過激派
襲撃された場所から、ある程度離れることができ、白夜の限界も来たことで、
隠れられそうなところ見つけて休んでいた。
幸い白夜の傷は浅く、以前摂取していたナノマシンによって、傷はすぐに修復された。
「何とか逃げ延びられましたね。」
「そんなことよりも、あの女、俺を撃った奴だった。」
傷は治っても、あの痛みは忘れられない。
それから、死の恐怖による精神的ダメージも当然あった。
白夜は怒りで震えており、暁は何も言い出せなくなってしまった。
「謝罪はしませんよ。白夜さん。私は作戦通り、あなたを利用しただけなので。」
助けに来た長身の女は、血まみれの姿で現れた。
白夜はにらめつけるが、気にすることなく暁の前まで歩いて来て、抱きしめた。
「よく頑張りましたね。暁。この後は私に任せてください。」
「はい、お願いします。」
「作戦ってなんだ?俺を利用したって、、、」
「簡単に言うと、私たちにはあなたの協力が必要ということ、そして射殺したのは、
殺害現場での騒ぎの間に、別の作戦の目くらましが必要でしたということです。」
「その別作戦というのは?」
「ほかの質問は移動しながら答えてあげましょう。暁、この先に移動手段を用意しています。
もう行けますね。」
「ええ。でも白夜さんのほうが、、、」
「彼は大丈夫です。男の子ですから。」
「俺は大丈夫だ。お前の名前は?」
「私は黎明、暁の姉です。」
名前を名乗ると、黎明は服に付いた血を振り払い、二人を先導した。
少し移動したところに、車が駐車してあり、黎明が車に触れると鍵が開いて乗り込んだ。
二人は後部座席に座り、車を走らせた。
「よく車をこんなところに用意できたな。」
「用意なんてしてませんよ。その辺に駐車してある車を先に調べていたので、
用意したといったのです。つまり他人の車です。」
「それだと、無関係の人に迷惑をかけちゃうじゃないか!」
「人間共がどうなろうと、私の知ったことじゃありません。」
無情な言い分で、自分を殺した恨みもあり、怒鳴りつけようとしたが、
黎明の憎しみが込められていそうな怒り顔をみて、白夜はやめた。
この空気感に堪えかねた暁が、別の話題を振った。
「白夜さん、黎明はこう見えて、動物好きで、たくさん猫を飼ってるんですよ!かわいいでしょ!」
「暁、そういうことはあまり言いふらさないでって言ってるじゃないの。」
恥ずかしそうにし、運転に集中して紛らわした。
よく見ると動物の毛らしきものが、ついている。
どうやら本当のことらしい。
「確かにかわいいかもな!」
「ふん、これだから人間は。そうだ暁。142が合流地点Fにいるはずだから寄るよ。」
「142ですか、、、分かりました。助手席に座ってもらいましょう。」
「そのほうがいい、彼のためにもね。」
「どういうことだ?」
少し間が開いた後、暁が023について教えてくれた。
「142。私は021なのですが、この番号は作戦時に使われる、仲間の呼び方なのですが、
彼は過激派なのです。」
「さっき言ってたやつか。」
「そうです。ちなみに私も過激派の部類です。彼ほど過激ではありませんが。」
「私は穏健派です。多少恨みはありますが。」
「過激派と穏健派なのに一緒に行動するのか?」
「別に意見が分かれているだけなので、敵対しているわけではないですよ。
暁はこんな性格なので、穏健派なだけです。」
派閥があっても、敵対してないとは、現代人にも見習ってほしいと思った。
黎明ですらかなり過激だと感じるのに、それ以上の奴とは、正直合流したくない。
こちらの意見が通るはずもないし、特に何も言わずにいた。
しばらく時間がかかるそうなので、疲労感がひどいので、白夜は眠らせてもらった。
とある施設の駐車場。
命からがら逃げのびた天音が、乗ってきた車から降り、医療班とみられる人に治療を受けながら、
上司とみられる人物に報告を始めた。
「申し訳ございません。一度は追い詰めたのですが、新手が現れ、私以外全滅しました。」
「そうか、新手の人数は。」
「ひ、一人です。」
「たった一人に、精鋭十人がやられたのか。失態だな。」
「責任は取ります。ですが、もう一度機会を、、、うっ!?」
天音は急に眠気に襲われ、その場に倒れた。
医療班に撃たれた注射に、睡眠薬が含まれていたみたいだ。
「監禁しとけ。処分は追って下す。」
「はっ。」
天音はタンカーに乗せられ、施設の中に連れ込まれた。
「やはり、仮説は正しそうだな。その時が来るのを楽しみにさせてもらうぞ。古きものよ。」
白夜が眠りについて数時間後、起きると外はかなり暗くなっていた。
変に寝すぎたせいか、ちょっと体調も悪いし、寝たりなさがある。
「起きましたか、そろそろ合流予定ですよ。」
いつの間にか暁のほうに倒れ込んで、膝枕をされている状態になっていた。
いつからかわからないが、かなり長時間膝枕していたかもしれない。
「すまん!痛かっただろ。」
「全然痛くないですよ。鍛え方が違います。」
また、パワーマウントを取られて気がした。
