箱庭Α
ある時、ある場所で、男は知らぬ間に「セックスしないと出られない部屋」に閉じ込められていた。
基本的には普遍的な「セックスしないと出られない部屋」と変わらない。少なくとも人一人が出入りできるような穴は無く、壁を破壊する方法も無い。本質的に他の方法で脱出することは出来ない。精神を操作するような超常的な現象も扱わない、一般的な物理法則に従った、文字通りセックスしないと出られない部屋である。
ただ大きく変わっている点といえば、その壁が薄く、可動で、かつ透明で有る事が挙げられるだろう。
(中略)
結果として、残念なことに、男らはその存在に全員気付くこと無く、その生涯を終えた、という結論と成ってしまった。
男の大半は普通の人間であった。非常に一般的な人間であった。幼少期は活発で、運動部に所属していた。やや良い高校、大学生活を経て、その後は大企業の商社の営業と成った。決して稼ぎが悪かったとか、出会いの機会がなかったとか、潔癖症なまでに素行が極端であった、などでも当然ない。
※尚、全体の60%程度は以上に記したような状態に揃えたものの、その抽出方法は完全にランダムである。一般に忌避されるような脛の傷等、出会いの面で見るならば寧ろあってもよいネガティブな要素についても他のサンプルにおいて漏らしてはいない。実験の意義から自明であるかとは思うが、このような男に未来がないと主張したい訳では当然無い。
(中略)
そもそも閉じ込めた側の人間は、わざわざ手間をかけてこのような場を用意しているのだから、「セックスしないと出られない部屋」にセックスさせなくする効果がある、サンプルに人為的な偏りがある等、そのような行為は断じて無い、というのは語るに及ばない。もっと直接的に言えば、セックスする人間を選んで閉じ込めている。
一体、何故?