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ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


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ダウンタウン・バッドの散策

ダウンタウン・バッドを散策するイレーネとハンス。

どんな街なのか?

「思ったよりもきれいな部屋ですね。荷物置いたら、街の散歩でもしましょう。いろいろと見て回りたいでしょ」

とハンスが言う。


その言葉に多少の動揺を隠しながらうなずくイレーネ。

ここは、ダウンタウン・バッドにある宿所 自由荘の客室だ。


確かに、古臭い外見からすると中は小ぎれいで、木目調の客室には大きな窓があり、白いカーテンが風に吹かれて揺れている。外からの外気は冷たいが部屋の中の空気を清浄化してくれているようだ。


「さすがに寒いですね」

そういいながらハンスが窓を閉める。

外には自由荘の裏庭が見えていた。


イレーネは部屋の備え付けの戸棚に自分の荷物をしまいながら、部屋の中を見回す。

「なんでこんな部屋を」

と心で叫ぶイレーネ。


この部屋には、備え付けの戸棚のほかに椅子が二つと小さなテーブル、ワゴンの上にはベッドサイド用の小さなランプが置かれていた。

そして、部屋の真ん中に、ダブルサイズのベッドが一つおいてある。


少し前の事、自由荘の受付広間で、アンと別れたイレーネとハンス。

まだ宿泊の手続きをしていない事に気付いたハンスが受付に行こうとしたのだが、


「ここは私が。いつもハンスに任せているから、たまには私もやってみないとね」

とイレーネが自ら志願し受付に向かったのだ。


受付では宿泊者カードに必要事項を記入する。記入が終わると身分証明書の提示を求められた。

「みぶんしょうめい?」

とイレーネ。

もちろん彼女はそんな代物をもってはいないが、「名誉の金貨」で支払うと告げると免除された。

それから受付係があれこれ聞いてきたが意味が分からず、すべてにうなづいたイレーネ。


しばらくして、渡された鍵を持ち、ハンスの元に戻ってきたイレーネ。

「よくできました」

そう言うハンスに、


「それくらい出来るし」

小さく言い返す。


そして二人は今この部屋にいるのだ。

「自由荘、宿泊者カード」の控えには、


ご希望のお部屋の欄に

「ダブルベッドルーム」にチェックが付けられていた。

そうイレーネ自身が付けたのだ。


「ダブルベッドってこれのことだったんだ」

とイレーネ。


ハンスはと言うと、そんなことには全く気にもしていない様子だ。

もういつでも出かけられる支度が整っていた。


自由荘を出てダウンタウン・バッドの街中に向かう二人。

ここは古い街のようで、石畳の道の両脇に並ぶ建物もかなりの年代物だ。

そして、今までもども街や村でも感じることのなかった雰囲気が漂っている。


「なんだかた街に活気がありませんね」

とハンス。


道沿いには商店もあるが、閉まっている店が多い。

そして路地裏には、人がたむろしている、焚火をしながら酒を吞んでいる。


「氷の祭典ってお祭りがあるのよね?、そんな気配どこにもないよね。馬車に乗ってた人も誰もそんな話してなかったし」

とイレーネ。


夏の国では「引取り祭り」秋の国では「収穫祭」があった。

どちらも周辺の人々は祭りを楽しみにしており、華やいだ雰囲気があったのだ。


「あれ、お嬢さん?」

その時、イレーネに声をかける女性が。


「あ、馬車で」

そこには、ここまで馬車の中でイレーネの隣に座って、クレットリアをおすそ分けしてくれた、

あの女性がいた。


イレーネ達の様子を見て、何かを察したのかその女性は自分の家に来るように誘ってくれた。

「お茶でも飲みましょう」

と言って。


「自己紹介をしてなかったわね、私はロージーマリー、この街で生まれて育ったのよ。

センターシティには定期的に働きに行っているの。

1週間働いたから、次の1週間はお休み」

とロージーマリーと名乗ったその女性が言う。


「私は」


「イレーネね、そしてあなたはハンス」

とロージーマリー。


「馬車の中でそう呼び合っていたから」

と言い笑った。


街の大きな通りをしばらく歩くと、路地裏に入っていくロージーマリー。

その先にある1棟の集合住宅、そこがロージーマリーの自宅だという。


薄暗い階段を昇り、3階が彼女の自宅だった。

ドアを開け、部屋に入るとそこはこじんまりとしたリビング兼キッチン、そして奥にも部屋があるようだ。

古いが、掃除が行き届いており清潔でどこか懐かしさを感じる部屋だった。


「さ、むさくるしいところだけれど、どうぞ、座ってちょうだい」

と、ソファをすすめるロージーマリー。

すぐさま、台所でお湯を沸かし、お茶を入れてきてくれた。


