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ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


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それぞれの思惑

イレーネンとハンス、別々にこれからを探る。

ひとり、自由荘の部屋に戻されたイレーネ。

ダブルベッドに寝転がるが、なかなか眠れそうにない。


不安と混乱、そしてどうしようないほどの孤独感が襲う。

部屋のなかは煖房が効いていて、少し暑いくらいなのに寒くて仕方がない。

震える身体を、丸めてベッドに横たわる。


「私は、どうしたらいいんだろう」

その言葉ばかりを繰り返す。


この国、いやこの周辺の政情不安、それはセンターシティでも感じていた。

氷の王宮へ行く途中の集落、そこの人たちの窮状も目の当たりで見た。


この周辺は冬の国でありながら独立した国家のようだ。

自らの王、自らの王宮。


ここは上流階級と下層階級がはっきりと分けられている。

下層階級の犠牲により、上流階級の暮らしが支えられているといってもいいのだろう。

そんな社会はいつか覆される。

今までの歴史を見ればわかることだ。


「革命なの?」

とイレーネ。


そうあの自警団の人たちは「革命」を起こそうとしているのだ。

この神々の統治する国で。


「女神がなんとかしてくれたらいいのに」

イレーネは思う。

なぜ、神々と女神は静観しているだけなのだろうか。


いよいよ眠れない、

そう思ったイレーネはベッドを出て、窓際に向かった。

この窓は自由荘の中庭に向いている、この中庭には冬でも栽培できる葉物野菜が植えられている菜園になっていた。


「私にできること、やらなければいけないこと」

そうつぶやきながら、頭の中を整理する。


反乱が起きれば、フィリップ殿下も命を狙われるだろう。

なんとしてもそれは避けないと。

あのロージーマリーがフィリップの母親だ。

ロージーマリーの家の手洗い場にあったあの写真、普段はあそこには飾られていないのだろう。

イレーネが見つけることを前提としてあそこに置かれていたのだ。

ロージーマリーの手によって。


「どんな事情があったにせよ、小さな子は母親と一緒にいるべき」

とイレーネは思っていた。


それから、こちらに向かっているという「イレーネ王女」の正体を突き止める。

イレーネをここの王に据えるって、アデーレ王国はどうなるのよ。


アデーレ王国だって世継ぎを強奪されたら黙っていないでしょう。

これを口実に軍事介入しても咎められない事態だ。


「あの自警団の人たちって考えが甘いの?」

イレーネにはそうとしか思えなかった。

そもそもフィリップ殿下はイレーネ王女が誰であるかを知っている。


「ま、私が王女として誕生日会に出たところで問題はないんだけどね」


なにはともあれ、フィリップ殿下を母親の元に返し、偽イレーネ王女の正体を暴き、この件を女神に託す。


これがイレーネの考えた

「自分のやるべきこと」

だった。


これでいいのだろうか。

少なくとも、偽イレーネと自警団の面々は罪を免れないだろう。


反乱が未遂に終わったとしても、偽イレーネ王女とやらがいるのは事実のようだ。

これがアデーレ王国に知られたら黙ってはいないだろう。


「お父様はどうするかしら」

とイレーネ。


アデーレ王国では王族や権力者の名をかたり、偽る者にたいしては辺境の地への追放、悪質な場合は死罪だ。

自分の偽者となると同年代の少女だろう。

心が少しだけ痛むイレーネ。


「私が慈悲を願えばいいのかしら」

一人つぶやくイレーネ。

その声に応える者はだれもいない。


一人じゃ決められないよ。

そう言いながらまた、ベッドにもぐりこむ。

そして丸くなって眠ろうとした。


「イレーネ、これは大切なことだ。よく見ておきなさい」

その声は父であるアデーレ王国。


前の前で、鎖につながれた罪人が船に乗せられていく。

北限の国へ送られるのだそうだ。

