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ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


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幼児と赤子

冬の国、波乱のスタート!

凍り付くような空気、周囲は白く霞がかかったように見える。

息をするたびに、氷のかたまりが肺の中に入っていくようだ。


ここは冬の国への国境につながる扉を抜けたところ。

やっと少し落ち着いてあたりを見回すことができた二人。


どうやらここは公園のようだ。

水しぶきを上げた状態で凍り付いている噴水、花壇には草花のかわりに霜柱が立っていた。


どこか、何か遮るものがあるところに、周囲を見回すイレーネとハンス。

すると、すぐ先に小さな小屋があった。小屋と言ってもおままごとで使うように出来ている遊具の小屋だ。

三角屋根の小さな部屋、壁3面は同じく丸太でおおわれていたが、表面には何もなく自由に出出入りができる。

中をのぞくと、小さなテーブルセットがあった。

そこに、小さな子と赤ん坊がいる。


「なぜこんなとことろに?」

驚くハンス。


「ねえ、あなたたち。あなたたち、二人だけなの?パパやママは?」

イレーネが5歳くらいの男の子に聞く。


「あのね、ぼくたち迷子なの」

その子ははっきりと答えた。


イレーネはというと、寒さで口もうまく回らないというのに。

しかし、その小屋の中は何故が暖かかった。

小屋の中、というより子供たちが暖かさに守られるように包まれていた。


イレーネとハンスも子供たちの暖かさのおこぼれで、少しだけ暖を摂ることができた。

小さな小屋はこともたちとイレーネ、ハンスそして荷物でもう満杯だ。


少し落ち着いたところで、

「ねえ、君、名前はなんていうの? パパやママはどうしたの?」

と改めてイレーネが聞く。


「僕はヘリオス、こっちはセレナ。僕とセレナはママとりょこうにきたの。そしたらママがいなくなっちゃったの。ママが迷子になってるんだ」

とヘリオスと名乗った男の子が言う。


「え、迷子?ママが?」

とイレーネ。


「うん。でもね大丈夫。もうすぐママが見つかるから」

と言うヘリオスにイレーネは、いやハンスも特別な力を感じていた。


この二人にはとても強い加護の力が働いている。

誰かが二人を守っている。


暖かくなったところで、ハンスは荷物の中からフーベル伯爵にあつらえてもらった外套と帽子、それから手袋を取り出した。


「これでこの外気も大丈夫ですよ」

ハンスが冬支度を整えイレーネに言う。


イレーネも外套を着こみ、毛皮の帽子をかぶっていた。

手袋をはめながら、身体が温まっていくことを感じている。


「さあ、じゃあ僕たちは行きましょうか」

とハンス。


「え、行くって?」

とイレーネ。


「いつまでもここにはいられないし、この子たちだってもうすぐママが見つかるって言ってるし」

というハンスの言葉に、


「この子たち、ここに置いていけるわけないじゃない。ママが見つかる?見つからなかったらどうするの?この子たちは確かに何か強い力が備わっているようだけど、だからって放っておけないよ」

とイレーネが反論した。


「そうですか」

とハンスは意外そうな顔をする。


以前のイレーネなら、深く考えることなくこの場にこの子たちは置いていくだろう。

「大丈夫だよ、ママがすぐに来るって」

とか言いながら。


イレーネの態度に驚きつつも嬉しく思ったハンスが、

「じゃあどうしますか?」

と尋ねる。


「ここにいるって言っても、お腹すいたし。今からみんなで宿に行こうよ」

とイレーネが答えた。


「あのね、イレーネ、いきなりみんなで外に行くのは賛成できませんよ。宿だってどこにあるかもわからないのに、この気候の中いきなり子供たちを連れ出して歩き回るのはいい考えではないですね。

