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ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


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クリスタルホテル脱出計画、始動

いよいよホテルから「逃げ」ます

「じゃ、計画通りに」

ハンスとイレーネが気合いを入れて、目と目で合図をした。


クリスタルホテルで催された

「フィリップ殿下のお誕生日会」その翌日のことだった。


思えばなにか「おかしな」誕生日会だった。

まず本人が不在、これは致し方ないことだろう、王の誕生日を勝手に祝っているだけなのだから。

その誕生日会、なるものが、クリスマスパーティーとお楽しみ会と結婚披露宴のミックスのような内容だった。


上映されたこの「国」の自画自賛ムービーなんか嘘くさいったらありゃしない。


そして、誕生日会に参加していた客のほとんど、いやイレーネとハンスを除く全員がフィリップ殿下の素顔を知らないらしい。


イレーネとハンスにとってはなんだかかみ合わない出し物を見ながらただフルコースのディナーを食べた、それだけの印象だった。

帰り際に渡された、フィリップ殿下からの贈り物の中身は、砂糖菓子だった。


「これは」

とイレーネ。


「これって、アデーレでは赤ちゃんが生まれた時に配るものよ」

と。


「まあ、まさか僕たちを引き留めるために、あんなパーティーをやったわけじゃないでしょうけどね。

夕食が美味しかったから、それでいいってことにしましょう」

とハンスが言った。


すると、ドアの下に、1通の封筒が差し込まれた。


封を開けて中を見ると、

「オプショナルツアーのお知らせ」

という案内状だった。


明日、センターシティのはずれにある「クリスタル動物園」へ行くオプショナルツアーがあるというのだ。


「明日、10時にロビーにご集合ください」

とミセス・フロリナの自筆で書かれていた。


「明日は動物園だってさ」

とイレーネ。


「いや、行ってられませんよ。檻に閉じ込められるかもしれない」

ハンスが言う。


「じゃ、明日、予定通り決行しましょう。脱出計画」

とイレーネとハンス、そう確認してその日は休むことにした。


ここはクリスタルホテルのファミリールーム。

子供たちはもういないが、まだこの部屋を使っていた。

キングサイズのベッドにイレーネが一人で眠り、リビングのソファにハンスが横になった。


翌朝、どちらともなく早起きをして、

まずはいたって普通にラウンジに朝食を食べに行く。


まだファミリールームの宿泊客だから、ラウンジでも周りは家族連れが多い。

丸いテーブルに、二人で向かい合うイレーネとハンス。


周囲から聞こえる子供の声が、何とも言えず愛おしい。

ヘリオスとセレナがとても恋しい、別れてまだ間もないというのに。


「イレーネ」

子供の方に気を取られているイレーネにハンスが声をかけた。


「あそこに」

とハンス。


そこにいたのは、昨日のお誕生日会で帰り際にイレーネにフィリップ殿下からのプレゼントを手渡した

ホール係のボーイだ。

そのボーイが何気なくイレーネ達のテーブルに付く。


「察しのいい人でよかったね」

とイレーネ。


朝食のメニューを見ながら、ハンスが小声で話をした。

そして頷くボーイ。


遠目には、ハンスがメニューを注文しているようにしか見えない。

それならば、ここまでは成功、上出来だ。


食事を終え、部屋に戻る二人。

その姿を遠くから見つめているミセス・フロリナ。


部屋に戻ると、すべての荷物を持ち再び部屋を出た。

荷物は意識的に少なくコンパクトにまとめられていた。


荷物を持ち、ロビーのフロントに現れたイレーネとハンス。

その姿を監視カメラで確認したミセス・フロリナが、スタッフルームを飛び出しフロントに向かう。


フロントでは、ハンスが何やら話をしている。

その傍らに、イレーネがいる。


そしてフロントマンが、パチンと指を鳴らしポーターを呼んだ、ちょうどそこにミセス・フロリナが

駆け込んできた。


「ハンス様、こちらで何を」

息を切らせながらこう言うミセス・フロリナ。


「あの、ぼくたち」

とハンス。

いつの間にかイレーネとハンスの荷物に手をかけているミセス・フロリナ。


「何か、ございましたでしょうか」

やっと息を整えたミセス・フロリナが改めて、二人に向かって声をかけた。


「ああ、僕たち、部屋を移ることにしたんですよ。子供たちもママの元に戻ったことだしあのファミリルームでは広すぎます」


手には次の部屋の鍵を持っていた。

その鍵に記されているのが、二人部屋の客室番号だということを確認したミセス・フロリナ。

「そういうことですか」

とミセス・フロリナが安堵した表情で言った。


「それでは新しい部屋に行きますね」

とハンス。

荷物を持ったポーターについてエレベーターホールに向かった。


イレーネ、ハンス、そしてポーター、三人が乗ったエレベーターが5階で止まる。

ここが今度の部屋のあるフロアだ。

ファミリールームのあった高層階からすると、かなり下の階になる。


エレベーターを降りた時、どこかで非常ベルが鳴り始めた。

けたたましいベルの音。


「ここにいらしてください、様子を見てまいります」

ポーターはそう言うと、荷物を置いて一人音のする方へと走って行った。


「さあ、いきますよ」

とハンス。


イレーネは自分の荷物を素早く抱えると、廊下の奥にある非常階段に向かった。

ハンスも後を追う。


非常階段を駆け下りる二人。

誰かが後を追ってくる様子はない。

それでもできる限り急いで走った。


こういう時でも、イレーネは持ち前の運動神経の良さで、すばしこく動くがハンスときたら、

必死に走っている、それはわかる、がしかし。


「ねえ、ハンス、慌てないで、ここで転んで階段から落ちたら元も子もないわよ」

とイレーネ。


そうこう言いながらも二人は1階に着いた。

そこには通用口があり、ホテルの裏口につながっていた。

通用口をでると、そこにはあのメモを渡したボーイが立っていた。


ハンスは、そのボーイの事を完全に信用していたわけではなかった。

もしかしたら、こいつグルで逃亡の邪魔をしてくるかもしれない、そう思っていた。


しかし、そのボーイはそのまま裏口へ二人を誘導した。

「ハンスさん、計画通りですね。こんなにうまくいくとは」

そう言いながら。


ハンスはそのボーイに、自分たちが部屋を変えてもらう事、その部屋に向かった時、できればそのフロアに着いた時にあわせて非常ベルを鳴らしてほしい、と頼んでいた。

あの朝食の席でだ。


非常ベルが鳴ると、客を連れている従業員はまず、その現状を確認しなければいけない、

そう言う決まりがある。

それを知っていたハンスが、ポーターが自分たちから離れることを目論んで非常ベルを鳴らしてもらったのだ。


「このまま、外に出てまっすぐ行ってください。馬車乗り場がありますから。6番乗り場からダウンタウンに行けます」

とボーイ。


「ありがとう」

とイレーネが言う。


そして、ボーイが言った通り、裏口をでてまっすぐ、馬車乗り場に向かって走り去るイレーネとハンス。

それをボーイが見送っていた。


「ハンス様、イレーネ様」

裏口の内側から二人を探す声が聞こえてきていた。


ボーイは大きな声で

「こちらには、いらっしゃいませんよ」

と叫んでいた。






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