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ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


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子供のいる生活

ヘリオスとセレナ、二人の子に振り回されるイレーネとハンス。

「いやいやいや、無理だよ、やっぱり。この子たちは一刻も早くママに返そう。

その後、私達だけでお目通りにいこうよ」


クリスタルホテルの広いラウンジ、その中の一つのテーブル。

大人の椅子が2つ、子供用と乳児用の椅子が一つずつ、そして丸いテーブルの上は、

食器と食べ物が散乱していた。

テーブルの上だけでなく、床にもナイフやフォークが落ち、食べこぼしがそこら辺中に散らばっている。


ただ朝食を食べただけ、それなのになぜここまでの惨状になるのか。

他の子供を連れた家族のテーブルを見ても、ここまでではない。


イレーネはセレナが投げ捨てた、自分の皿に乗っていたハムと引きちぎって潰されているパンを食べた。

ハンスも同じく、セレナが欲しがって手を伸ばしている卵料理をなんとか口に入れていた。


通りがかった家族連れが、好奇の目でみていた。

「まあ、子供が小さいと食事もゆっくりとは出来ないわね」

といいながら。

見ると、ヘリオスとセレナより3歳くらいずつ大きな子供を連れていた。


子供たちがいよいよ飽きてしまったようなので、部屋に戻るイレーネ達。

立ち去った後のテーブルやその周辺を、テーブル係の給仕が静かに、そしてため息をつきながら片付ていた。


部屋に戻ると、今度は部屋の中を駆け回るヘリオス、どの後を追うセレナ。

ヘリオスの動きがすばしこく、どこかにぶつからないか気が気ではない。


「ねえ、ねえ、これからみんなでお出かけするんでしょ?」

とヘリオスが無邪気に聞く。

いつの間にか、氷の王宮へお目通りに行くという話を聞いていたらしい。


「あんたたちはお留守番」

とイレーネ。


「ええ、そんなの嫌だよう」

とヘリオスがイレーネの腕にすがりついた、そして腕にぶら下がりながら

「いやだあ、いやだあ」

と金切り声で叫ぶ。

イレーネの身体が、ヘリオスの重さで揺さぶられるように傾いていた。


その時部屋のチャイムが鳴った。

ドアの外からミセス・フロリナの声がする。


「おはようございます、よくおやすみになられましたでしょうか」

そう言いながら部屋に入ってきたミセス・フロリナ、手にはタブレットを持っている。


「迷子センターに照会をかけてみようと思うのですが」

そう言うと、タブレットの画面からヘリオスとセレナの情報を入力した。


画面に「検索中」と表示されてしばらくすると、

「0件がヒットしました」となった。

ヘリオスとセレナは迷子として届け出がされていない、というだ、


イレーネがすこしだけ落胆した表情をした。

そんなイレーネと、物が散らかって散乱した部屋を見たミセス・フロリナが、


「事情がおありのようですので、特別に当ホテルのキッズルームでお預かりすることもできますよ」

と提案してくれた。

ミセス・フロリナはイレーネ達のラウンジの様子もすでに知っていたようだ。


「ほんとうに?それはありがたいわ」

とイレーネ。


「じゃ、お願いすることにするわ」

と続けた。


それを聞いたヘリオスが、

「僕たち、一緒に行けないの?」

と小さな声で言う。


「僕、イレーネとハンスと一緒がいい」

と。

しょんぼりと下を向く、その姿が寂しげだ。


「僕、イレーネと一緒に行きたい」

もう一度ヘリオスが言った。

その目が潤んでいて今にも涙がこぼれそうだ。


「一緒に行きたいの?」

とハンスが聞くと、


「だって、僕イレーネもハンスも大好きなんだもん」

とヘリオス。


「じゃあ、いい子にしていられる?騒いだり、泣いたりしない?つまらないから帰るとかできないんだよ」

とハンスがヘリオスに言うと、


「大丈夫!僕もセレナもいい子にしてる」

とはっきり言うヘリオス。


「ねえ、ねえ、いっしょにいきたいよお」

とイレーネにすがりつきながら涙声で言うヘリオス。


そんなヘリオスの姿にイレーネも折れて、一緒に氷の王宮へ行くことになった。


「私、大丈夫かしら」

不安げに言うイレーネに、


「子供のいる生活なんてこんなものですよ、この子たち、格別に手がかかるというわけでもないわ。

いたって普通の子供たちよ、子供はそうやって大きくなっていくの。あなたたちだってつい最近までそんな子だったんじゃない?」

ミセス・フロリナの言葉に、イレーネもハンスも顔を見合わせる。


イレーネはというと、自分の小さなころの事を思い出していた。

宮廷内ではいつも「いじわるで、不機嫌」と言われ、公衆の前に出るときに世界が愛するイレーネ王女、そうするように仕向けられていた。

自分が自由に振舞ったという記憶はほとんどなった。


イレーネのしつけ係だったマダム・フランチェスカにはどれだけの迷惑をかけたのだろう。