まず、僕が宿を探してきます」

そう言うと、ハンスは外套と帽子、手袋にマフラー、冬装備で固め外に出て行った。


小さなままごと小屋で待つ、イレーネと子供たち。

イレーネは子供たちが愚図って泣き出さないか気が気ではない。


「お腹、すいてない?」

とイレーネがヘリオスに聞く。


「僕はさっきお菓子食べたけど、セレナはもうすぐおっぱいの時間だよ」


「おっぱい?」

ヘリオスの言葉に思わず聞き返すイレーネ。


「そうだよおっぱい。セレナはまだ赤ちゃんだもん」


「おっぱいって?」

イレーネはそれが何を意味するのか、なんとなくは知っているのだが。


「おっぱいだよ、ここ」

そう言いながら、ヘリオスがイレーネの胸をつついた。


赤ちゃんと言うのは乳を飲むものだ。それくらいの知識はイレーネにもあった。

実際、王宮でのイレーネの侍女のリーダーはかつてイレーネの乳母だった人物だ。

いつも

「イレーネ王女はわたくしのお乳でお育ちになりました」

そう言っていたっけ。


そんなことを考えていた時、ハンスが戻ってきた。

小屋の気温が一気に下がる。

ハンスの眉毛や帽子からはみ出している髪の毛は氷ついている。


「ちかくにホテルがありましたよ、すぐに行きましょう。

ここには書置きをしておくといい。この子たちのママと連絡が取れるように」


イレーネはヘリオスに上着を着せ、赤ん坊のセレナはショールに包み抱っこした。

そして小さなテーブルには、ヘリオスたちの親に宛てた手紙を残した。


ハンスがキャスターの付いた大きなバッグの上にヘリオスを座らせる。

するとまるでカバンが動く椅子のようだ。


外套のお陰で、さっきよりは寒さは感じないがそれでも、吸い込む息が凍り付く。

公園を出るとすぐに街中、商店は飲食店が立ち並んでいる。


「あの、この子もうすぐおっぱいの時間なんだって」

イレーネがハンスに言った。


「そうですか、じゃあ、ホテルでミルクを用意してもらいましょう。

大きなホテルだからそれくらいあるでしょう」

とハンス。


「でもさ、おっぱいって」

そう言いながら、無意識に自分の胸に手を当てているイレーネ。


「さすがに乳母をやってくれる人はいないでしょう。

この子たちの荷物の中に哺乳瓶があるから、ミルクをもらえれば大丈夫ですよ」


ハンスの言葉にやっと納得したイレーネ。


「赤ちゃんとというのはとてもか弱く、おっぱいを飲まないと生きてはいけません」

王宮で習った「国民の暮らし」と言う授業でそう教えられた。

赤ちゃんを産むと母親は母乳が出る、と習ったのも思い出した。


「私は、何を考えているんだろう」

一人で照れるように笑うイレーネ。


イレーネはこの小さな赤ん坊に、自分でおっぱいをあげる気になっていた。

そうでもしないと、この小さな赤ん坊がお腹をすかして死んでしまうのではないかと

本気で危惧していた。


ホテルに着くと、すぐにフロントで宿泊の手続きをした。

ハンスは空室状況を聞いて、部屋を確保してくれていたのだが、

ハンス、イレーネ、そして二人の子供たちを見た、ホテルの従業員が、


「ご家族ですね、それならばファミリールームのご利用はいかがでしょうか。

ちょうどいましがた1室のみ空きが出まして」

と声をかけた。


「ファミリールーム?」

ハンスは今まで泊ってきた時と同じように、自分は大部屋、イレーネと子供たちだけに個室をとるつもりだったのだ。


「それではすぐにでもお部屋にお子様のミルクを届けさせますので」

そう言うとその従業員は、ハンスたちの荷物を部屋まで運ばせた。


ハンスとイレーネが通されたのは、

大きなサイズのベッドが中央に、その横に子供用ベッドとベビーベッドがある広々とした客室だった。


「みんなでお泊りするの?」

ヘリオスが大喜びしながら部屋の中を駆け回った。


「これって、みんなで寝るってこと?」

イレーネが小さくそして驚いて声をあげた

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