烈風飛翔
今回は長めです。
よろしくお願いします。
烈風飛翔
一九四二年十月十三日午後五時ごろ、
ドーントレスのパイロットである、ネリ中尉は一時間に及ぶ偵察の末、
ついに日本艦隊を発見した。
その海を覆い尽くすごとき艦隊に彼は恐怖より感嘆をおぼえたが、
ハワイへ急いで連絡を行った。
「我、敵艦隊発見す。空母十二隻、戦艦十隻、他艦艇多数。
二百隻を超えるかと思われる。後方に輸送船団あり、
方位百八十五度、味方からの距離四百五十海里。」
その報告を受けたニミッツは呟いた。
「遠すぎるな、B-17なら出せるが、戦闘機の護衛無しは無謀だろう。」
「時間的にもジャップも今日の攻撃は考えておりますまい。
しかし、空母十二隻ですか…。予想より多いですな。」
「ああ、だがここで返り討ちにしておかなければ、
米国は立ち直るのは難しいだろう。
我々はなんとしてもジャップを撃滅せねばならん。」
「もちろんです、長官。戦艦部隊は軍港から出港し、
旧式はハワイ沿岸に、新鋭戦艦は重巡、軽巡、駆逐艦を引き連れて、
ハワイ近海に進出しています。明日、夜戦になれば彼らが活躍するはずです。」
この部隊を率いるのはミッドウェーでも戦艦部隊を指揮したリー中将である。
「しかし、ジャップもレーダーを装備し、夜戦は奴らの御家芸だ。
しかも奴らにはあの怪物がいる。勝てるのかね。」
「リー中将ならやってくれるでしょう。
彼の猛訓練のおかげで戦艦群の技量は他を圧倒しています。」
「そうか…、今回は厳しい戦いが予想される。
各司令官達に警戒を徹底するよう言っておいてくれ。」
「了解しました。」
「隊長、いよいよですね。」
大鳳第一分隊二番機の山下少尉が、第一分隊隊長工藤大尉に話しかけた。
「ああ、明日早朝には第一次攻撃隊が発艦する予定だ。
俺らの部隊は、今回は攻撃隊の護衛だ。角田長官、直々の命令らしい。」
「我々に期待していると考えてもいいのでしょうか。」
三番機、黒江少尉が質問する。
「どうだろうな。だが敵の迎撃が厳しいことは十分予測される。
前のような奇襲は無理だろうしな。」
「でも、こちらには烈風がありますよ。
弾数も多いし、防弾性能もいい。俺こいつなら何機だって落とせますよ。」
「頼りにしているよ。烈風もお前らもな。そろそろ飯だ、行くぞ。」
翌日の攻撃に備えて彼らは早めに食事をし、そして早めに就寝した。
翌日、早朝。それぞれ各部隊の指揮官の訓示の後、
第一次攻撃隊が発艦した。
ミッドウェーの基地航空隊との協力作戦である。
陣容は
烈風百五十八機、
零戦五二型五十機、
彗星十一型百四十二機、
天山百十二機、
一式陸上攻撃機六十機の計六百十二機である。
直掩機は烈風百六機である。
戦闘用軽空母はカタパルトを装備しているため、
大型である、天山、烈風の運用を可能にしている。
攻撃隊隊長は村田中佐である。
真珠湾からのベテランで、ミッドウェー海戦でも活躍した。
戦闘機隊隊長は折笠少佐。
爆撃隊隊長は江草少佐である。
折笠少佐は日本航空隊最強の戦闘機搭乗員として名を馳せており、
江草少佐はミッドウェー海戦の指揮官であった。
他の搭乗員も大日本帝国が誇る世界最高の錬度の搭乗員である。
まさに国家の命運を賭けた作戦である。
彼らは完璧な編隊を維持しながら米海軍の本拠地であるハワイに向かって、
速度を上げていった。
ハワイのレーダーに日本軍の第一攻撃隊が映ったのは、
彼らが発艦してから一時間ほど経った後だった。
担当員のテリー少尉はレーダーに映る機影のあまりの大きさに愕然とした。
それでも彼は必死に司令部に連絡した。
「ジャップの攻撃隊を捕捉。ハワイ北西からこちらに向かってきている。
数は…、わからない。レーダーを覆い尽くすほどだ。」
テリーの連絡を受けた司令部では命令が飛び交う。
「戦闘機を上げろ。」
「偵察機がもうジャップの艦隊を発見している。
攻撃隊を出せ。」
「長官、一時避難をお願いします。」
ニミッツは声を張り上げる。
「落ち着きたまえ。」
静かになった参謀たちに向かい彼は話しかける。
「迎撃の準備、および攻撃隊を発進させるんだ。
私は避難しない。ここで、みなと共に闘うよ。」
「しかし、長官…。」
「私は奴らから一歩も退かん。
これは私が決めたことだ。誰にも反対はさせん。」
ニミッツの熱気に司令部は再び騒然となる。
迎撃として、
F6F八十機、
