艦隊旗艦を務めた「長門」そして、その姉妹艦の「陸奥」である。
話は変わるが史実での「陸奥」ほど数奇な運命を辿った艦はなかなか無いだろう。
長門級戦艦の二番艦として建造途中だった陸奥だが、
ワシントン海軍軍縮条約では「未完成艦は廃艦とする」との条件が含まれたため、
英国、米国は陸奥の廃艦を主張した。
これに対し日本は熱心な交渉を続け、米国のコロラド級戦艦三隻、
英国のネルソン級戦艦の保有を認める代わりに陸奥の保有を許された。
この七艦はビッグセブンと呼ばれ、最強の戦艦として名を馳せることになる。
しかし、太平洋戦争では長門とともに温存され、
一九四三年六月八日、原因不明の爆発事故により、長門とともに戦うこと無く、
その役目を終えた。
この爆発事故には乗組員内のいじめ、三式弾の暴発、放火など諸説あり、
解決には至っていない。話を元に戻そう。
サンフランシスコへの攻撃方法はサン・ディエゴと大差は無い。
「攻撃隊発艦せよ」
小沢中将の声と共に、旗が振られ、烈風が速度を上げ甲板を走っていく。
第一次攻撃隊は、
烈風百四十二機、
彗星十一型百十機、
天山改四十機、
天山六十六機の計三百五十八機である。
この内、半数の烈風が爆装しているが、かなり敵を嘗めた行為である。
爆装した戦闘機は旋回性能などがかなり下がる。
高馬力の烈風だからまだマシだが、零戦が爆装すると運動性能は極端に落ちる。
それでも、爆装した烈風に乗る搭乗員は敵機を爆装したまま、撃墜する自信があった。
もはや、米軍搭乗員と日本搭乗員の間には天と地ほどの実力の差がある。
ハワイ占領作戦では爆装したままの彗星に戦闘機が撃墜されるということも起きた。
爆撃機が戦闘機を撃墜するのは珍しいことではない。
あの坂井三郎もドーントレスの後部機銃を浴び撃墜されかけた。
ただ、それは後部機銃であって、固定機銃で戦闘機を撃墜した爆撃機はあまり聞かない。
投下後の彗星ならともかく爆装した彗星にやられるなど本来そうあることではない。
撃墜した搭乗員は、
「アメさんの腕はここまで落ちちまったのかい。」との言葉を甲板上で吐いたくらいだ。
ともかく、第一次攻撃部隊はサンフランシスコを目指して歩を進めた。
「司令官、レーダに機影が映りました。」
「ついに来たか、機数はどのぐらいだ。」
「およそ、三百五十機ほどかと思われます。」
「敵機動部隊の位置は掴んでいるな。」
「ええ、やっと、ジャップの野郎に仕返しができそうです。」
「ああ、ジャップの攻撃隊には迎撃機を当てろ。
それと、オークランド基地に連絡を入れろ。
例の奴を全機、機動部隊に向けろとな。」
「全機ですか。」
そう尋ねる参謀に司令官のトマス中将は怒鳴った。
「全機だ。ここまで来て、出し惜しみをしてどうするのだ。」
「了解しました。」
慌ただしく各基地に連絡を入れる参謀を尻目にトマスは上空を睨みつけた。
サン・ディエゴの司令官であるブラッドレー中将と違い彼は勇猛な男である。
「ジャップは皆殺しだ。」
そう呟くと彼は視線を戻し参謀たちに命令を出し始めた。
とあるビルの中に避難していた、会社員のビリー・カッセルは、
太陽の光が途切れるのを見て、視線を上空に向けた。
その視線に広がるのは空を覆い尽くすジャップの航空機部隊だった。
「ジャップの野郎、ついに本土まで来やがった。」
そう悪態をついたのは同僚のアレンである。
「我が国の航空機はどこに行ったんだ。」
アレンがそう言ったのと同時に後方からきらきらと輝くものが見えてきた。
「アレン、双眼鏡を持ってるか。」
「あるわけないだろ、ビリー。いや待てよ、
確か部長がデスクの中に持っていた気がするな。
あの人、バードウォッチングが趣味だから。」
そう言ってごぞごぞと部長のデスクを漁る。
「まずくないか。」
「お前が言ったんだろ、ビリー。それにどうせ空襲でごちゃごちゃの騒ぎになるんだ。
誰も気付かねえよ……、ほらあったぞ。」
「ありがとな。」
そう言ってビリーは双眼鏡で後方の輝くものを見た。
「やっぱり、アレン、我が国の戦闘機だよ。」
「ほんとか。」
ビリーから双眼鏡を受け取ったアレンは歓声を上げた。
五分も立たないうちに米迎撃機も視認できるところまできた。
「おい、数は我が国の方が多いぞ。これはもらったな。」
嬉しそうに言うアレンを見てビリーも笑みを浮かべた。
それが間違いだということに気付くのは十分後のことである。
オークランド基地司令官テイラー大佐は、
トマス中将からの連絡を聞いて」にやりと笑った。
「全機発進させろ、ジャップの奴らを地獄に落としてやれ。」
テイラーの眼に映るのは見上げるほど大きな爆撃機である。
B-17を上回る大きさのこの爆撃機の名前はB-29。
史実では超空の要塞として、日本本土空襲の役を担った機体である。
爆弾搭載量は九トン。全長は三十メートルを超える。
それが三百機、オークランドの飛行場に並んでいる。
直掩機にはF6Fが百二十機付く予定だ。
B-29がプロペラを回転させ始めると、テイラーは再び笑みを浮かべた。
米軍の反撃が始まろうとしていた。
その頃、サンフランシスコは壊滅状態になっていた。
迎撃に向かった五百機の米戦闘機はそのほとんどを撃墜され、
残ったわずかな機体も再び空に上がることは無かった。
ビリーとアレンは茫然とその光景を見ていた。
ビルに爆弾が当たらなかったのは運が良かったとしか言いようがない。
「アレン。」
「なんだ、ビリー。」
「この戦争は勝てないかもしれないな。」
「……。」
沈黙でその問いに答えたアレンは上空を見た。
迎撃機もジャップの攻撃隊も去った後の空はひどく明るかった。
悩んでいるんですが、
この作品は二部にしようかなと思っています。
できれば皆様のご意見を聞かせてもらいたいです。
よろしくお願いします。