米機動部隊新指揮官誕生
今回は早くできました。
米機動部隊新指揮官誕生
ロシュフォート達暗号部隊の活躍により、五月十日に日本海軍の次の目標が
ミッドウェーであることを知ったニミッツには、
解決していかなければならない問題が数多くあった。
まずひとつは、
日本軍の次の攻略目標についての意見が陸軍と海軍で分かれていたことである。
陸軍はハワイ説が強く、またアラスカ説も強かった。
アラスカ説に関してはニミッツから見ても頷ける線ではあった。
いくら南方の石油資源を手に入れたといっても、
日本は石油を喉から手が出るほど欲しがっている。
アラスカから発掘される石油の量は日本の艦隊を潤すには十分すぎるほどの量である。
しかし、日本の戦争指導者はそれほど無能ではない。
本土から遠すぎるため米国に大打撃を与えられないからだ。
やはり、ハワイから本土を狙うほうが戦略的価値は高い。
ミッドウェーでの海戦が全てを左右していくことになるだろう。
ニミッツはミッドウェーでの戦闘に太平洋艦隊の総力を結集することを決意、
その陣営は
空母「ワスプ」「サラトガ」「ホ―ネット」
戦艦「ノースカロライナ」「ワシントン」、
最新鋭の「サウスダコタ」「インディアナ」
重巡六隻、軽巡十二隻、駆逐艦二十八隻というまさに現太平洋艦隊の総力であった。
しかし、米海軍には根本的な不安があった。
それは敵がこれほどやすやすと解読される暗号を流し続けていることである。
これは敵の謀略ではないのか、海軍中枢ではそれを疑っていたが、
ニミッツは否定した。
日本海軍は正攻法で米艦隊を撃滅させる戦力をもっているのだからと。
米空母に搭載する戦闘機はほとんどF6Fになった。
航空開発のロイド中将にはまだ早いと言われたが、
猛訓練により、搭乗員を鍛えていた。
しかし、まだ八十機ほどしか生産されておらず、一部F4Fの搭乗員もいた。
ミッドウェーにも航空部隊を充実させ、航空兵力は百十二機となった。
しかしここで重大な問題が出てくることとなってしまった。
「どうしたんだ、ビル。」
太平洋司令部にミッドウェーでの戦闘の指揮を任せようとハルゼー中将を呼んだ
ニミッツは目を剥いた。ハルゼーはまるで別人のように痩せ、顔色はどす黒く、
おまけに顔と言わず腕と言わず、湿疹におおわれている。
「どうも、このところから体中が痒くてよく眠れませんで、食欲も
あまりないんです。でも大丈夫ですよ。」
「馬鹿を言うな。すぐ医者に見せた方がいい。」
「まあ、医者には行きますが、話を聞くのが先です。
ジャップのやつが新しい攻勢にでも出るんですか。」
「そうだ、敵はミッドウェーにやってくる。」
「ミッドウェーですか。」
ハルゼーの目が獰猛に光った。
「何時ですか。」
「最初は六月七日ごろの予定だったが、三週間ほど延びたようだな。」
「そいつはありがたい、ホ―ネットが間に合うんじゃないですか。」
ニミッツはそれも計算していた。六月の中旬には修理が完了する予定だ。
「それで、もちろん指揮は執らせてもらえるんでしょうね。」
「君の顔を見るまではね。しかし、そうもいかなくなった。まずは医者だ。
決定は医師の判断を聞いてからだ。」
ニミッツは厳格な表情になった。
「迎撃部隊の指揮官は完璧な状態でいてもらいたい。
なにしろこの戦いには我が国の命運がかかっているからな。
これに負けたらもうあとがない。
ハワイをとられる可能性が出てくることになる。」
ハルゼーは頷いた。自分のエゴを満足させるために米国の命運を賭けるほど
愚かではない。
「わかりました、さっそく病院にいってきます。」
「それからもうひとつ。君にとって不本意な状態になった時に備えて、
君の代わりを務められる人物を考えておいてくれたまえ。」
「……わかりました。」
ハルゼーにとって結果は最悪だった。
診断は熱帯の太陽に当たりすぎたことによる皮膚炎で、
ひどい過労と痒みのストレスのため内臓の働きが衰え、
全身が衰弱状態になっていた。
医者の診断は最低でも三週間の入院加療が必要とのことだった。
副官からその知らせを受けたニミッツが病院にいくと、
ハルゼーは全身を軟膏に覆われて、入院着を着せられベッドに横たわっていた。
「残念ですが、こういう結果になってしまいましたよ。」
「人間は機械じゃないんだ。ときには休息も必要だ。
本土に戻ってゆっくり休みたまえ。…それで、後任の件は考えてくれたかね。」
「ええ、候補者を用意しました。レイがいいでしょう。」
「スプルーアンスか。」
ニミッツはつかの間、驚いた。
「彼はもともと駆逐艦乗りじゃなかったかね。」
「そうです、航空生え抜きじゃありません。でもクールな男で、
航空作戦のこともよくわかっています。」
「うむ…。」
ニミッツはゆっくり頷いた。
フレッチャー少将を指揮に執らせることも考えなくはなかったが、
珊瑚海でもうまく戦ったとはいえない者にこの作戦を任せるのは不安だった。
防衛戦は冷静沈着で状況判断が的確な者が適任だ。
「分かった、スプルーアンスでいいだろう。」
こうして、機動部隊の直接指揮はスプルーアンスが執ることになり、
新しい米機動部隊指揮官が誕生した。
疑問なんですが、米国は空母の艦長は航空士じゃないといけないのに、
どうして指揮官は別に航空士じゃなくてもいいんですかね?
わかる方は教えてくれると嬉しいです。