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異説大東亜戦争  作者: たこ焼き
一章
20/80

珊瑚海海戦(三)

まずは謝らないといけません。

すみませんでした。珊瑚海海戦またまた終わりませんでした。

前後の二話の予定が四話ということになってしまいました。

本当にすみません。


             珊瑚海海戦(三)





搭載機発艦の後、第十七機動部隊に時間が途切れたようなほっとした空気が流れた。

そのとき、スミス中尉の偵察機から報告が飛び込んできた。

「我、敵機動部隊発見す。味方の北東二百三十五海里、南緯十二度、東経百五十六度

にあり、空母四隻、重巡二隻、駆逐艦六隻をともなう、〇六五五。」

「なんということだ。」

フレッチャー少将はつかのま呆然としてしまった。

さきほど発見した部隊とはまるで逆方向ではないか。

「司令官、どちらが敵の主力でしょう。」

参謀長が尋ねた。

「無論こっちに決まっている。空母四隻だぞ、こっちが機動部隊主力だ。」

「…攻撃隊を呼び戻しましょうか。」

「いや、待て。」

少将の頭脳はめまぐるしく回転した。

空母一隻の方はおそらく、攻略部隊だろう。

この作戦の本来の目的はポートモレスビー攻略を阻止することである。

全軍を呼び戻すことが得策なのだろうか。

もし攻略部隊と機動部隊の両方をうまく叩けたら……

少将の脳裏を一瞬、幻想に似た栄誉欲が走ったことは否定できない。

この戦争はじまって以来の殊勲を立てることができる。

フレッチャーはもう一度冷静に、日本機動部隊の強さに思いを致すべきだった。

兵力の分散は下策である、これは世界共通の軍事公理である。

しかし、一端舞い上がった心を鎮めるのは、歴戦の提督でも難しいものだ。

「よし、レキシントンの攻撃隊は最初の目標に向かわせろ。

ホ―ネット、ヨークタウンの攻撃隊は機動部隊に向かわせるんだ。」

アーノルド中佐が電話に飛びつき、隊長機であるジャック少佐のドーントレスに

電波が飛んで行った。





攻撃隊の指揮官である高橋赫一少佐は九十九式艦爆の席から編隊を見回した。

彼は真珠湾以来の歴戦の航空戦指揮官である。

ハワイ沖海戦の時もハルゼー部隊と戦い爆弾五発を命中させている。

こんどもいただきだ。発進命令を受けた時そう思った。

敵をなめていたわけではない、敵の錬度は低いとはいえ、対空砲火は

かなりのものであり、真珠湾では何人もの戦友が死んだ。

…少佐は死が恐ろしくないわけではなかったが、いつそれを迎えてもいい

心の折り合いはついていた。

それは勇気の問題とも少し違う、

感情を超越したもっと高いレベルの意識のものである。

禅でいう「不惜身命の境地」とはこれを言うのかもしれない。

そもそも急降下爆撃とは死に向かってダイブするようなものである。

揺籃期の大正年間では多くの搭乗員が死んでいった。

米国でも急降下爆撃機乗りはヘルダイバーと呼ばれているらしい。

命知らずの地獄行き野郎とでも訳せばいいのだろうか。

ともかく、

彼らは潜水艦乗りと並ぶ筋金入りの肝っ玉の持ち主だということは確かだ。

だからいまさら死を恐れることもない。

軍人は自分の命を質に入れて生きているようなものであり、

いつそれが流されるかは誰もわからない。

しかし、高橋少佐は自分の腕には自信がある。つねに死線をくぐり抜け、生還する

自信もある。そうでなければやってはいられない。

攻撃隊は高度六千メートル、先頭やや上空に零戦隊、そのあとに艦爆隊、

最後に艦攻隊が続いて編隊を組み整然と飛行していた。

まず零戦が敵の直掩隊を食い、艦爆隊が侵入し急降下爆撃を行い、

最後に艦攻隊がとどめの雷撃を行うのが、日本海軍の攻撃手順である。

四十五分ほど飛行した後だろうか、

零戦隊隊長神埼少佐がバンクし合図を送ってきた。

高橋少佐は目を凝らし、ちょうど同じ高度を反航してくる一機を認めた。

近づくにつれ九十七式艦攻だと分かった。

おそらく偵察に行っていた鈴谷少尉の機だろう。

鈴谷機は高橋少佐の前まで来ると大きくバンクしてから反転した。

「我、誘導す。鈴谷。」

通信員が送られてきた電信を読み上げた。

高橋少佐は静かに瞑目した。

ここにも、死を覚悟した奴がいたのだ。

今から反転してこちらを誘導していたのでは、鈴谷は帰投するのは不可能だ。

最初から命を捨てるつもりなのだ。

…だが他の搭乗員は承知したのだろうか。

少佐は推測する他なかったが、鈴谷機の搭乗員の後藤一飛曹、岸田一飛曹共に

鈴谷少尉の意思を耳にし、覚悟を決めていた。

岸田通信員は司令部に打電した。

「我、帰艦をやめ味方機を誘導す。」

この通信を受けた司令部では角田少将を始め全員が固唾をのんだ。

そして、その悲壮さにこたえる熱気が司令部に盛り上がってきた。





そのころ、敵偵察機を見つけたMO攻略部隊は空母「瑞鳳」から

直掩機十二機を発艦させていた。

角田少将に敵機動部隊の発見を受けた井上中将は雷撃機の発艦も始めた。

