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ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


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それぞれの計画

イレーネはどうやってフィリップ殿下の誕生日会の日までを過ごすつもり?

「イレーネ、ねえイレーネ」

その声にハッとして周囲を見回すイレーネ。


ここは、クレメンタイン城の中庭だ。

「私、なんでこんなところにいるんだろう」


その手には数本の花が握られている。

この中庭の花壇で、自分で摘んだのだ。


「そうだ、これをお母様の寝室に飾ってもらうんだった」

その花を持ち、母の部屋を訪ねるイレーネ。


扉をたたくが誰も出てこない。

「お母様?」

そっと部屋に入り込むイレーネ。


そこには大勢の侍女、そしてその真ん中に母の姿がある。

イレーネに誰も気づかない。


いや、気付いてはいるが、気にかけていないのだ。


ようやく母がこちらに目を向けた。

「あら、イレーネ、何をしに来たの?

あなたはもう必要はないわ。消えておしまいなさい」

そう言う母の目が鋭く光る。


手から花が床に落ちた

その花を踏みつぶしながら、


「まだここにいたの?イレーネ、あなたはもう用なしなのよ」

と母が迫ってくる。


慌てて部屋を出るイレーネ。

あたりは真っ暗だ。

振り返ると、母の部屋だけが明るく、そこには小さなベッド、レースのかかった豪華なベビーベッドがあった。

それをみんなで囲んでいる。


ハッとして飛び起きた。

ここはダウンタウン・バッドの自由荘だ。


「夢?だったの」

とイレーネ。


妙にリアルで、不気味な夢だ。

気付けば、汗びっしょりになっている。

そして心臓が大きく鼓動していた。


「なんか気持ち悪い夢。今の心境現してるわね」

深呼吸をしながら一人つぶやく。


それでも、夢の最初、呼びかけて来たあの声、あれはシャロンの声だった。


「会いに来てくれたの?」


「会いたいね、シャロン」


窓から空を見ながら、ひとりで思うイレーネ。

空はようやく日が昇ろうとしていた。


イレーネはそれからまた眠ったようだ。

再び目覚めた時には、すっかり日は高く昇り、あちこちから人の声がする。


イレーネも部屋を出て1階に向かった。

ロビーの隣に食堂があり、そこで皆朝食を摂っている。


「イレーネ」

すでにテーブルについていたアンがイレーネを見つけて声をかけた。


アンに呼ばれて、彼女の隣に座るとすぐに、パンとスープが出て来た。

長いテーブルに大勢が座り、がやがやと話しながら食べている。

まるでルルカ村の孤児院の食堂のようだ。


「ねえ、イレーネ、ハンスは?」

とアンが聞く。


「あ、今日はね、いないの」

とイレーネ。

それ以外、なんと言っていいかわからなかった。


「そう、じゃご飯食べたらお部屋にいってもいい?」

とアン。


「いいよ、待ってるね」

どうせ今日は外出もしないつもりだ、アンの訪問を快く受け入れた。



一方、自警団の連中と吞み明かしたハンス。

いつのまにやらアジトにあった簡易ベッドで眠っていた。


もそもそと起きだして周囲をみると、そこには一緒に酒を交わしたハイン・ジェットとその仲間たちが、あちこちに寝転がっていた。


「こっそり抜け出して、イレーネの元に」

そんな考えが浮かんだが、

「いや、それは出来ないな」

と思い直した。


ハンスのきがかりは、ハイン・ジェットの言う、総帥、なる人物だ。

有能な魔法使いでもいれば、総帥の居所をつかめるだろう。

そして、イレーネの正体を知っているかどうかも判断ができる。


自由荘にいるジャン・ジールならそれができるのでは。

事情を話してジャンにン頼むか

しかし、それは、いや、その前にどうやってジャンと接触するのだ。

ハンスは横になりながら悶々と考えていた。


「トントン、イレーネいますか?」

自由荘のイレーネの部屋。

ドアの向こうから可愛い声がした。


「いらっしゃいませ」

とアンを迎え入れるイレーネ。


「わあ、イレーネのお部屋」

そう言いながら部屋を見渡すアン。


そしてここにイレーネしかいない事を確認すると、


「ねえ、イレーネ、今さびしいの?」