F4F四十機、
P-38四十二機、
P-40四十五機、
バッファロー四十機の計二百四十七機が、
攻撃隊として、
F6F三十四機、
F4F三十六機、
ドーントレス九十八機、
アベンジャー百二機、
デバステーター三十六機、
B-17二十八機の計三百三十四機が飛び立った。
ほぼハワイ航空隊の全兵力である。
迎撃隊隊長ケルン中佐は前方に空を覆い隠すような航空隊を発見した。
「敵攻撃隊発見。迎撃に移れ。」
敵はすでにこちらを発見していたのだろう。
戦闘機群が見事な編隊でこちらに突っ込んでくる。
だが、米迎撃隊はどこか余裕を持った目で日本戦闘機を見ていた。
ジークにはもう負ける気がしなかったからだ。
ケルンは愛機のF6Fのスロットルを一気に押し、敵戦闘機に突っ込んだ。
その時、彼はジークにしては大型なこと、そしてすらりとした機体とは裏腹に、
凄まじい、速度を持っていることに気付いた。
彼は急いで、部下たちに呼びかける。
「敵はジークではない、新型だ。」
彼が攻撃しようとした機体は左旋回でこれをよけると、反転急上昇し、
一気に急降下してきた。
ケルンも急降下し、これを逃れようとする。
しかし、敵は一向に機首を上げる様子がない。
九百キロに時速計が差し掛かろうとし、彼は限界を感じ、機首を上げる。
凄まじい圧力に耐えながら彼が最期に見たものは、
急降下を続ける烈風だった。
衝撃音と共に彼の意識は薄れていった。
航空基地には敵攻撃隊発見の報告が入ってきたが、
さらに迎撃隊から敵新型戦闘機確認の報が入り、
三十分もすると迎撃隊からの報告が一切途絶えた。
返答を呼びかけるが全く反応がない。
「どういうことだ。」
そう呟いた航空基地司令官の声に誰も反応しなかった。
疑問の声を出した司令官も薄々感づいていた。
迎撃隊がおそらく全滅したということに。
だが、二百四十七機の迎撃隊が、
たった三十分で全滅したという事実を受け止めることができなかったのだ。
それでもいつまでも呆けているわけにはいかない。
彼は司令部に電話をかけた。
「どうした、クレイン。」
ニミッツの声が聞こえ、航空基地司令官クレイン少将は汗を拭う。
「敵は新型戦闘機を出してきたようです。
迎撃隊からの報告が途絶えています。
……、おそらく全滅したかと。」
「なんだと……。」
「敵はあと十分もすれば司令部上空にたどり着きます。
残りの戦闘機を全機出撃させてください。」
「わかった。君は避難したまえ。」
「すこしばかり遅かったようです。」
彼は上空からの爆音を聞きながら、ニミッツに答えた。
彼の眼に爆撃機が基地司令部に一列に突っ込んでくるのが見えた。
激しい爆発音とともに司令部は崩壊し彼の体は四散した。
工藤が、ハワイ上空を乱舞する味方艦爆、艦攻隊を眺めていると
四十機ほどの敵機がこちらに接近してくるのを見つけた。
彼は無線で列機に呼びかける。
「敵機発見。数はおよそ四十機。」
愛機のスロットルを押し上げ速度を上げた彼は、
敵機の上空で旋回しながら攻撃するタイミングを見定める。
これは飛龍の結城少佐が一番得意とする戦法だが、
工藤もこれを得意としていた。
彼は突然敵に襲いかかるとたちまち二機を撃墜。
一機で四十機相手に突っ込んでくる戦闘機に敵は混乱している。
工藤が三機目を片づけた頃、
ようやく味方戦闘機が米戦闘機に攻撃を仕掛けていった。
六航戦最高の搭乗員と謳われる工藤もさすがに六機も撃墜すると
弾数は残り少ない。
彼は上昇し、周りを見渡した。
滑走路は滅茶苦茶で、ドッグも煙を上げている。
対空陣地もかなり損害を受けたらしく対空砲火はまばらだ。
上出来と言っていい戦果だろう。
第二次攻撃隊がさらに攻撃を加えれば、
軍事基地としてのハワイは崩壊すると考えていいだろう。
上空での戦いを見ていたニミッツは双眼鏡から目を離すことができなかった。
一機の敵戦闘機が四十機の味方戦闘機を翻弄するのを見ながら彼は呟いた。
「化け物め。」
幸い、司令部は攻撃を逃れることができたがハワイは壊滅状態だ。
浮き砲台としていた旧式戦艦も敵攻撃隊の空襲を受け大破している。
無事なのはリー中将の戦艦部隊ぐらいのものだ。
ニミッツはリー中将に日没になり次第、ジャップに攻撃を仕掛けるよう命じた。
ニミッツはまだまだ退く気はなかった。
少しテンポが速い気もしますが、
頑張りたいと思います。