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ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


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ジャン・ジールと氷の祭典

氷の祭典でお祭りを楽しむイレーネ、そして。

「クリスタルホテルからの追っ手が来ないかが心配だって?」

ジャン・ジールはイレーネの話をまるで信用できないでいた。


「彼女は確かに何かにとても不安を感じている、それは確かだ。しかしそれが」


ホテル云々ではない事だけはわかったが、その真相はジャンにもわからなかった。

イレーネの周りに怪し気配が近づいていないか警戒し、万一何かあればすぐさま追い払う、

それくらいの事なら、ジャン・ジールにとってはいたって簡単なことだ。


「なんなら、彼女も氷の祭典に閉じ込めておいてもいい、それならば安全は保障できる」

そう言いながら、イレーネから適度な距離を取り続けるジャン・ジール。



「ジャン、一人で大丈夫なのか?」

夏の国に本拠地のあるジール魔法団、その本部。

数人の幹部たちがジャンを取り囲んでいる。


「研修生たちは僕が責任をもって、結界の中で守る、だからここの防御を万全に」


ジャン・ジールはジール魔法団の研修生とアンを連れ、冬の国へとやってきた。

ちょうど、氷の祭典などお言うお祭りをやっているというではないか。

祭り会場内で結界を作り、こいつらをそこに封じ込めておく。

事が終わるまで。


それで、半人前の研修生たちが命の危機にさらされることはないだろう。


ここ、本拠地に残るのは、自分と同レベルの精鋭ばかり。

そう簡単には負けることはない。

魔女メディアとその一派の奇襲を受けたとしても。


このところ、ドルーガ王国にいる魔女メディアが水面下で怪しい動きを見せている、それを感じ取っていた。

魔女メディアとその一派は、自分たちの野望を達成させるために邪魔なものを潰しにかかる、

ジール魔法団は攻撃対象だ、かなり優先順位の高い。


「自分たちは、ただ大人しく魔法の探求をしているだけなんだけどねえ、放っておいてもらえないのかな」


今や世界屈指の優秀な魔法使いの集団である、ジール魔法団、魔女メディアとその一派にとってその存在は無視できるものではないようだ。


そして今、ここ冬の国、ダウンタウン・バッドの古びた宿にいるジャン・ジール。

弟子である研修生、とアン、そしてイレーネ、

全員を自分が守る、それが使命だ。


「ねえ、イレーネ、貴女も氷の祭典に行きませんか?」

イレーネの部屋で、アンはまだぐっすりと眠っており、ジャン・ジールとイレーネが二人でその寝顔を見ていた時、ジャン・ジールがこう提案した。


「アンからもさそってもらっているわ」

とイレーネ。


「祭りの会場でも僕が貴女の警護はしますから安心してください」

とジャン・ジール


誕生日会の日まで、この宿にこもってすごすつもりだった。

それなら、氷の祭典に行っていてもいいだろう。

ジャン・ジールの警護付きだし。

誕生日会の日まで氷の祭典会場で過ごすのもいいのかもしれない。


「じゃあ、一緒に行かせてもらうわ。」


そう答えたイレーネに、


「アンが喜びますね」

とほほ笑みながら言うジャン・ジール。


ー聖地ー

女神アフロディーテの前には、あのテイアが直立不動で立っている。


「さあ、説明を、テイア、あなたは自分のやったことをわかっているのですか?

視察であるにもかかわらず子供たちを連れて行き、しかも途中ではぐれてしまうなんて」

とアフロディーテが厳しい声で言う。


「それは、致し方ない事情がありまして。子供たちだけを残して行けないでしょう?

うちは母子家庭なんですよ、その視察の任務なぜ私だったんですか」

とテイアは逆に怒っている。


「結果として、イレーネと出会ったのは運命を感じましたけどね」


「でしょ、うちの子たち不思議な力をもっているのよ」


「でも」

突如、改まった顔をしてテイアが言う。

「イレーネンとハンスにあの氷の王宮のこと任せていていいんですか?