マダム・フランチェスカはイレーネがどれほど悪態をつこうが、暴言を吐こうが根気強くイレーネを諭し導いてくれた。

「イレーネ王女、貴女はいつかからなず素晴らしい女王になりますよ」

そう言いながら。


「私は手の焼ける子供だったわね」

とイレーネ。


「じゃあ、この子たちのお相手くらい楽勝でしょう?貴女のお子様時代に比べたら」

とハンス。


「まかせてよ」

今朝の朝食だけでも散々手こずったにも関わらず、イレーネは自信満々に言い放った。




「いい子にするって言ったよね」

氷の王宮行きのシャトル馬車の中で、おもちゃの取り合いを始めたヘリオスとセレナ。


ヘリオスの持っていた暇つぶしにとミセス・フロリナが持たせてくれた玩具をセレナが欲しがり、

手を伸ばす。取られないように逃げるヘリオス。


そのうちヒートアップし、二人は喧嘩を始めてしまった。

さほど広くはないシャトル馬車の車内は二人の子供の叫び声が響きわたっている。


朝食を摂ったラウンジでは周囲も親子連ればかりだったが、このシャトル馬車は色々な人が乗り合わせている。

手帳を取り出して、何か書きながら時々新聞に目をやるビジネスマン風の男、きれいな色を塗った爪を眺めながら鏡を取り出し化粧を始める若い女性。すこしづつその視線が厳しくなっている。


両親に連れられたヘリオスと同じくらいの女の子が、

「私のお兄ちゃまは、おもちゃはみーんな私にくれるわよ」

とヘリオスを見下すように言った。あわてて黙るように諭す両親。


タブレットを広げ何かを打ち込んでいた学者風の若い男が、舌打ちをしながらそのタブレットをたたんだ、バタンと音を立てながら。

「うるさくて仕事にならない」

そう吐き捨てるように言う。


「ヘリオス、お兄ちゃんなんだからおもちゃは我慢してよ」

とイレーネが言った。

するとますます、声を荒げるヘリオス。


「いつもお兄ちゃんって言うなよー」

と叫びながら。

ギャン泣きのセレナと、叫び続けるヘリオス。もう収拾がつかない


イレーネはどうてよいかもわからず、ただオロオロするだけだ。

そんなイレーネとは対照的に冷静な表情で外の様子を見ていたハンス。


「さ、じゃあ、ここで降りましょう」

と一言。


「え?降りるの?ここで?」

とイレーネが言った時には、荷物を持ち馬車の御者に

「ここで降りますー」

と声をかけていた。


クリスタルホテル発着のシャトル馬車は、途中の集落でも乗降客がいれば止めてもらえる。

いま、馬車が走っているが小さな集落のすぐそばなことを確認したハンスが、

これ以上、この馬車には留まれないと判断し止めてもらうことにしたのだ。


馬車を降りたイレーネたち。

ヘリオスはふくれっ面をしている。


「ねえ、あんたのせいでここからは歩きだからね」

とイレーネ。


「お兄ちゃんなのに」

と続けるイレーネ。


その言葉にヘリオスが、ますます頬を膨らませる。

その様子を見たハンスが、


「お兄ちゃんだからって我慢ばっかりするのはいやだよね」

と声をかけた。

その言葉にコクンとうなずくヘリオス。


「でもね、セレナはまだ赤ちゃんですよ、すこしだけ譲ってあげませんか?もう少し大きくなってちゃんと話ができるようになるまで」

とハンスは優しくヘリオスに言った。


ヘリオスは取り合っていたおもちゃをセレナに持たせてやった。

セレナは嬉しそうに、声を上げて笑った。


「優しいじゃん」

そう言いながらイレーネがヘリオスを抱きしめていた。


「吹雪になります」

ハンスが緊張した声で言った。


空の向こう側に真っ黒な雲がありどんどんと広がっている。そして風が少しずつ強くなっていた。

ハンスに促されてイレーネと子供たちが民家のある方に走った。


そして一番近くにあぅた民家のドアをたたいた。

「吹雪の間、避難させてください」

そう言いながら。


すぐにドアが開き、その家の中に招き入れてもらえた。

家には中年の夫婦がいた。


玄関先で、その家の主人らしき男が、

「納屋を使え」

そう言うと、家の隣にある小さな納屋に案内した。


納屋は頑丈な創りで出来ており、中にはテーブルやいすもある。

まるで普段から吹雪の時の避難場所にでもなっているようだ。


主人の妻がお茶とお菓子をもってやってきた。

「さあ、どうぞ」

とテーブルに置く。


「わーい」

と言って手を伸ばすヘリオス。


その様子を見ながら、

「料金を支払ってもらうよ、滞在費だ」

と主人はハンスに言った。


「お金取るんだ」

とイレーネ。


「仕方ないですよ、貸してもらってるんだから」

そハンスは自分の財布から金を出し主人に渡した。


「こんな通貨はこのあたりでは何の役にも立たない。ここでの支払いはゴールドだ」

そう言う主人。


「名誉の金貨は置いてきているし、ゴールドっていわれても」

とハンス。


「ならばここを貸すわけにはいかない、出て行け」

主人に言われて納屋の外を見るとすでにすごき風に雪が舞い視界がほぼないほどの吹雪になっていた。


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