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異説大東亜戦争  作者: たこ焼き
一章
29/80

ミッドウェー海戦(二)

遅くなりました。

まだ前半戦ですがよろしくお願いします。

ミッドウェー開戦(二)





「露頂しろ。深さ一八。」

伊168潜水艦艦長田辺少佐は帽子を逆向けにしながら命じた。

「深さ一八です。」

「潜望鏡上げろ。」

潜望鏡が微かな電動モーターの音と共に、

少佐を乗せてエレベータごと上がっていく。

田辺少佐は潜望鏡にかじりついた。

十字照準線の入った視界に、海面の広がりと白い一筋の線が見えた。

白い線は、

島を取り囲む珊瑚の堡礁に外洋のうねりがぶつかって立てる波である。

つまり、そこに環礁ないし島があることを示している。

少佐は敵艦の気配を覗いながらゆっくりとその島に近づいた。

「降ろせ。」

少佐は命令すると、司令部にいる部下達を見返った。

「間違いない。ミッドウェーだ。四発の大型機と建物群が見えた。」

「四発の大型機はおそらくB-17でしょう。」

「そうだろうな。」

夕闇にまぎれて、さらに緻密な偵察を行った後、

島を離れた伊168は潜水部隊司令部に打電した。

偵察機を上げることができなかった日本軍にとって、

この日、唯一の敵情報告だった。

潜水部隊司令部から軍令部、

そして武蔵に報告が届いたのは夜遅くになってのことだった。

山本長官はそのとき渡辺参謀と将棋を指していたが、そこに報告が届いた。

「ミッドウェー敵情報告。

一、昼夜連続飛行機をもって厳重なる警戒を実施しつつあり、

目視せる飛行機大小三十機を下らず。

二、サンド島の南方海面に哨戒艇らしきもの一隻のほか艦艇を認めず。

三、陸上には起重機多数あり、施設拡張中の模様。以上です。」

「ふむ、やはり相当警戒しているようだな。

艦艇らしきもの認めずということは航空兵力主体ということか…。」

「しかし哨戒部隊はなにも言ってきませんな。

早い潜水艦はそろそろ哨戒線についてもいいはずですが。」

渡辺参謀は気付くべくもなかったが、

そのときすでに敵機動部隊は日本潜水艦の

哨戒線をくぐり抜けてしまっていたのである。

一部の潜水艦部隊が進出に遅れてしまったからである。

「敵は間違いなく出てくる。」

山本は自分言い聞かせるように言った。

「問題はどちらが先に叩けるかだ。

南雲は索敵を軽視したりはしないと思うが…。

まずは索敵の勝負だな。」





六月二十三日の朝、第一機動部隊は新たな困難を迎えていた。

いったん霧を抜けはしたのだが、

南下してきた別の霧が機動部隊をすっぽり包み込んでしまったのである。

だが、その日の十時三十分には変針命令を出さなくてはならなかった。

「長官、まもなく変針時間ですが…。」

「分かっておる。」

南雲長官は椅子に深く座ったまま身じろぎもしなかった。

「なんとか探照灯信号でいけそうか。」

「無理だと思います。一艦でも受信漏れがあると、全軍が混乱します。」

「うーむ、無線を使うしかないのか…。」

「しかし長官、ここでこちらの所在を暴露するのは危険すぎますぞ。」

草加参謀長は苦い顔をして言う。

「分かっておる。だが、敵は出てきていないかもしれん。

ハワイからミッドウェーまではどれほど急いでも二日はかかるのだぞ。」

そういった南雲の頭の中には敵に暗号を読まれているという可能性は微塵もなかった。

「敵が来ると見て、行動すべきです。」

草加少将は南雲にそう言った。南雲長官には少し迷いがあるようだ。

自分が助けなければならないだろう。そう草加は思った。

「………やむをえません。ここは電波を出しましょう。

微力発進で変針命令を出します。」

南雲はゆっくり頷いた。

「わかった、そうしてくれ。」





その電波は敵には届かなかったが武蔵には届いた。

「無線防止を破ったか、とんでもないことをしてくれる。」

色をなした宇垣に山本は時計を見ながら返事した。

「機動部隊は変針の時間だ。やむをえない事情があったのだろう。

また霧にでも巻かれたのかもしれん。」

武蔵以下の主体は、第一機動部隊からそのとき五十五海里近く離れていた。

それだけ離れていれば、気象が違うのも当然である。

そのとき、電信室から伝令が新たな電信紙を持って飛び込んできた。

「軍令部からの至急信です。」

黒島がひったくるようにして受け取り、読み上げた。

「発、軍令部作戦課、宛、連合艦隊司令部。

第六艦隊敵信班より通報。六月二十一日、敵空母らしき通信傍受す。

推定位置、ミッドウェーの北東百七十海里。」

宇垣が椅子を鳴らして立ち上がった。

「やはり、敵は出てきたわけだな。」

「うむ。」

さすがの山本も顔に朱がさっと差した。

「赤城はこれを受信したかな。転信せんでもよいか。」

「これは第一航艦宛にもなっています。」

宇垣が言った。

「間違いなく受信しているでしょう。」

「私もそう思います。」

黒島中佐が言った。

「無線防止は守るべきです。」

しかし山本はきっぱりと言った。

「やはり転信すべきだ。念には念を入れた方が良い。

万一、赤城が受信しておらぬと南雲は手探りのまま進むことになる。

そんな危険は見逃せん。黒島、すぐに転信しろ。

敵機動部隊進出の見込み高し、敵に備えよ。」

そこまで山本に言われては、ふたりとも逆らえない。

「はっ。」

黒島はすぐに電信紙をつかむと部屋を出ていった。




山本の危惧は当たっていた。

軍令部からの通信は電波の弱い赤城の電信室は受け損ねていた。

武蔵からの通信が届くと共に、南雲は驚きと感動を覚えた。

山本長官は約束を守ってくれたのだ。

こちらが無線防止を破ったことへの叱責は無く、

かわりに重要通信を転信してくれた。

「敵はやはりいたぞ、参謀長、明朝より策敵機を飛ばすぞ。

二段索敵で丁寧に探っていくのだ。」

「分かりました。」





その時点で、近藤長官率いる攻略部隊は輸送部隊と合流し、

ミッドウェーから七百海里の距離まで近づいていた。

大西少将の第二機動部隊はそれより百五十海里ほど先行している。

これは多少早く進みすぎだったが、偵察機を飛ばし慎重に進んではいる。

ミッドウェーは次第に慌ただしさを増していった。




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