下手すりゃ国家転覆ですよ。

女神の出番なんじゃーないんですか?」

とテイア。


「これもあの子たちの試練だから。

さあ、この状況、イレーネならどうするつもりかしら。

その采配を楽しみにしているわ」

そう言うアフロディーテはなぜか満足そうだ。


「なんかいじわるいんじゃないの?」

そういうテイアを無視して、


「水面下で動き出した魔法使いもいるわね。これは少し厄介よ」

そうつぶやくアフロディーテ。

ここでは下界の動向などお見通しだ。


「まあ、これくらいのことを乗り切ることが出来なくては、国の未来を託せる人物になれるとは思えない」


そんなアフロディーテの言葉に、


「おお、きびしいご意見ですねえ」

とテイアが答えた。

そう言いながら、テイアはアフロディーテがイレーネとハンスに対し絶対の信頼感を持っていることを感じていた。


ーダウンダウン・バッド 自由荘ー


自由荘のロビーには大勢の人たち。

皆、ジール魔法団のメンバーだ。これから氷の祭典へと向かうのだ。


その中にはイレーネの姿もあった。

アンがその横に、びったりとくっいている。


「ねえ、ねえ、イレーネ、これから行くお祭りにもお店がいっぱいあるんだって、

一緒に行こうね」

とアン。夏の国での引き取り祭りを思い出しているのだろう。


「生贄にされかけたのに」

と笑顔のアンを見ながら思うイレーネ。


「でも、楽しい思い出が残っていてよかった」


氷の祭典が開催されているのは、どこか大きな公園のようだ。

街中でその告知をみることはなかったが、かなりの人でにぎわっている。


食事時に「氷のレストラン」に集合することを伝えられると、それからは自由に祭り会場を回れることになった。


「氷の滑り台」から大喜びで滑り降りるアン、

そして、氷のジャングルジムに登り、氷のブランコに乗る。


この寒さの中、頬を紅潮させて息を切らせながら走り回る小さなアンをイレーネが優しく見守っていた。

が、しかし、寒い、寒すぎる。


じっとしているのは限界だ、

アンを追いかけて走り出すイレーネ、

いつしか、アンとイレーネは氷の迷路の中で追いかけっこをしていた。


「暑いねえ、イレーネ、何か飲もうよ」

とアンが言う。

イレーネもすっかり体が温まっていた。


イレーネとアンは今度は出店を回る。

「氷の焼き菓子」

「氷のりんご飴」

「氷の大判焼き」

など氷の祭典ならではの店も多いが、温かい食べ物、飲み物も多く売られていた。


「イレーネ、あれが食べたいよお」

とアンが指さしたのは、


「氷の綿あめ」だった。

会場にいる子どもたちの多くが、その綿あめを持ち食べながら歩いていた。


「これからごはん食べるのよ、こんなの食べちゃって大丈夫?」

とイレーネが言うが、

アンの視線は「氷の綿あめ」を持つ子から離れない。


「そんなに羨ましそうに見ないでよ、買ってあげるから」


アンの手には、自分の顔と同じくらいの大きさの綿あめ。

チョコレートがトッピングされた豪華版だ。


「はい、イレーネにもわけわけするね」

とアンが少しイレーネにお裾分けをする。


他にも、いろいろと買い食いをしている間に時間はあっという間に、氷のレストランでの集合時間となっていた。


「アン、ご飯ちゃんと食べてよ、ジャン・ジールに怒られるよ」

とイレーネ。


「ジャンはそんなことで怒ったりしないよ、またお腹が空いているときにねって言うだけだもん」

アンはこう答える。


イレーネにとって食事を食べ残す、そんなことをすれば教育係化から厳しく叱られた。


「王女、お食事をお残しになる、これは由々しき事態です」と。


もちろん、相応の量の食事ではあったが時には食べきれないこともあった。

そういう時には必ずこう言われた。

この冷たい目が嫌で、無理にでも口に入れていた。

あとでトイレに駆け込むことになったとしても。

意地になっていたのだ。

厳しいマナー指導のおけげで、味を感じることもない食事をただただ口に運ぶ、

そして。


「でも、おいしいね、この綿あめ」

アンからもらったこの綿あめ、それは幸せの甘さだった。


ー今は美味しさを感じられるー

それだけでも心がいっぱいになっいた。


アンは、そしてイレーネまで綿あめの甘い余韻に浸りながら、集合場所の氷の食堂に着いた。

ここは、すべてが氷でできている、屋根も、壁も、床も、テーブルも。

中はひんやり冷凍庫のよう。


「氷に囲まれて食事が楽しめる」

この氷の食堂は雪の祭典の目玉のひとつだ。

それはロッジのように、戸建てになっておりいくつか並んでいる。

ジャン・ジールがそのひとつを貸し切っていた。


「全員そろっているな、じゃあ、氷の食堂で氷の食事タイムだ」

とジャン・ジールが集まっていた、ジール魔法団の研修生とアン、イレーネに向かって言った。


すると、一瞬、皆の目が一斉にジャンに集まった、

「ジャン、師匠なにを?」

そんな言葉を投げかけた者もいたが、言葉はそこで途切れた。

中にいた全員が、そのままの姿でピクリとも動かなくなったのだ。


「ここに究極の防護結界を設けた。みなここでしばらく時を止めていてもらおう、

それなら、魔女の能力をもってしても、お前たちの存在にには気付くまい。

申し訳ないが、ここでしばらくそのまま、眠っていてくれ。事が終わるまで」

ジャン・ジールが、動かない研修生たちを見ながら言う。


「アン、お前もだ。お前や皆を危険な目に合わせる訳にはいかない」

とジャン。


すると、

「どういうことなの?」

と声がした。


ジャンがその声の方に目を向けると、そこにはイレーネがいた。

彼女は動かないアンの横をすり抜け、ジャン・ジールの側に来た。


「なぜ彼らを」

とイレーネ。


「いや、聞きたいのはこちらの方だ、なぜ、君は動けている?

眠りへのいざない、強力な睡眠魔法だ。これにかからないなんて」

とジャン・ジール


「私にはやらなければいけないことがあるから、ここで眠っているわけにはいかない。

だからあなたの魔法にもかからない」

イレーネは言う。


「そうか、きみには有能な専属魔法使いがいたようだね。

そいつの仕業だ」


ジャン・ジールの言葉にハッとするイレーネ。

自分がこの魔法にかかっていない、それはシャロンの力だ。


シャロンは自分がいなくなった時のために、イレーネに置き土産を残してくれていたのだ。


「ありがとう、シャロン。私は進むべき道をいくわ」

心の中でシャロンにそう伝えるイレーネだった。

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