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ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


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価値のあるもの

吹雪の中、追い出されるの?

「滞在費、ゴールドで支払えないなら今すぐに出て行け」

そう言われたイレーネ達。


「なぜゴールドでなければいけないの?この国の通貨ではだめなの?」

とイレーネが聞く。


ここ四季の国連邦で使われているのは世界共通の貨幣のはずだ。

そしてゴールドとは、世界中に流通している装飾品に使われており、それ自体に資産的な価値がある。

価値の変動も少ないので、情勢が不安定で貨幣価値の定まらない国や地域では貨幣をもつよりゴールドを持っていた方が安心なのだ。


「内政不安のこの地域では、貨幣価値などいつどうなるかわからない。

そうのために、われわれ庶民は貨幣ではなくゴールドを持つ。

外国人はゴールドを多く所有しているそうじゃないか。おまえたちも外国からの旅行者だろう」

と言う主人。


「悪いけど、貨幣のペイカはここではほとんど価値がないの。今日は卵が買えても明日には紙一枚買えなくなるかもしれない。そんな状況なのよ」

と主人の妻が言う。


「そうですか。そう言う事情はよくわかりました。でも僕たちはそんなことを知らなくて。

今はゴールドの持ち合わせがないんです」

ハンスは既にこの地域の内政不安を察していた。

しかし、無いものはない。


「じゃあ、これでどうかしら?」

とイレーネが夫妻に金糸で織られた布袋を手渡した。


これはイレーネが女神アフロディーテによって飛ばされた時からずっと持っている小さなバッグの中にはいっていたものだ。


金糸がふんだんに使われた巾着の袋。

その金の糸はアデーレ王国で採れた最高純度のゴールドが使われていた。


二人で手に取って目を見張りながらその袋を眺めるこの家の主夫妻。

こんな高価な品、今までに見たことも触ったこともない。


「本物だろうな?」

と主人が言うが、


「あたりまえよ。刻印だってあるでしょう」

とイレーネ。


その巾着の金具の部分に純度百パーセントのゴールドである印がつけられていた。


「それなら、まあこれでいいとするか」

そう言うと、主人は納屋から出て行った。

その後を追うように主人の妻が、


「すまないね、吹雪がやむまでゆっくりするよいいよ」

そう言い残して去って行った。


ふと見ると、ヘリオスとセレナが仲良くお菓子を食べていた。

ヘリオスが、セレナのために小さくちぎって食べやすくしてやっていた。

あんなに騒いでいたのがウソのようだ。


「ヘリオス、セレナの面倒を見てくれていたのね、ありがとう」

とイレーネ。


そう言われて嬉しそうな様子のヘリオス。

「だって僕はお兄ちゃんだもん」

と得意げだ。


「イレーネ、あの布袋あげちゃってよかったんですか?」

とハンスが心配そうに聞く。


「いいのよ、あれ、なんで持ってるのか知らないくらい前からあるの。中を見たこともないんだけどね。

宝石類と違ってあれには王国の印なんかは入ってないから、売られても大丈夫だし。

とにかく、吹雪がおさまるまでここにいられることになってよかったじゃない」

イレーネはそう明るく言った。


「それならいいですが。でもこの国の情勢が気になりますよね。通貨も使えないなんて。クリスタルホテルではそんなことはなかった。やはりああいうホテルではこの国の内情を見せないようにしているのですね。シャトル馬車の御者が僕たちをここで降ろすことを渋った理由がよくわかった」