八機の雷撃機に四機の戦闘機という貧弱極まりない攻撃隊であったが、

貴重な攻撃部隊である。

発艦が終わって十分ぐらいだろうか、

重巡「青葉」の対空電探が敵編隊を発見した。

約四十機の編隊であり、MO攻略部隊は対空戦闘準備を始めた。





鈴谷機に誘導された日本隊はほとんど無駄なく、前方に敵機動部隊を発見した。

ときに〇九〇五。

高橋少佐は、敵艦隊上空に侵入すると、まず敵の陣形を確認した。

空母が三隻、一万メートルほど離れてほぼ横に並んでいる。

その周りに大きな輪形陣が形作られている。

米海軍の得意とする防空陣形である。

少佐はさらに敵直掩隊を探す。三十機程の敵戦闘機が上空を乱舞しているが、

こちらの戦闘機の方が、数が多い。

「もらったな。」

そう呟くと、少佐は通信員にトツレを打つよう命じた。

全軍突撃態勢を取れ、の略である

トツレを受けた攻撃隊はそれまでの整然な編隊を解いた。

艦攻隊は雷撃のため高度を下げ、艦爆隊は逆に上昇する。

戦闘機隊はさらに艦隊上空に進出する。

キラキラと前方に金属的な光が見え、敵戦闘機隊が突っ込んでくる。

たちまち零戦隊がそこに割って入り、激しい巴戦が始まる。

高橋少佐はその行方を気にするつもりはなかった。

F4Fが零戦五十二型の敵ではないことはもう立証されている。

いや、格闘戦となったら零戦にかなう敵は世界中にいないだろう。

高橋少佐は突撃命令を下した。

トトト連送が全軍に送られる。

高橋少佐は風向きを調べると右手に見える空母の東に向かった。

そちらが風上だ。急降下爆撃は風上から風下に向かうのが常道である。

大鳳隊、海鳳隊、翔鶴隊も各空母に向かっていく。

少佐は知らなかったが、

少佐自身が向かったのがレキシントン、

大鳳隊、海鳳隊が向かったのがヨークタウン、

翔鶴隊が向かったのがホ―ネットだった。

すでに敵艦隊は最大戦速でジグザグに突っ走りながら対空砲火を噴き上げてくる。

猛烈な弾幕だった。炸裂する砲弾の無数の黒い花が眼下にひらき始めている。

高橋少佐は狙ったポイントを占位すると、急降下を開始した。

列機は一本棒となってそのあとに続く。

たちまち機体は高角砲の至近弾の炸裂を受け激しく揺れる。

急降下につきものの魔女の悲鳴にも似た金切り声が高まってくる。

凄まじい加速と共に機体自身が振動する。

照準器の中で敵の巨体がひろがってくる。

この瞬間、少佐の世界はそこだけに収斂されていた。

巨大な空母だ。甲板に艦載機の姿は無い、ということは、味方も発見され

攻撃されているのかもしれない。

両舷に備えられた機銃が真っ赤な火箭を噴き上げてくる。

被弾したのだろう、機体に振動が走った。

飛行甲板がみるみるせりあがってきた。

「テッ。」

少佐は叫ぶなり投下した。その瞬間機体がふっと軽くなる。

同時に思いっきり操縦桿を引く。

血の気が引き目の前が真っ白になるが、これに耐えられないと、艦爆乗りには

なれない。

急上昇しながら顔をひねると、必死に転舵する敵艦の両舷に巨大な水柱が上がっている。

いまのところ二百五十キロ爆弾は至近弾に終わっている。

しかし、次の瞬間甲板の真ん中に深紅の火柱が噴き上がるのが見えた。

素晴らしい光景だった。続いて艦尾にも噴き上がった。





レキシントン艦長のシャーマン大佐は必死に転舵を繰り返すが、

四発目の爆弾が命中し、ビッグ・レックスは激しく身震いした。

続いて艦尾に一発命中し、再び甲板に命中する。

「くそっ、ジャップめ。」

シャーマン大佐は思わず罵った。

やつら、確かにいい腕をしてやがる。

「ダメコン隊を出せ、至急消火にかかれ。」

大佐は命令した。

次の瞬間、大佐の恐れていた事態がスピーカーから見張員の絶叫というかたちで

やってきた。

「左舷真横に敵雷撃機。」

ジャップの艦攻が四機、百メートルもない低空から突っ込んでくる。

敵の先頭の一機が対空砲火の直撃を受けたらしく、一瞬にして四散した。

だが残る三機はそれにもめげず突っ込んでくる。

次の瞬間、魚雷を発射した。

「取り舵。」

シャーマン大佐は絶叫した。

航海長が必死に舵輪を回し、最大戦速のレキシントンはぐぐっと回頭し始める。

艦橋にいる全員の目が接近してくる魚雷の航跡にくぎ付けになっている。

どうにか避けたと思ったその時、爆弾とは比較にならない衝撃が襲った。

衝撃に耐えたシャーマン大佐は攻撃を受けているヨークタウンとホ―ネットを見た。

ヨークタウンは激しい火災を起こしながら沈んでいる。

ホ―ネットは比較的軽傷らしく、火災を起こしているようには見えなかった。

上空の味方戦闘機はほとんど見当たらない。

敵の戦闘機に落されたのだろう。

シャーマン大佐は初めて味方戦闘機の弱さに歯噛みした。

敵戦闘機をなんとかしないかぎり、敵機動部隊と戦うのは無謀に思えたからだ。







次こそ終わらせます。

絶対です。

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