表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/126

クリスタルホテルでの朝

北の国、クリスタルホテルで子供たちと宿泊するイレーネとハンス。どうなることやら

女神、アフロディーテが鏡を覗き込んでいる。

見えているのは、イレーネの姿。

そこに、女神ティアの子供たち、ヘリオスとセレナが一緒にいることを確認していた。


女神の子供たちが迷子になった。

それは大騒ぎで捜索隊を送り込むべきだ、と言う意見まで出たがティアは「視察」という名のお忍びの旅をしている最中だ、あまり騒ぎ立てるのはよくない。


アフロディーテの力で子供たちに強力な加護の魔法をかけ、ティアとの合流を待つことにしていた。

そこにイレーネ達が現れたというわけだ。


「あの子たち、小さな子供相手にどうするかしら」

とアフロディーテは状況を見守る。


女神ティアは、というと、

「移動魔法を使った時に、思わぬ強風にさらされまして、子供たちが吹き飛ばされてはぐれてしまいました。子供たちの気配をたどって居所はわかりましたので、大至急向かっております」

との報告をしていた。


ティアはアフロディーテや他の女神から、厳重注意を受け子供たちと合流次第、帰還せよと命ぜられた。


「女神の子なら、少しくらいのハプニングは付き物なのに」

と反論したが、ますますアフロディーテの怒りを大きくしただけだった。


「子供たちをイレーネが見つけたからよかったものの、なにかあったらどうするつもりだったの」

とアフロディーテ。


そのやり取りを聞いていた神官の一人が、

「ずいぶんとイレーネ王女を信頼なさっているのですね」

と言う。


「そうよ、私の目に狂いはない」

あと少しで再びイレーネとハンスが自分の元に戻ってくる。

彼らは必ず期待に応えてくれる、あえて不合格にしてまで武者修行に出したのだ。

アフロディーテは心でつぶやいていた。


ー北の国、クリスタルホテル ファミリールームー


大きなキングサイズのベッドで一人のびのびと眠るイレーネ。

そんなイレーネがいきなり飛び起きた。

ベビーベッドで寝ていたセレナが泣き出したのだ。


慌ててセレナを抱き上げるイレーネ。

そして、片手でミセス・フロリナが置いていった、


「赤ちゃんのお世話」

と書かれた本をめくっている。


昨夜、イレーネ達の部屋を訪れたミセス・フロリナが帰り際に

「困ったときにはこれを参考に」

と置いて行った本だ。


「赤ちゃんが泣いたら」

というページを熟読するイレーネ。


そこに書かれていたように、セレナのオムツを代える。

そのオムツもミセス・フロリナが準備してくれていた。

オムツを代えて着替えをさせ、顔を拭いてやる。

セレナはもう泣き止んではいたが、ごそごそ動き回りなかなかうまく服が着せられない。


「いや、めんどくさっ。やっぱりどこかで預かってもらった方がいいかも」

そんな独り言を言っていると、ハンスが物音を聞きつけて起きて来た。


「あ、ハンス、おはよう。

ねえ、この子たち、やっぱり置いて行かない?」

と言うイレーネに、


「貴女が連れて行くって言ったんですよ。6歳未満の子を放置すると罪に問われるんですよね。

それだけ、やってはいけないこと、ってことです。

ま、迷子センターで届け出が出ていればセンターに任せられますけどね」

とハンス。


ヘリオスも起きてきたため、そろって朝食を摂りにラウンジへ向かうことにした。

部屋を出ると、長い廊下には何組かの親子連れが歩いている。

このフロアの客室はすべてファミリールームのようだ。


イレーネがセレナを抱っこし、ハンスがヘリオスの手を引きながら歩く。

遠目に見れば家族に見えていることだろう。


ラウンジに着くと、すぐに4人掛けのテーブルに案内された。

子供用の椅子が二つ用意されている。

ヘリオスは自分でその椅子に座り、セレナはイレーネが座らせた。


明るく広々としたラウンジには、たくさんのテーブル並んでいる。

そでに多くの宿泊客がそこで朝食を食べていた。


「お子様用の朝食でございます」

と言ってラウンジのボーイがヘリオスとセレナの前に皿を並べた。


ヘリオスの皿にはパンケーキとフルーツが、セレナの皿にはおかゆのようなスープが入っている。

イレーネ達が頼んだのではないのだが、子供たちの年齢に合わせてメニューが運ばれてきた。


「きっとミセス・フロリナが用意してくれたのね」

とイレーネ。


イレーネとハンスのところにも朝食が運ばれてきた。

秋の国のフーベル伯爵邸で食べた朝食に匹敵するくらいの豪華さだ。

が、しかしイレーネ達はすぐに自分たちの食事を始める訳にはいかないようだ。


ヘリオスは自分で皿の料理を口に運ぶが、口の周りはべたべた、すぐにこぼすのでそのたび拾ったり拭いたり。


セレナはもちろん自分では食べられないので、スプーンで一口ずつ口に入れてやる。

しかも気いらないと口からはきだす。

そして、イレーネの持っているスプーンを欲しがり、仕方なく渡してみるとすぐに放り投げた。


気付けばイレーネもハンスも二人の子どもにかかりきりだ。

自分たちの食事はすっかり後回しになっていた。


「ぼくはもうごちそうさま」

とヘリオス。

こぼしたものもかなり多いがお腹は満足したらしい。


「あ、そういえばいただきますを言わなかった」

とイレーネ、

夏の国のルルカ村の孤児院で、孤児のみんなと食事をした時はみんな揃って

「いただきます」と「ごちそうさま」と言ったのだが、今はそれどころではなかったのだ。


「こういうのは、ちゃんとしないとダメだよね」

とイレーネ。


セレナもそろそろお腹が膨れたようで、やっと自分たちの食事を、と思ったイレーネとハンスだったが、

ヘリオスがハンスの腕を引っ張る。


「もうお部屋に戻ろうよ」

そう言いながら。


セレナはと言うと、イレーネの前にある皿に手を伸ばす。

イレーネが少しヘリオスの相手をしている間に、皿の食べ物を手掴みにすると床に投げ捨てた。


「ああ、食べる物をそんなことしちゃダメでしょ」

と思わず強い口調でセレナに言うイレーネ。

すると、セレナは大きな声で泣き始めた。


テーブルの上はぐちゃぐちゃ、床にも食べ物や食器が落ちている。

そんなイレーネたちに周囲の視線が刺さっていた。


みると周りには同じような「家族連れ」でテーブルについている宿泊客も多くいた。

どのテーブルでもゆったりと食事をしている様で、こんなに雑然としているのはイレーネ達だけだ。

子供たちが3人4人といる家族もいるのに。


「子供のような親ね」

「親が甘いから、子供が大騒ぎしてるのよ」

そんな声が聞こえて来た。


一応イレーネとハンス、そしてヘリオスとセレナ、親子に見えているらしい。


「この子たち、連れて行くの、やっぱり無理」

イレーネがそうハンスにささやいた。


応援していただけるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