ミッドウェー海戦(八)
今日は二話投稿できました。
次でミッドウェー海戦は終わりです。
ご意見ご感想お待ちしています。
ミッドウェー海戦(八)
赤城戦闘機隊長折笠少佐は二機目のF6Fを撃墜すると周りを見渡した。
二航戦はタッチの差で兵装転換を終了させ、攻撃隊は米機動部隊に向かって行った。
攻撃隊の陣容は
零戦五十二型四十五機、
彗星十一型五十二機、
九十九式艦爆二十四機、
天山艦攻八十六機の計二百七機である。
空母直掩には八十二機の零戦五十二型が上がっている。
「命中弾は今のとこ、ゼロか…。」
彼は機体を上昇させ、飛龍に急降下しようとしていた爆撃機を撃墜する。
さすがの折笠少佐も残弾が残り少なくなってきた。
その時、彼の目に赤城に向かって急降下していく敵爆撃機の編隊が見えた。
三機の零戦が追いすがって銃弾を放ち、二機の艦爆が煙を上げるが、残りの十機は
そのまま突っ込んで行く。
凄まじい対空砲火も八機の敵機はくぐり抜け、爆弾を投下した。
「敵、爆弾投下。」
見張員の絶叫を青木艦長は
「取り舵一杯。」
の絶叫で返す。
三発目までは何とか避け切ったが、四発目に遂に命中弾が出た。
飛行甲板の中央を四百五十キロ爆弾が突き破って爆発した。
衝撃で艦橋の人員は吹き飛ばされる。
「大丈夫ですか、長官。」
「ああ、心配ないよ、参謀長。」
南雲がそういって体を起こした時、艦橋から上空を見ていた参謀が叫んだ。
「爆弾です。」
その声は南雲には届かなかった。
「長官。」
爆弾を見た草加参謀長に覆いかぶされた南雲は艦橋に直撃した爆弾により、
参謀長もろとも四散した。
飛龍艦橋で指揮を執っている山口少将の上空にも六機の爆撃機が急降下してきた。
「敵機、急降下。」
飛龍の機銃が火を吹くがいまだ撃墜された機は無い。
上空の零戦が追いすがるがとても追いつきそうにない。
敵爆撃機が爆弾投下しようとするその時だった。
轟音と共に六機の米爆撃機が四散していく。
後方を振り返った山口少将の目に映ったのはこちらに主砲を向ける、
連合艦隊最強の戦艦「大和」「武蔵」だった。
三式弾を発射した主砲からは黒い煙が出ている。
戦艦を無用の長物と罵ってきた山口少将だったが、
この時ばかりは戦艦の迫力に圧倒された。
「赤城、加賀からは煙が出ているようですな。」
「うむ、少し遅かったか…。」
連合艦隊旗艦武蔵の艦橋で山本は瞑目した。
「南雲の安否が心配だが、ここは機動部隊を守ることが先決だ。
全艦突撃、機動部隊の周りに陣形を取れ。」
「了解しました。」
三十分後、米攻撃隊の攻撃が終わったころ戦闘の経過が入ってきた。
「報告します。赤城に命中弾三発、大破、
そして一発は艦橋に命中し…、南雲長官、草加参謀長ら艦橋の者は
全員戦死されたようです。
加賀には命中弾二発、魚雷一発が命中、中破ですが
缶がやられたようで二十ノットが限界です。
大鳳、海鳳、飛龍、蒼龍は命中弾なし。
大鳳は至近弾で甲板がささくれだったようですが、
応急修理で問題ないそうです。他駆逐艦二隻大破、重巡一隻が中破です。」
「南雲を失ったか…。良い提督を亡くしてしまったな…。」
山本はしばし目を閉じると命令を下した。
「機動部隊の指揮は私が執る。
一航戦及び被害を受けた艦は第六水雷戦隊の護衛を受け後方に下がれ。
二航戦、六航戦だけでは航空機を収容しきれまい。
大西君の三航戦を呼んでくれたまえ。」
山本はそういうと続けた。
「あとは攻撃隊の出来しだいだ。