鍛え方が違うというが、全然固くなく、やわらかい太ももで、とても寝心地のいい枕だった。
「まったく、暁を枕代わりにするなんて、身の程を知りなさい。それから今すぐ離れなさい。」
「わかりましたよ、黎明さん。」
合流地点と思われる場所に到着したが、どこにも023の姿が見えない。
隠れて待っているのかと思われたが、しばらく経っても出てくる気配がない。
「本当にここでいいのか?」
「ええ、間違いありません。探してくるので、暁たちは待ってて。」
黎明は023を探しに、車を降りて行った。
待ってるように言われたが、白夜と暁も降りて探し始めた。
「ちなみに023の特徴は?」
「身長は白夜さんと同じくらいで、金髪で、スレンダーです。あとあと、
いつも仕込み武器の傘を持っています。」
「それってやっぱり、ショットガンとかになってるの?」
「いえ、火炎放射器です。彼の通った後には、消し炭しか残りません。」
「たまにニュースで、すごい火災が流れてるけど、あれって、、、」
「どのニュースのことを言っているかわからないですけど、ほとんど彼の仕業です。」
ついこの前も、施設一つと住宅15棟が全焼していた。
同様の火災が時折起きており、それらも023の仕業だろう。
「消し炭にされないように気を付けよう。」
「ああ、気を付けてくれたまえ。」
すぐ隣に、023の特徴に合う人物が現れた。
急に表れるのも、なんとなく察していたので、白夜は特に驚かずにいた。
傘をポンポンと肩に充てて、白夜を観察している。
かなりの過激派と聞いていたので、性格が思っていた感じと違い、
本当に023なのかと疑った。
「僕は輝炎、君は?」
「俺は白夜だ。暁たち、つまり輝炎も含め、君たちの協力者といったところだ。」
「そう、、、で?君、人間だよね?殺してもいい?」
殺意が目に見えそうなくらい剝き出しで、正直、暁に助け舟を出してほしいと思った。
しかし、暁もその殺意に充てられ、声が出ないみたいだった。
暁が殺意向けられてないんだから、助けてくれよ。
ここで、変に答えると、マジで殺されそうだ。
「輝炎、やめてください。彼に手を出すなら、その前に、私が相手になります。」
「君は確か、黎明とか言ったよね。君も僕と同じ、過激派だったはずだ。なぜ彼の味方をする?
何か弱みでも握られているのか?」
「こんな男に弱みを握られるわけないじゃない。彼の言う通り、私たちの協力者だからよ。」
「人間であることに変わりない。殺すべきだ。」
一触即発の状況で、白夜は迂闊に声を出せない。
輝炎には、殺すの選択肢しかないみたいだ。
「あのぅ、輝炎さん。私は暁といいますが、ちょっと二人でお話しできますか?」
「いいでしょう。逃げようがすぐに追いついて殺せるので、死ぬまでの心の準備の時間を含めて、
お話の時間を作りましょう。」
話し声が聞こえないくらいに離れたところで、暁は一生懸命に、
何かを輝炎に訴えかけるように話していた。
「俺、殺されちゃうんですかね?」
「一応かばってあげますが、彼のほうが実力は上です。暁の説得次第だと思いますが、
多分殺されちゃうでしょうね。彼ほど過激的なア、、、ゴホン。人はいないですからね。」
「あいつの言う通り、心の準備はしておいたほうがよさそうだな、、、」
数分後、輝炎は少し笑顔で、暁はにっこりとしてこちらにやってきた。
「よかったですね。」
「ほんとよかった。だけど寿命は数年縮んだ気がするよ。」
「数年で済んでよかったです。」
黎明的にも、この様子だと説得に成功したと感じ取ってくれているので、
余計に安心感があった。
先ほどの態度と一転し、輝炎はフレンドリーに肩を組んできた。
殺意は一切見受けられなかったので、白夜はそれを受け入れた。
「さっきはすまなかったね。白夜君。暁ちゃんにちゃんと説明してもらってよかった。
危うく君を消し炭にしちゃうところだったよ。」
「あはははは、」
愛想笑いしかできない。
不気味なほど態度が変わっている。
「さあ、そろそろ行こうか。次の任務がある。」
「次の任務ですか?そんな話聞いてませんが。」
「黎明ちゃんたちは、僕をある場所に連れて行ってくれるだけだよ。
任務は僕と別チームで行う。」
「どこに向かえば?」
「富士の樹海だ。」
白夜たちの目的地は、東北方面だ。
富士の樹海は、目的地方向ではない。
黎明は断りそうな感じにしているが、仲間の任務と彼の実力的に、
断ることはできないと判断したみたいで、結局了承した。
「白夜君。樹海につくまでの間、君のことをいろいろと教えてくれ。」
「まあ、知りたいことを聞いてくれればなんでも答えるよ。」
「じゃあ、黎明ちゃんと暁ちゃんのどちらが本命なんだい?」
「まあ!」
暁は少しほほを赤らめたが、黎明は小さく舌打ちした。
この後も、どうでもよさそうなことを根掘り葉掘り聞かれることになった。
だけど、仲良くしていたほうが、ほかの過激派とあったとき、
助けてくれると思ったので、白夜は快く答えてあげた。