珊瑚海海戦(一)
今回短くてすみません。
次はすごくながいです。
長い分、時間かかりますので、気長にお待ちください。
とはいっても三四日程度だとは思いますが。
珊瑚海海戦(一)
先の米軍による日本本土奇襲は成功には終わらなかったが、日本に大きな衝撃を与えた。
被害は無いようなもので死傷者もでなかったが、もし皇居にでも爆弾が落されていたら、
大本営のスタッフ全員が詰め腹を切らなければならない。
敵の機動部隊はなんとしても叩いておかなければならなくなった。
これによりミッドウェー作戦とフィジー・サモア作戦の順番が前後することになった。
だがその前に海軍にはまだ仕事が残っていた。
第一段作戦の中には、ニューギニア攻略が含まれていたが、その最終目的である、
ポートモレスビー攻略がまだ終わっていない。
ここは戦略の要所であり、オーストラリアの死命を制する要衝である。
ここを押さえれば、オーストラリアは孤立し、米のフィリピン奪還の足掛かりを
失えさせることにもなる。その戦略的価値はソロモン諸島にも匹敵する。
げんに今米軍はフィジー・サモアを経由して、航空機の増強に努めている。
攻略は早ければ早いほどいい。
そのため、日本はポートモレスビー攻略作戦をミッドウェーの前に発令した。
この作戦はMO作戦と呼ばれ、まず、ツラギを占領し、水上基地を設営し、
攻略を助けるものとする。
この任務は第四艦隊に任された。
その長官は山本の弟分ともいうべき、井上成美中将だった。
井上は戦上手とはいいにくい。ウェーク島攻略の失敗で信用はがた落ちになっていた。
第四艦隊には、軽空母「瑞鳳」が配備されているが、
山本はもっと強力な空母部隊を出してやることにした。
第五航空戦隊と第六航空戦隊である。第一航空戦隊と第二航空戦隊はインド洋から
戻ったばかりで、船の補修と補給が必要だった。
MO作戦に従事する部隊は非常に強力である。
航空部隊の指揮官は角田覚治少将であり、
空母「大鳳」「海鳳」「瑞鶴」「翔鶴」に護衛として、
最新鋭重巡改鈴谷型二隻に駆逐艦六隻がついている。
打撃部隊の指揮官は高木武雄少将であり、
重巡「羽黒」「妙高」と駆逐艦八隻。
攻略部隊の主力は重巡四隻に軽空母「瑞鳳」、駆逐艦三隻
それに輸送船約五十隻に護衛として軽巡三隻、駆逐艦四隻、
工作艦や給油艦、掃海艇などもいる。
堂々たる部隊であり、司令官が指揮さえ誤らなければ、まず任務失敗はないものとされた。
しかし、敵機動部隊の存在もある。一月十一日にサラトガと思われる空母を
伊6潜が雷撃、大破させたと見られてはいるが、それでも太平洋には少なくとも、
あと二隻は空母がいる。それに大西洋からもおそらく一隻こちらに持ってきていると、
日本は考えていた。…実際は二隻、米軍は太平洋に持ってきていたのだが。
それはともかくツラギの攻略は抵抗もなく上陸を果たしたと連合艦隊に連絡が入った。
それを聞いた山本は一瞬嫌な予感がした。
こちらの手の打ちが読まれているような気がしたのだ。
だがそんなことはないと自分言い聞かせた。
真珠湾奇襲の成功が、暗号が解読されているかもしれないという考えを遠ざけたのだ。
甲板を走ってくる音が聞こえ、渡辺参謀が息を切らせながら敬礼した。
「やはり、敵機動部隊は現れました。
たった今、ツラギの攻略隊が敵艦載機らしき攻撃を受けていると連絡してきました。」
「うむ。そうか。」
山本は落ち着き払って答えた。山本ほどの古狸になるとよほどのことでもないと
驚かない。なにしろ、今の連合艦隊で日露戦争の日本海海戦に参加したのは彼だけである。
「MO機動部隊は知っているのか。」
「はい、角田少将には通信済みです。」
「うむ。あとは角田の戦いぶりを見守る他あるまい。」
二人は肩を並べて艦橋に戻っていった。
山本の危惧は実は的中していた。米軍は日本海軍の暗号を解読しつつあったのだ。
その主役となっているのは、海軍戦術情報室長のロシュフォート中佐である。
日本の海軍暗号はJN-24と呼ばれ、五数字の組み合わせで四万五千語を得ていた。
それを今年の二月ごろから解き始め、かなりの解読文字を得ていたが、
三月末に日本軍はまたもや、乱数表を交換したようだが四月の中旬には、
もとの解読情況に戻っていた。そして乱数表を変えられる前の情報を
ニミッツ大将に送ってあった。ニミッツはキンメルの次の太平洋艦隊司令長官である。
その情報とは四月中旬以降に日本軍が珊瑚海に進出するというものだった。
そうすれば、考えられることは一つしかない。それはポートモレスビーの攻略である。
ニミッツとその幕僚はその情報に震撼した。
ここを押さえられれば、日本反攻作戦は途絶するだろう。
それを防ぐべく、ニミッツは機動部隊を珊瑚海に送り込んだ。
その陣容は、
空母「ヨークタウン」「ホ―ネット」「レキシントン」
重巡七隻、駆逐艦一三隻、給油艦二隻と今の太平洋艦隊の主力ともいえる部隊である。
その指揮官はブラック・ジャックとも呼ばれる、
フランク・ジャック・フレッチャー少将である。
彼はハルゼーにも劣らない勇猛な指揮官である。
ついにこれまでの無念を果たす時が来た、そう彼は考えていた。