と聞いてきた。


「なんでそう思うの?」


「イレーネの心がね、そう言っているから」


アンはイレーネに近寄ると、自分の手をイレーネの胸にあてた。

そして、


「イレーネ、ハンスと話がしたいの?」

と言う。

ただ頷くイレーネ。


するとアンはイレーネの手を取り、目を閉じるように言った。

アンの暖かい手から、何かエネルギーが伝わるのが分かった。


「ハンス?」


心でハンスに声をかける。


「あ、イレーネ、イレーネなんですね、貴女と話がしたかったんですよ」

ハンスの声も聞こえて来た。


「私もよ。ハンス、私はイレーネ王女の替え玉として、誕生会に出席するわ。そして、自警団の奴らが

反乱とやらを起こす前に、あの子を逃がす。そしてママの元に送り届ける。

反乱とかなんとか、それはこの地域の大人の世界の問題。それにあの子を巻き込むなんて。

あの子さえ連れ出せれば、その後自警団ってのとあの王宮のやつらが戦おうが知ったこっちゃないわよ。」


「それが貴女の計画なのですね、わかりました。で、偽イレーネ王女はどうするつもり?」


「事と次第によるけど、その子が、騙されているだけなら助けられる。

私と同年代で、意思をもって革命に加担するなんてそうあり得る事じゃないもの。

もしも、もしもだけど自分の意思なら、それは裁かれるべきだわ。静観しましょう」


「わかりました。まずはフィリップ殿下の確保、それからは相手の出方を見守りながら偽イレーネ王女にも事を荒立てずにお引き取り願えれば。」


「もしもまたこうやって話ができるなら安心だ、僕たちは誕生日会の日に落ち合いましょう。僕は王女の従者としてつきそえるようだから。王女に付き添いの一人もいないなんておかしい、って進言したんですよ」


アンを介してお互いに計画を確認する二人。

まるで隣同士でいるようだ。

アンの能力の高さに、驚くイレーネ。


「アン、すごい力ね」

と声をかけるがアンは答えない。

イレーネとハンスに話をさせること、に集中しているのだ。


「あと、あの自警団、ハイン・ジェットがリーダーではないようです。総帥というやつがいる。

そいつが今、偽イレーネをむかえにいっているそうだ。

その総帥の正体がつかめません。貴女の事を気が付く能力があるのか、そして今どこにいるのかも。

イレーネ、気をつけてください。その総帥が貴女を狙うかもしれない」


そこでハンスの言葉が途切れた。

見ると、アンは息を切らしてしゃがみこんでいる。


「アン、ごめんね、私のために。疲れたよね」

イレーネはそういながら、アンをベッドに寝かせた。


しばらくアンを休ませよう、そう思った時、ドアを叩く音がした。


「イレーネ、そこにアンがお邪魔していますよね」

ジャン・ジールの声だ。


イレーネはジャン・ジールを部屋にいれた。

ベッドで眠っているアンをみるジャン・ジール


「ここで、アンが大きな魔法を使った気配を感じたので、失礼とは思いましたがお邪魔させてもらいました。」

とジャン・ジール


このジャン・ジールを信じてすべを打ち明け、協力を頼んだほうがいいのか、

それとも。

迷うイレーネ。


「イレーネ、何が起きているのですか?あなたはとても混乱しているようだ」


「あの、センターシティのクリスタルホテルから逃げるようにここに来ちゃったの。

ホテルの人が追いかけてくるんじゃないかって心配で」

とイレーネが咄嗟にこう言った。


「ハンスは視察とやらで出かけてるし、一人で心細くて」

と続けるイレーネに、


「うん、あなたの周囲に変な気配が近づいている様子はありません。

安心していいですよ。

ここにいる間、僕が警戒しておきましょう。

アンではまだ力不足ですぐにバテてしまう」

とジャン・ジール。


「そうしていただけるとありがたいわ。心強いし、ありがとう」

そう言いながらも、


ジヤン・ジールが自分の言い分を信用したかはわからない、私の説明にはつじつまの合わないところが多すぎるから。

ジャンはそれに気付かないほどの能天気ではない。


「これでいいのかしら、ハンス」

と心の中で、ハンスに話しかけていた。


「でも、いいよね、これで。何とかなるでしょ」

不安がないと言えばうそになるが、昨夜のようなあの心が震えるような心細さが今のイレーネには感じられなかった。

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