「この街、何もないでしょう?店だって閉まっていることが多いし」

そう言いながら、台所から焼きたてのクレットリアを持ってきた。


「わあ、おいしい、馬車でくれたのもお手製だったの?」

とイレーネ。


「私はもともと菓子職人なのよ。でもここではもう仕事がなくて。それでセンターシティまで出稼ぎにいっているの」

とロージーマリー。


センターシティでのロージーマリーの仕事先は、クリスタルホテルにデザートをや菓子類を納品しているそうだ。


「じゃ、ロージーマリーの作ったお菓子、食べたかもしれないわね」

とイレーネが言うと、


「あなたたち、センターシティではクリスタルホテルにお泊りだったの?」

とロージーマリー。


ハンスは返答をためらったが、イレーネは

「そうよ」

と躊躇なく答えた。


「クリスタルホテルにお泊りだったんじゃあ、自由荘は貧相で驚いたでしょう?

それでも、ここダウンタウン・バッド唯一の宿泊所なのよね」


「ここは、なんだか、人たちもあまり」

とハンスが言いかけると、


「さびれているでしょう、それにみんな陰気で」

とロージーマリーが察して答える。


そして、

「前は違ったのよ」

と続けた。


そして、声を潜め

「あなたたちはお目通りを済ませているのよね」

と二人に聞く。

うなずくイレーネとハンス。


「あの制度、氷の王宮、10年前にあんなものができてから、ここら一帯はおかしくなった。

もともと、上級市民を名乗る輩が横行していて、下級民たちをないがしろにしていたけれど、

増々それが助長されて、いまでは」

そこまで言うと、ロージーマリーは口をつぐんだ。


この国、センターシティとその周辺、そこで何かが起こっている、

それはハンスも感じていることだ。


「それを何故僕たちに?」

とハンス。


「あなたたちに、女神の光が見えるから」

とロージーマリーが言う。


「この冬の国は神々に召し上げられたことはもちろんご存じよね、

それなのに、このあたりではまた王政の復活の動きが出ているの、女神たちは静観しているけれど何か動き出したようだわ」


女神、そう言えば女神テイア。

視察のためにここに来ていたと言っていたっけ。


「でも僕たちはそんな大それた使命を受けてはいませんよ」

とハンス、イレーネも同調して頷く。


ロージーマリーはそこまで話すと、ふとため息をつき、

「なんだか深刻な話をしてしまってわね。この話はもうおしまい、あなたたちも忘れてちょうだい」

そう言って、クレットリアのお代わりを持ってきた。


「あの、お手洗いをお借りできますか?」

とイレーネ。


ロージーマリーが部屋の奥にある手洗いを案内する。

ハンスと二人きりになったロージーマリー。


「あなた、ご家族は?」

とロージーマリー。


「父は故郷にいますが、母は僕が小さい頃出て行ってしまって。今は世界を旅しているそうです」

と少しぼかした答えをするハンス。


「お母様、小さい頃に別れたのね。あなたは覚えているの?お母様のこと」


「ぼんやりとですけどね、覚えていますよ」


「お母様を愛している?」


「もちろんです、母ですから」


ハンスはロージーマリーが自分が母と別れて以来会ていない事を前提に話をしていることがわかっていた。

そして、自分の「愛している」と言うこ答えを聞き安堵している様子も察していた。


イレーネが戻ってくると、

「そろそろおいとましましょう、イレーネ」

と声をかけるハンス。


「お見送りはいいですよ、寒いし」

とイレーネ。


ロージーマリーに部屋の戸口で別れを告げ、二人は住宅から出るために階段を降りた。

共同住宅から外に出ると、先ほどより冷え込んでいるのか、路面が凍り付いている、そして息をするだけで体が冷えて行くのが分かる。


「ハンス、あの家のお手洗いに、フィリップ殿下の写真があったの」


「そりゃ、王様だかた住民が写真をか飾っていてもおかしく」

そこまで言った時、ハンスの何か思うところがあったようだ。


ここの住人は王であるフィリップ殿下の素顔を知らないのだ。


「でもね、その写真、とても小さなころのもので、我が子フィリップってメモ書きがしてあった」

とイレーネが言う。


「どういうこと?」

とハンスがイレーネの顔を見た、その時。


「おい、おまえたち、一緒に来てもらおう」

と数人の男に囲まれた。


ハンスもイレーネも両脇を男に抱えられて連れ去られるように脇道に連れ込まれた。

混乱しながらも、上を見上げると3階のロージーマリーの部屋の窓から人影が見えた。


「ロージーマリー?」

そうつぶやくイレーネと目が合うロージーマリー、しかし動くことはなくそのままじっとその様子を見ているだけだった。

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