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ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


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手紙と氷の王宮の入り口

ついに氷の王宮に着きました。

金糸で作られた巾着、その中には一枚の絹の布が入っていた。

そこには金糸で刺繍が施してある。

刺繍で綴られた手紙だった。


イレーネの母、ソフィア王妃が自ら綴ったその手紙には、

生まれてくる子への限りない愛情が詰まっていた。

そして、最後に「ごめんなさい」と一言添えてあった。


「お母様」

イレーネがつぶやく。


この手紙はちょうどソフィア妃がイレーネを身ごもった頃に綴られたもののようだった。

イレーネは母、ソフィア王妃の顔を思い出してみた、覚えている限り昔の記憶からすべてをたどってみてもそこに「母」を感じることはできない。


この旅に出てからも、何人かの母親と会った、春の国、ホッピイ農場の農場主の妻、夏の国、ルルカ村の孤児院のママイメルダ、そして女勇者フローレンス。皆、ふとした時に見せる母の顔があった。


イレーネはソフィア妃のそんな顔を見たことがない。

ずぅと湧き上がる疎外感を、自分は特別なのだと無理に納得させていた。

女王になる自分に、母など必要ないのだと。


「イレーネ」

少し離れたところからセレナを抱っこしたハンスが声をかけた。

巾着の中身を確認するのは、イレーネ一人の方がいいだろうとハンスが気を使ったのだ。


「あの中身は?」

と言うハンスに、


「うん、なんでもない。昔の思い出がはいっていただけ」

とごまかした。


あの手紙は噓偽りのない母ソフィアの気持ちだろう。

母から愛されている、イレーネにとってはなんだかむずがゆく、人に言うには照れ臭かった。

それでもイレーネは母の手紙が入ったその巾着を、大切にもとのバッグに戻した。


空気がピンと冷たくなり、周囲が氷におおわれて来た。

目の前には、氷の王宮がそびえたっている。

遠くから見た時より、数倍大きく見える。


ここは「第一の門」

王宮につながる最初の入り口だ。


門番がイレーネ達に近づいてきた。

「お目通りに来られた方でしょうか」

と言いながら。


「入城者名簿」と書かれた手帳に、それぞれの名を記入するように言われる。

記入を済ませると、数人の入城係官の前をゆっくりと通過し、門の中に入ることができた。


しばらく歩くと、今度は「第二の門」が現れた。

先ほどと同じように、門番が近づいてくる。


「イレーネ様、ハンス様ですね」

そう言うと、


「形式だけですが、荷物検査をさせていただきたくお願いいたします」

と丁寧に申し出た。


「なんだか気を使われていますね」

とハンスが小さな声でイレーネに言う。


「私たちのこと、もう身バレれてるみたいよ」

とイレーネ。


先ほど、第一の門にいた数人の入城係官は血筋を見極めることのできる魔法使いのようだ。


「これがいい事なのか、どうなのか、まだ判断はできないわね」

イレーネの言葉に、


「すんなりお目通りって言うのが済むならいいんじゃないですか」

とハンス。


「それで済めばいいけどね」

とイレーネがため息交じりに言った。


ーアデーレ王国 クレメンタイン城のロベルト王子の育児室ー

乳母に抱かれたロベルト王子がすやすやと眠っている。

王子は健やかに、すくすくと育っていた。

その様子を眺めるソフィア王妃。


そう、眺めているだけのソフィア王妃。

ソフィア妃は、ロベルト王子が生まれてから、とある違和感にさいなまれていた。


「この子が生まれれば」

ずっとそう思ってきたのに。


ソフィア妃のロベルト王子に対する気持ち、感情、愛情。

これがイレーネへのものと何ら変わりがないことに気付いたのだ。


それでも、この子はイレーネとは違う、魔女メディアとの約定もない。

「私は、やっと本物の、母になれるはずだ」

ソフィア妃はそう思う事で、自分を奮い立たせていた。


ロベルト王子の誕生が国民に知らされて以来、王室ジャーナルも王子の記事であふれていた。

誕生を喜ぶ国民の声も多く掲載された。


「王子のご誕生、嬉しくて仕方ありません。イレーネ王女もお姉さまになられたんですね」

「弟君がお生まれで、イレーネ王女もますますしっかりした女性になられるんだろう」

国民の声、そのほとんどにイレーネと言う言葉が入っていた。


「イレーネ王女がお姉さまに」

「イレーネ王女、弟のご誕生に大喜び」

イレーネ、イレーネ。


「誕生されたロベルト王子は王位継承権第2位となるが、イレーネ王女が花嫁学校からお戻りになり、勇者をご結婚されてお子様が生まれれば、その子が第2位だ。

王子には今から王女を支えるための教育を始めた方がいい」


「イレーネさえいなければ、この子が次の王になるのに」

ふとした時に思ってしまう。

ソフィア妃はこの考えを、打ち消すように首を振りながら、それでもこれが本心なのだ、と改めて思い知った。

それは誰にも知られてはいけない秘密であるけれど。


ー氷の王宮 最後の門ー

イレーネとハンス、そして子供たち。

ついにこの門をくぐれば城内に入れる。


同じく門番が駆け寄ってきたが、

「どうぞ、お通りください」

といとも簡単に通過することができた。


「なんか嫌な予感だねえ」

とイレーネ。

こんなに物事がスムーズに進むなんて、何かが起きるに決まっている。


城内に入るとそこは大広間となっていた。

お目通りを願う多くの人々が、そこで順番を待っている。


「すごい人、どれくらい待たされるんだろう」

とイレーネ。

子供たちのご機嫌が持つか心配になったのだ。


「今日中に終わりますかね」

とハンスも同様に不安げだ。


その時、

「皆様方はこちらへ」

と一人の男が近づいてきた。


「こちらへどうぞ」

そう言われて付いて行く。


順番待ちをしている大勢をかいくぐりながら先に進む。

そこには、騒ぐヘリオスとセレナに冷たい視線を投げかけたシャトル馬車の乗客もいた。

なんで、あいつらだけ、そんな怪訝そうな顔でイレーネ達を見ていた。


「こちらに」

ととある部屋に通されたイレーネ達。

そこは応接室のようで、宮殿らしくきらびやかな内装で飾られていた。


そこにいたのは、明らかに地位が高いと思われる「王の側近」だった。

立派な礼服を着たその男は、イレーネに近づくとその手を取りキスをした。


そして、

「われらの王、フィリップ殿下が直接お会いになるそうです」

と静かに伝えた。

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