疲労する護衛艦隊
短いです、すみません。
疲労する護衛艦隊
「もうこれでハワイを見るのは何回目ですかね。」
第二護衛戦隊、参謀真下大佐がぼやきながら、
第二護衛戦隊旗艦軽巡「多摩」の艦橋に上がってきた。
「四回目じゃなかったか。」
そう言った野崎少将も目に隈ができている。
軽空母の海鷹から対潜電探装備の九十七式艦攻が発艦していくのが見える。
最近、護衛艦隊に編入した神鷹級軽空母の二番艦であり、
そのスペックは、
排水量一万七千トン
全長百八十八メートル
全幅二十四,八メートル
機関十三万馬力
速度二十四,五ノット
兵装
十二,七センチ連装高角砲四基
二五ミリ連装機銃十二基
搭載機数三十一機である。
「搭乗員も疲れてきているでしょうね。」
「いや、我が護衛艦隊は二直制をとっているから、それほど疲れてはないはずだ。」
「そうでしたね。」
恨めしそうに真下は艦功を見ていた。
ハワイ占領後の護衛艦隊は多忙を極めていた。
ハワイ軍港から駆逐艦六隻、輸送船二十隻、タンカー六隻を鹵獲し、
駆逐艦は護衛艦隊へ編入され、少しばかり補充されたとはいえ、
七個戦隊で、
東南アジア、中部太平洋に渡る日本の補給線を守るのは至難の技だった。
第二護衛戦隊も東南アジアからいままで、
二ヶ月間、一度も土を踏んでいない。
それに潜水艦は昼夜区別なく気を使わなければならないため、
非常に疲れる。
「しかし、ハワイからこんなに物資を運んでどうするのでしょうか。
せっかくハワイを占領したのに、これでは骨折り損ではないですか。」
「ハワイは補給が続きそうにないことを軍令部もわかっているんだろう。
ハワイは米本土空襲が終了次第、撤退すると木村さんも言ってたからな。」
「そうでしたか。しかし、もったいない気がしますね。」
「しかたないだろうな。
ハワイは日本が占領し続けるには遠すぎる。
今でさえ俺らはくたくたじゃないか。」
「ええ、正直なところ早く上陸したいものです。」
「後、四日で本土に戻れる。
確かそのあと、一週間の休みがあったはずだ。」
「長官、自分は愛媛出身なのですが、
よかったら温泉でもいきませんか。」
「気持ちは嬉しいが、木村さんに報告に行かなければならんからな。
残念だが暇がなさそうだ。次の機会にはぜひ頼む。」
「分かりました。」
真下はそう言うと艦橋から出て行った。
多摩の周囲にはおよそ三十隻の輸送船が十六ノットの速度で、
日本本土へ進路をとっている。
野崎少将は二日振りの仮眠を取るべく自分の部屋に上がって行った。
「そうか、やはりハワイの補給線維持は大変かね。」
山本は木村護衛艦隊司令長官の報告を聞き答えた。
「はい、かなり疲れが溜まっているようです。」
「もう少しだけ、辛抱してくれと伝えてくれ。
赤城、加賀の改装が終了次第、米本土空襲作戦は開始する腹積もりだ。
それに英国から会談の要請が来たと外務省から報告があったよ。」
赤城、加賀は二十センチ砲を撤廃し、搭載機の拡大を目指していた。
ほとんど改装は終了している。
搭載機数は百四機になると見込まれている。
ちなみにハワイからの莫大な物資は日本本土に七割、
ミッドウェーに三割が運ばれている。
それを使ってミッドウェー島の要塞化が行われているのだ。
ミッドウェーには百機ほどの航空機も整備されており、
ここを占領するのはかなり犠牲を伴うことになるだろう。
「英国から会談要請ですか。」
「ああ、おそらくスエズが独逸に占領されたから、
インド洋の英海軍部隊の帰還が難しくなったんだろう。
それに、独逸は正規空母を就役させたらしいからな。
英国本土が危うくなり、
英国もなりふりかまっていられないと言うとこだろうな。」
「我が国と講和するということですか。」
「わからんな、まあインド独立が夢ではなくなってきたということは確かだな。」
「ボースとの約束がようやく果たせるわけですな。」
「そうなるな。護衛艦隊だが、
戦時護衛用駆逐艦六隻がまもなく就役する手筈になっている。
大変なのは重々承知しているが、後三週間ほど頑張ってくれ。」
「了解しました。部下達に伝えておきます。」
退室した後、木村中将も眠い目を擦りながら欠伸をする。
自分の頬をペシリと叩くと彼は護衛艦隊旗艦木曽に戻っていった。
自分も愛媛出身です。
温泉はともかく、いい所です。