キンメルの苦悩
二話目です。よろしくお願いします。
キンメルの苦悩
第六航空戦隊「大鳳」の戦闘機分隊長の工藤大尉は猛火に包まれる真珠湾を
見ていた。フォード島の東のある泊地に係留されていた戦艦群は雷撃隊と水平爆撃隊
によってめった打ちにあっている。
小さい時に見た花火のような天に届くばかりの火炎に彼は見とれていた。
工藤はバンクして列機に合図をした。飛行場に機銃弾は撃ちつくしていたので、
第二次攻撃隊に後は任すべきだと考えたからだ。
米太平洋艦隊司令長官ハズバンド・エドワード・キンメル大将は
軍服のカラーをゆるめた。息苦しさに胸が張り裂けそうだった。
自分のキャリアももう終わりだろう、
日本の真珠湾奇襲をむざむざ許した男として歴史に名を残すに違いない。
誰が予測できたというのだ。彼は自分自身に言い聞かせた。
日本軍の攻撃は東南アジアからに違いないと大多数の人間が信じ切っていたのだから。
日本軍の第二次攻撃隊が来てもキンメルは外に出ることができなかった。
ただ窓の外から太平洋艦隊が消え去っていくのをぼんやり眺めていただけだった。
太平洋艦隊の被害は、
戦艦
「ネバダ」「アリゾナ」「テネシー」「ウエストバージニア」「メリーランド」沈没
「オクラホマ」「カリフォルニア」大破
「ペンシルバニア」中波
重巡一隻沈没二隻大破
軽巡二隻沈没二隻中波
駆逐艦六隻沈没
航空機二百三十六機破壊百十二機損傷
戦死者二千五百五十八人であった。
一方、日本の被害は、
未帰還機十八機
損傷機四十五機だけであり、
太平洋の制海権は日本の手に渡ろうとしていた。
第六航空戦隊司令官角田少将は帰還する搭載機を眺めていた。
一機または数機ずつのばらばらの帰還である。
この時点では、日本機は無線による自動帰投装置を装備していないからである。
帰投は航法をつかっていた。
艦橋で空を眺めている角田の目は険しい。
部下の腕前は信頼しているが、損傷機の着艦は至難の技であり
下手をすると整備員を巻き込みかねない
「帰ってきましたな。」
肩を並べていた菊池艦長がつぶやいた。
「着艦準備にかかれ。」
角田はそう命令し、大鳳は風に向かって速度を上げた
ほかの七隻も同様だ。零戦隊が先頭に次々着艦していく。
伸びたワイヤーが油圧装置によって戻っていく。
「服部を呼べ」
角田はそう下令した。
艦爆隊隊長服部少佐は角田の所にやってきて、敬礼した。
角田はにやりとして聞いた
「まだいけるな。」
服部は胸を張って言った
「無論です。」
第一航空艦隊司令長官南雲忠一は参謀長に言った
「空母はいなかったらしいな。」
「おそらくミッドウェー、ウェーク島の増強にむかったのでしょう。どうされますか。」
「「飛龍」及び「大鳳」から信号です。」
そのとき、通信員の声が彼らの会話をさえぎった。
「われ、第三次攻撃隊の準備完了す。」
おもわず南雲は苦笑した。山口、角田共に折り紙つきの闘将である。
「策敵機をだせ。空母を見つけよと知らせてやれ。」
参謀長の読みは当たっていた。
ウィリアム・ハルゼー中将の指揮する空母「エンタープライズ」は、
オアフ島の西方220マイルの海上を真珠湾に向かって航行中だった。
ウェーク島に航空機を輸送した帰りだった。
その第八機動部隊の陣容は、
空母「エンタープライズ」
重巡「ノーザンプトン」「チェスター」「ソルトレークシティ」
駆逐艦八隻である。
航空機は輸送の帰りのため五十機ほどしか積んでいない。
ハルゼーは、非常に不機嫌だった。副官のモールトン大尉にぼそりと
「どうやら我々はいっぱい食わされたらしいな。ハルノートを渡せばジャップは
怒り狂って攻撃してくると誰かが言っていたそうじゃないか。見ろ、なにもいやしない。」
そのとき、艦橋から電話が鳴った、モールトンはそれを取り上げて、ハルゼーに渡した
「司令官、ジャップが、パールを攻撃しています。」
当直士官が叫んでいた。
「たったいま、ラジオで聞きました、空襲です。」
「それでどうなのだ。パールの被害は。」
「ラジオなので、とぎれとぎれにしか聞こえませんが、太平洋艦隊はかなり悲惨なようです。」
「そうか、わかった。」
午前九時ごろには、キンメル大将からの命令が入った。
ハルゼーに太平洋で行動中の艦艇全てを指揮する権限をあたえるものだった。
「艦長、戦闘準備だ。すぐに哨戒機を出せ。」
たちまち、エンタープライズの艦内にブザーが鳴り響き、信号旗があがった。
真珠湾の仇をとってやる。ハルゼーはそうつぶやくと、艦橋から海を眺めた。
短くてすいません。もっと一気にかいたほうがいいですか?