クリスタルホテルと氷の王宮間のシャトル馬車は、途中の集落でも乗降可能ということだったが、

降りられる集落は限られている様だった。


実際に、愚図った子供たちが手に負えず、この集落で降ろしてほしいと頼んだ時も、

あれほどのほかの乗客の冷たい視線があるにもかかわらず御者は、


「あと少しで着きますから」

そ停車を躊躇していたのだ。


「この国は闇がありそうですね」

とハンス。


「私たち、今度は国の内政のゴタゴタに巻き込まれるってわけ?勘弁してほしいんだけど」

とイレーネ。


「四季の国を巡る最後の国、一筋縄では通過させてもらえないようですね」

とハンスはさして表情も変えずに言う。


イレーネがいずれ女王としてアデーレ王国を治めることとなれば、国の情勢を知るいい機会なのかもしれない。


「でも、ここは神と女神が納める国でしょ?なんでこんなに内政不安があるのかしら」

とイレーネ。


それはハンスも疑問に思っていることだった。

神々は静観しているだけなのか、それとも収める力が弱くなっているためなのか。


「ほんとに、氷の王宮に行けばあわよくば王様に会えるのよね、そしたら言ってやるわ、不満を持っている国民がいるわよって。

アデーレ王国みたいに、みんなが幸せに暮らせないのかしら」

とイレーネは不満をぶつけた。


「イレーネ、冬の国の国民の幸せ指数は、世界第4位ですよ。それでもこの状況だ。指数だけでは測れないんですよ」

とハンスが言う。



アデーレ王国の国民の幸せ指数は世界第2位だ。

それはイレーネもとても誇りに思っていることだった。

アデーレ王国の国民はみんなが幸せで、国王と王族を崇拝している、そう信じて疑ったことはなかった。


「アデーレの国民も万人が、満足しているわけではないってこと?」

とイレーネ。


「残念ながら、アデーレ王国においても、国境沿いの集落では隣国との小競り合いが絶えない。

それを中央は見て見ぬふりをしているだけだ。

国王軍の指揮官クラスは中央のエリートが占めて、実際に最前線で警備に当たり、戦っているのは国境の村々の出身者だ。

僕のいた、バロウ村も日々強い剣士、勇者になることを目指して鍛錬をする若者がほとんだ。

そして、国王軍に入るのがい一番の名誉とされている。

今は何の疑問も持たずに突き進んでいる若者たちが、いつ反旗を翻すかはわからないんですよ。

貴女はそんなこと、知らなかったでしょう?」


ハンスに言われた通り、イレーネは何も知らなかった。

アデーレ王国のことを。


自分は天使の笑顔で、国民にほほ笑んでいればよいのだと思っていた。

それだけで、アデーレ王国の全国民は自分の事を愛してくれると。


そう言えば、夜、眠れなくて自分の部屋を抜け出し、王宮の中を歩き回ったことがあった。

その時、父、国王の普段は使われていない執務室に明かりがついていて、中で父と数人の側近が真剣に何かを話していた。

ドア越しに見た父の悲しみと怒りと苦渋の入り混じった顔。

あの時、初めて父を恐ろしいと感じだのだった。

いや、父ではなく、王をだ。


「私に何ができるのかしら」

とつぶやくイレーネ。

冬の国のため、そしてアデーレ王国のため、自分は何ができるのだろう、そして何をすればよいのだろう。


「まずはこの子たちをちゃんと親の元に返してやることですよ」

とハンスが言う。


見ると、先ほどまで仲良くお菓子を食べていたヘリオスとセレナはぴったりくっついて、ソファの上で眠っていた。


「空が明るくなってきました。もうじき吹雪も止むでしょう。まずは氷の王宮に言ってお目通りを済ませてしまいましょう。内情を探りながらね」

とハンスが窓の外を見ながら言った。


青空が戻り、空には虹がかかっていた。

避難させてもらった納屋を出るイレーネ達。


「ここからなら氷の王宮まではゆっくり歩いても30分くらいだ、まあ気を付けて」

とこの家の主人が玄関先で見送ってくれた。

一本道の先に氷の王宮、その名の通り氷に閉ざされている城が見えていた。


「さ、頑張って歩いてね、抱っこしないからね」

とハンスとイレーネから言われたヘリオスは、


「大丈夫だよお、僕はもう大きいんだから歩けるよ」

と胸を張った。


その時、家の裏口からその家の妻が駆け寄ってきた。

「あの、イレーネさん」


主人にもその妻にはイレーネもハンスも名を名乗ってはいない。

不思議に思いながらイレーネが妻の顔を見る。


「あの、これはもらえないわ」

とイレーネが宿泊料として主人に渡した金糸で作られた巾着を差し出した。


「これは貴女がもっているべきものだわ。主人も承知しているの。

ぜったに手放しちゃだめよ」

そう言いながら妻は巾着をイレーネに手渡した。


「でも宿泊費、払うには」

そう言いかけたイレーネに、


「お代はいいのよ。こんな状況があるってことをあなた方に知ってもらえただけで十分よ。

どうか、いい旅をしてちょうだい」

と言うと妻は巾着ごとイレーネの手を強く握った。


妻に見送られながら、氷の王宮に向けて歩くイレーネ達。

歩きながら巾着の中を見るイレーネ。


今までずっと持っているこの金糸の巾着だが中身を見たことはなかった。

何故かはわからないが。

中からは、絹のきれいな布が入っていた。

そこには同じく金糸で刺繡がしてある。


それは、刺繍で書かれた手紙だった。

「お母様?」

その「手紙」はイレーネの母、ソフィア王妃によって綴られたものだった。

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