出来れば敵空母二隻は戦闘不能にしてほしいが…。」
そのころ、江草少佐を指揮官とする攻撃隊は米機動部隊の上空にたどり着いていた。
米直掩隊は零戦に任せ、攻撃隊は空母に向かって突撃していく。
江草は史実でも最高の急降下爆撃のエースとして名を馳せていたパイロットである。
字は「艦上爆撃機の神様」であり、その腕前はまさに至高の物だった。
雷撃機の隊長は真珠湾でも活躍した村田少佐であり、
攻撃隊の錬度は最高潮に達している。
「一航戦は前方の空母をやれ。六航戦は中心の空母を、二航戦は後方の空母だ。」
江草少佐はそういうと急降下に移った。
米機動部隊旗艦「ホーネット」の艦橋では、
迫りくる日本攻撃隊をスプルーアンス少将が見ていた。
「どうやら、艦爆隊のなかに新鋭機がいるようですな。」
そういったのは珊瑚海海戦を体験したデリー艦長である。
「ジャップも新鋭機を出してきたか…。」
スプルーアンスはそう言うと命令を下した。
「対空戦闘準備。」
空を覆うような攻撃部隊は整然な編隊を維持しつつ、
米機動部隊の上空にたどり着いた。
敵機は真上に来ている。
ということは、敵機は垂直に近い急角度で突っ込んでも、
爆弾を命中させる自信があるということだ。
ホーネットは全速之字航行で回避に移る。
その回避行動を見越したように二十四機の艦爆が急降下を開始した。
対空砲火はいまだ時限信管である。
六百キロを遥かに超える速度で突っ込んでくる艦爆には、
なかなか当てることができない。
このまま突っ込んでくるのではないかというほど接近してきた敵艦爆は、
高度五百で爆弾を投下した。
着弾の凄まじい衝撃がホーネットを襲った。
それも一発きりではない、計九発の五百キロ爆弾が命中したのだ。
「被害状況知らせ。」
なんとか絞り出したスプルーアンスの声に報告員が答えた。
「弾薬庫に火が回ろうとしています。
司令官、総員退艦許可を。」
そういうと通信が途切れた。
艦橋からはサラトガ、ワスプが煙を上げているのが見てとれる。
だが災厄はまだ終わったわけではなかった。
「敵雷撃機接近、魚雷発射しました。」
見張員の声に艦長は取り舵の命令を下すが、
缶室のやられたホーネットの動きは緩慢だった。
十六発の発射された魚雷の内七本が命中した。
艦の悲鳴をあげる声がスプルーアンスには聞こえた気がした。
「総員退艦。」
スプルーアンスは命令を下すと艦橋にいる艦長を見た。
「艦に残ることは許せないよ、デリー。」
「……。わかりました、司令官。でもあなたが先に退艦してください。」
スプルーアンスは黙って頷くと接近してきた駆逐艦に乗り込んだ。
ジャップの攻撃隊は風のように去って行った。
損害は、
ホーネット撃沈、ワスプは大破しているが航行不可能。
サラトガはまだ中破の判定だった。
他重巡三隻大破、駆逐艦四隻が撃沈した。
しかし、攻撃隊の報告はスプルーアンスの愁眉をひらくものだった。
ロス少佐の報告によれば敵空母二隻撃沈、一隻小破、重巡一隻中破という
開戦始まって以来の快挙と言えた。まあ実際は、空母二隻は大破なのだが…。
スプルーアンスはサラトガに旗艦を移し第二次攻撃を命令した。
なんとしてもここで日本機動部隊を叩いておきたかったからだ。
彼はフレッチャー少将と合流すると第二次攻撃部隊に激励の言葉をかけた。
六十六機の攻撃隊はすぐさま発艦作業に移っていった。
まあまあ長く書けました。
今後ともよろしくお願いします。