運命
イレーネとハンス、お互いの気持ちをやった確認できたのか?
「運命」なんですか?
イレーネがハンスと結婚する。
これ運命だ、と言い放ったイレーネ。
それに動揺したのはハンスの方だった。
つい今しがた、
「一生、貴女を支えていきたい」
なんて自分から言ったばかりなのに。
イレーネから改めてそう言われると、動揺を隠しきれない。
「僕でいいんですか」
思わす口から出そうになった。
「フーベル伯爵ご夫妻や、フローラとイーサムなんかを見ていて、夫婦っていいなって思うようになったの。夏の国のロバンナとマデリン、この旅で出会ったご夫婦ってみんなすごく魅力的だわ。
私のパートナーはやはりハンス以外に考えられない。
これは魔女メディアがいてもいなくても、そんな気がするの」
頬を紅潮させて話すイレーネ。
そんな彼女に、
「それじゃあ、二人の出会いでも聞かせてもらえるかな」
動揺しまくり、うつむいているハンスの事は全く無視してフーベル伯爵が言った。
イレーネはフーベル伯爵とテレーズに
「勇者ロードレース大会」の話をする。
自分の結婚相手はアデーレ王国の勇者の中から選ばれる、その選出方法は
ロードレース大会の優勝者。
そして、イレーネの小細工で参加者全員を棄権させるつもりが、なぜか一人レースを続け優勝してしまったのがハンス。
「ハンスがヨレヨレになりながら、ゴールにたどり着いた時、びっくりしたけど、笑っちゃったわ。
すごい恰好だったんだもん」
まるで楽しい思い出話でもしているようねイレーネ。
「笑って話してますけど、その後はなんとかして僕の事を追い出そうとしたじゃないですか」
やっと話に加わるハンス。
そう、確かにそう思った。
追い出そうとしたり、出て行くように仕向けたり。
もしも、あの時ハンスがいなくなっていたら。
今頃どうなっていたのだろうか。
「でも、いなくならなかった。これこそ運命だよね」
夢見る瞳で語るイレーネ。
「でも、試験に落ちたのね」
とテレーズ。
ここで現実に戻るイレーネ。
「あとやることは、全力で試験に受かることよ。ハンス、勇者の修行を怠らないで」
ハンスに向けて鋭い言葉をかけた。
「それが問題なんだよね」
頭を抱えるハンス。
「もうしっかりしてよ」
さらに言うイレーネ。
「僕の事ばかり言いますが、貴女は大丈夫なんですか?王女として、未来の女王としての気質ってやつですよ」
とハンスも言い返す。
そこで「ふう」と大きくため息をつく、イレーネとハンス。
お互いに顔を見合わせ、何とも言えない不安げな表情になった。
そんな様子を見たフーベル伯爵とテレーズが、二人に屋敷周辺を散歩することを提案する。
一通り事の次第も聞いたことだし、行き詰っている様子の二人には気分転換も必要だ。
フーベル伯爵邸の敷地は広大で、その中には自然が多く取り入れられた美しい庭園もある。
出かけて行った二人を見送ったフーベル伯爵夫妻。
少しうなだれながら歩くイレーネとハンス、それとは裏腹に明るい笑顔で見送る夫妻。
「イレーネにはなにか強い呪文がかけられている。それを自分の力で打ち破ろうとしているわ。
この旅はそのために必要だったのね。あと冬の国であの子が何を見つけるか、学ぶか。でもあの子なら大丈夫、必ず自分に必要なものを得られるわ」
テレーズが自信を持って言う。
「それからハンス、あの血筋はかなりのものよ。でもね、彼は優しくて穏やか。戦いには向かないわ」
「勇者というと戦う事ばかりが強調されがちだが、勇者は戦力以外ににも大切なものがある。それは人としての力だ」
「ならハンスも問題なしね。」
「なら、彼らが冬の国で快適に過ごせるよう、支度を整えてやろうではないか」
「そうですね、あの子たち、あの身支度で行くつもりなのよ。あれじゃあ5分で凍死してしまうわ」
伯爵夫妻がそんな会話をしている頃、イレーネとハンスは館の中庭にいた。
中庭と言ってもかなりの広さがあり、真ん中の池では白鳥が優雅に泳いでいた。
池のほとりに近づくイレーネ、すると白鳥たちが寄ってきた。
出かけるときに、テレーズが持たせてくれたパンくずを投げると、白鳥が長い首をひねらせてそれを受け止めた。
白鳥たちはイレーネの側を離れない。まるでパンくずをねだっているようだ。
イレーネがパンを投げると、白鳥たちがこぞって取ろうとした。
その中にいつも取り損ねている1羽の白鳥がいた。
周りよりも少し小さい。少し前まではひな鳥だったのだろう。
その白鳥がパンを食べられるように、イレーネはくちばしの先に持っていってやった。
パンをくわえるその白鳥。やっと食べられたようだった。
持っていたパンくずを白鳥たちにやり終えると、
「白鳥って、人に寄ってくることもあるのね」
とハンスに言うイレーネ。
パンを持っているとはいえ、自分の方に寄ってきたのが不思議な様子だ。
「アデーレの王宮の池にもいたでしょ?白鳥たち。寄ってこなかったんですか?」
と言うハンスに、
「だって、石投げてたもん」
とイレーネ。
王宮の池にいた白鳥や、その他の水鳥、庭に現れる小動物、それらを見つけるたびに石を投げて追い払っていたイレーネ。
その姿を見て、眉をひそめる侍女たち。王女様はなんて意地悪をするんだろう、そんな視線を向けていた。
私は、なんであんなことをしたのだろう。
「これからは、石ではなくパンや餌を投げてやりましょう。
追い立てるよりも、寄ってきてくれた方がうれしいでしょう?」
ハンスのこ言葉にうなずくイレーネ。
ー聖地 女神アフロディーテの居間ー
「あの二人がついに冬の国へ入ろうとしている」
アフロディーテは二人の様子を遠くからいつも見守っていた。
イレーネの変化、ハンスの揺るがない大きな心、それを知っていた。
冬の国で見つけるものの大切さに気付けば、あの子たちの未来は明るいわ。
その時、
「アフロディーテ様、女神のテイアの子供たちが」
と言いながら侍女が駆け込んできた。
「テイアの子供たちが、ヘリオスとセレナが四季の国連邦で迷子になったと報告が」
女神テイアは視察を兼ねて四季の国の連邦国に滞在していた。
ヘリオスとセレナの幼い兄妹も同行していたのだが、その二人がどこかでいなくなってしまった、
というのだ。
女神の子が迷子、前代未聞の事態に女神たちは大騒ぎとなった。
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