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ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


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別れの朝

ヘリオスとセレナとの別れです

翌朝、ぐっすりと眠り、とてもすがすがしい気持ちで朝を迎えたイレーネ。

と言っても、目が覚めた時にはテイアも子供たちももうベッドにはいなかった。


もそもそと起きだし、リビングへと行く。

そこには、すでに寝間着から普段着に着替えているヘリオスとセレナ、そして相変わらず魔法使い姿のテイアがいた。


「やあ、おはよう、イレーネ。よく眠れましたか?」

と言いながら入ってきたのハンスは、タオルで顔を拭いている。


「あ。おはよう」

と言いながら慌てて寝室に駆け戻るイレーネ。

ハンスもすでに着替えを済ませており、寝間着姿のままでいるのはイレーネだけだったからだ。


しばらくして着替えたイレーネがリビングに入ってきた。

フーベル伯爵夫妻が調達してくれた、上品で質のいい普段着を着ている。


「じゃあ、打ち合わせ通りに」

とテイアが言う。


これからイレーネとハンス、子供たちでホテルのダイニングラウンジで朝食を摂る。

そして食べ終わった頃、ラウンジに面している正面入り口から、テイアが駆け込んできて子供たちと感動の再会をする、というのだ。


「ねえ、ヘリオス、いつものようにお利口さんで朝ごはんを食べるのよ」

とテイアがヘリオスに言う。

大きくうなずくヘリオス、そのまねをしてセレナも頷く。


「いつも、お利口さん?って?」

とイレーネが小さな声でテイアに聞いた。


「この子たち、食事のマナーが良くできていて、まあ、親の口から言うのもなんなんだけどね。大人しく食べるでしょう?だから外食にも行きやすいのよね」

とテイア。


あの時の大騒ぎは何だったのだろうか。


テイアはそのまま魔法の力で部屋に入ってきた時の窓からどこかへ飛んで行った。

その姿を手を振り見送るヘリオスとセレナ。


「ママはね、よくあんなふうに飛んでいくんだよ」

とヘリオス。


この部屋を出て、朝食を食べたらこの子たちとはお別れだ。

ほんの数日一緒に過ごしているだけなのに、二人がとても愛おしい。イレーネもハンスも小さな子とこんなに親密に接したのはこれが初めてだ。


別れを目前にして切なそうな表情のイレーネに、

「寂しいですね」

とハンスが声をかける。


「うん、でもママの側にいるのが一番だから」

とイレーネが小さな声で言った。


「さ、ご飯を食べに行くよ。」

とあえて明るく大きな声で言うイレーネ。


ホテルの1階、大きな正面入り口をはいったすぐにある、ダイニングラウンジ、

4人でそこに着くと、ラウンジ係がすぐにファミリー用のテーブルに案内してくれた。

前の大騒ぎの後始末をさせられた係員が、すこしだけ冷たい視線を向けていたが。


テーブルに着くとすぐに、ヘリオスとセレナの前にはお子様用、イレーネとハンスの前には大人用の朝食が運ばれてきた。

相変わらずの手際の良さだ。


「ママがお利口さんに出来るって言ってたよ」

そう言ってけん制してやろうとヘリオスをみると、両手を合わせている。


「ねえ、いただきますをするんだから、イレーネも」

と同じようにするよう言う。


「そうだね」

とハンスもいい、


みんなで両手を合わせて

「いただきます」

と声をそろえた。

もちろんセレナはまだちゃんと言うことができないが。


前回とは打って変わって、静かでゆっくりとした食事タイム。

セレナにスプーンでスープを飲ませてやるが、嫌がりもせず大人しく飲んだ。


それでも、スプーンを自分で持ちたがり声をあげた。

「これはダメか」

と覚悟を決めてスプーンを渡すと、何とか自力でスープを口に運ぶセレナ。

上手くいかず、こぼすこともあったが、放り投げることもなくスプーンで食器をたたくこともしない。


「なんか、いい子じゃん」

とイレーネ。


子供たちの様子を見ながら、自分でも朝食を食べることができた。

テーブルの上の食器は運ばれてきた時と大差なくそのままだ。

そして、床に食べ物を落としたりもしていない。

先ほどからチラチラとこちらのテーブルを見ていた、ラウンジ係が安心したような顔になっていた。


みんな、朝食を食べ終わった。

いよいよ別れの時が近い。


テーブルを立ち、ラウンジを出て入り口付近に行く。

打ち合わせ通りに。


ホテルの大きな入り口から人影が見えた。

こちらに走ってくる。


黒い服を着て、どこから見ても魔法使い、と言って風貌のテイアだ。


「まあ、子供たち~ 会いたかったわ、お留守番ありがとう」

と大きな声で言いながら、ヘリオスとセレナに駆け寄った。


「私の出張中、子供たちのお世話をありがとう。あなた方に預けてよかったわ」

とテイアが全くの棒読みで言う。


そこに、フロアマネージャーのミセス・フロリナがやってきた。

この様子を見ていたのだ。


「まあ、このお子様がたのお母様でらっしゃるんですね」

と言いながらテイアに近寄るミセス・フロリナ。


「何か探っている」

そう感じたイレーネ。


「そうなんです、この方の出張の間、この子たちの世話を頼まれていたの。

ここに迎えにきてくれたのよ」

とイレーネがミセス・フロリナの顔を見ながら言う。


「そうでしたか、出張から戻られたばかり、それはお疲れでしょう。少しお休みになられますか?

お部屋をご用意いたしますが」

とミセス・フロリナ。


「いえいえ、すぐにでも家に帰るわ。パパがお待ちかねなのよ」

と陽気に言うテイア。


そう言われてしまうと、これ以上は引き留める訳にもいかない。

少し困惑しながら、


「そうですか、それは早くお戻りになりたいでしょう」

と言うとそれ以上は何も言わないミセス・フロリナ。


「じゃあ」

そう言って立ち去ろうとするテイア。


「聖地で待っているわ。あなたたちなら大丈夫。信じているから」

小声でそう言うと、ヘリオスとセレナを連れて、先ほど入ってきた出入口に向かう。


少し行ったところで、ヘリオスが振り返った。

「イレーネ」

そう言いながら駆け寄るヘリオス。

イレーネはヘリオスを抱きしめた。


するとテイアに抱かれていたセレナがむずかり始めた。

仕方なく、床に下すテイア。


するとセレナが少しだけハイハイをしてそれから、ゆっくりと立ち上がった。

それから一歩、二歩とおぼつかない足取りでイレーネの方に歩いていく。

ヨチヨチとした足取りで歩きながら、イレーネに手を伸ばすセレナ。


「あらまあ、初めてのあんよ」

とテイア。


「レエネ、レエネ」

とセレナが片言で言う。

あと少し一緒にいれば、イレーネと言えそうだ。

でも、あと少しでセレナはもうイレーネの事など忘れてしまうのだろう。


「さあ、ママのところに。元気でね」

イレーネにすがりついているヘリオスにイレーネが優しく声をかけた。


イレーネとハンスに最後のキッスをするとヘリオスはテイアの元に戻って行った。

セレナを抱き上げたテイアが、


「じゃあ、今度こそ。またね、あなたたちを信じているわ」

とテイアはそう言い残すと、ヘリオスの手を引きながらホテルの大きな扉を出て行った。


その後姿をいつまでも見送るイレーネとハンス。

テイアの姿が見えなくなると、


「じゃあ、僕たちも行きましょう」

とイレーネにささやいた。


イレーネとハンスもこのクリスタルホテルを出て他所に行く、

そう昨夜のうちに決めていたのだ。

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