それを涙で見送る、家族、女性と小さな子供がいた。

その異様な情景に目を背けていたイレーネ。


「この者たちは、国を裏切ろうとした。アデーレ王国で領主の殺害を目論んだ。

このまま北限に追放し、そこで一生労働者として過ごさせる」


その様子を父の横で恐る恐る見つめるイレーネ。

怖くて、父にすがりついた。


「イレーネ、国を治める者は時として冷酷な判断をしなくてはならない。

情にながされてはいけないんだ。

そして、それは一人で決めてはいけない。

一番力のあるものが、自分だけで物事を決める、それはただの独裁者だ」

幼かったイレーネに父がこう言った。

遠い記憶だ。


「一人で決めたくないけど、誰もいないじゃない」

イレーネの目からまた涙がこぼれていた。



「おお、勇者どの」

そう言われてまんざらでもない様子のハンス。

ここはイレーネと共に連れてこられた自警団のアジトだ。


テーブルの上には何本もの酒瓶が転がっている。

酒を酌み交わしているのは、ハイン・ジェットと自警団幹部、そしてハンスだった。


自警団のアジトに足止めをされているハンス。

本人が勇者と名乗ったために自警団員の質問攻めにあっている


「勇者どの、武勇伝を聞かせてくれないか?決闘は何勝しているのか」

「勇者どのはどんな剣をお持ちなのか」


皆、「勇者」と言う存在に興味津々だ。

そしてこの羨望のまなざし。

このあたりでは勇者が珍しいのかと思えるほどだ。


「いやあ、僕なんか大した勇者ではないですよ。あ、因みに決闘をして負けたことはありませんけどね」

とハンス。


決闘に負けたことがない、たしかに。

ハンスが決闘なんぞしたのは、秋の国で、あのジャックとの一戦のみ。

それもイレーネの采配で引き分けとなった。


まんざら嘘をいっているわけでもない。


「そう言えば、イレーネ王女の元婚約者も勇者だったそうだ。なんでもまったくのダメ勇者で、

王女が愛想をつかしたとか」


「なんでも、王女があきれるほどの腰抜けだったらしい」


とまあ、いろいろな事を言われている。


「元婚約者?王女の婚約は破談になったのですか?」

とハンスが聞くと、


「そうだよ、王女が拒否なさったそうだ。でも王女も傷心で見かねた氷の王宮のフィリップ殿下が気晴らしにと誕生日会に招待したんだとか」


どんな話になってるんだ。

ハンスは心で思った。

このあたりまで来るとアデーレ王国の情報など正確には伝わってこないのだろう。


「あなた方はイレーネ王女にお目にかかったことはあるんですか?」

とハンスが聞いてみた。


「あるわけないだろう、この似顔絵を拝んでるだけだ。イレーネ王女、輝きの姫、実物みてみたいなあ」

と指さされた方をみると古びた肖像画がかかっていた。

そこには美しい姫の姿が描かれていたが、


「これはイレーネじゃない」

とハンス。

そこに描かれていたのは、アリアーナ女王、アデーレ王国のかつての女王だ。


こんなことで、イレーネ王女を自分たちの女王とるす反乱など起こせるのだろうか。

疑問が深まるハンス。


「ハイン・ジェット、あなたもイレーネ王女とお会いしたことがないんですよね。

あの、事を起こすときに混乱しませんか?」

とハンスがやんわりと聞く。


「いやいや、今我々の総帥殿がイレーネ王女を迎えに行っている。

すべての指揮は総帥がおとりになる。だから我々は総帥の意のままに動いていればいいんだ」


「総帥?そんな奴がいるのか」

ハンスは困惑していた。

その総帥なる者が、本物のイレーネを知っているなら、イレーネが危ない。

自由荘にいるイレーネは無防備だ。


イレーネに気をつけろと伝えたい。


「その総帥殿はどこまで迎えに行ってるの?」

このハンスの問いに、


「秋の国だ、王女は先月から秋の国で静養されているそうだ」

とハイン・ジェット。


これが真実かどうかはわからない。


何とかイレーネと合流しなければ、

ハンスは酔っていた頭をフル回転させて打開策をさぐった。

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