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ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


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決闘

伯爵立会いのもと、決闘がはじまりました。

フーベル伯爵邸、その各闘技場。

二人の男が向かい合って立っている。


一人は、ホリデイ伯爵の子息、ジャック、そしてもう一人は「勇者」ハンスだ。

真っ白なマントに身を包み、高々と剣を掲げるジャック。

一方のハンスも、マントをまとい、ーこれは伯爵がその身なりではあんまりだ、と好意で用意してくれたー聖剣シュバを手に携える。


二人が自分の剣を地に刺し、立会人となるフーベル伯爵に一礼をする。

フーベル伯爵が決闘が成立したことを宣言した。


イレーネとテレーズが見守る中決闘が始まった。


ジャックとハンスがまずはにらみ合いながら剣を合わせる。

ジャックの剣は豪華な装飾が施してあり、それは高価な品のようだがその剣自体には威厳などないようだ。


「お前、何故そんな剣を持っている」

とハンスの剣を見たジャックが言う。


ハンスの持つ聖剣シュバ、これはハンスの家に伝わる、「ロイヤル」の称号を持つ剣だ。

勇者の家系とは言え、そこまでの剣を持つ者はそう多くない。


「血筋だけは勇者なようだがとてもそうとは思えないお前に、その剣は似合わない」

ジャックもシュバが特別な剣であることは一目みてわかったようだ。


聖剣シュバ、どちらかと言うと、イレーネとの方が相性が良く、イレーネがシュバを持った時には素晴らしい活躍をみせていたが、ハンスが持つときにはどうも威力を発揮しない。

それでも、今はシュバが輝きを見せている。


「シュバ、やる気だね」

それを見たイレーネが思う。


二人の剣がぶつかり合い、金属音がこだまする。

ジャックの持つ剣も、見た目のチャラさと裏腹に機敏に動く。


シュバはその剣をことごとく跳ね返し、逆にジャックを追い詰めている。

ハンスの動きも素早く俊敏だ。


「こんなハンス、今まで見たことがない」

イレーネが驚いて言う。


剣の応酬が続き、どちらの力も互角、なかなか決着がつかない。

ハンスの息が上がってきた、ジャックも汗だくで少しずつ動きが鈍くなっていた。


その時、先に動いたのはジャックだった。

剣を大きく振りながらハンスに飛びかかる。

咄嗟に、シュバを構え、切りかかってきたジャックの剣を受け止めた。

そして、そのままはねのけた。


その時、大きく力が入った為が、ジャックが剣を離してしまった。

それにつられるように、シュバもハンスも手を離れた。


二本の剣が宙を舞った。

そして、イレーネの方に向かって飛んで行った。


咄嗟にイレーネをかばおうとするテレーズ。

しかし、イレーネは飛んできた剣、シュバを右手に、ジャックの剣を左手にいともたやすく受け取った。


二本の剣を持ち、進み出るイレーネ。

そして、シュバをハンスの肩に、もう一つをジャックの鼻先に向けた。

相変わらず鮮やかな剣さばきだ。


「これよこれ!勇者フローレンスみたい。かっこいいんだよねーやってみたかったんだよ」

と心で言うイレーネ。


「これまでよ」

剣を構えたままのイレーネが言う。


「伯爵、よろしいでしょうか」

その言葉に、


「もちろん、貴女の意のままに」

と立会人の伯爵が言う。


「二人とも、決闘はここまでよ。勝負はつかないわ」

毅然と話すイレーネにためらいながらも、


「なぜおまえがそう決める。お前は」

とジャックが不満げに言った。


「お前は?え?なに、お前は勝った方の好きにされればいいって?」

イレーネはジャックに詰め寄りながら言う。


「だいたいにして、私をかけて決闘ってなんなのよ。あんたが勝てば私を自分のものにするつもりだったんでしょ。自分のもの?なにそれ?妾にでもするともり?あんたは高級貴族の何とかちゃんって子と婚約間近かなんでしょう。それを私に手を出そうとするなんて。

私にとっても、その子にとっても失礼極まりないわ」


早口でまくし立てるイレーネ。あっけにとられるジャックだったが、


「おい、お前、お前の分際で「あんた」とはなんだ。俺は伯爵さまだぞ、本来ならお前なんざお目通りもかなわないようなお方なんだ。

お前の気持ち?そんなことはどうでもいい。お前にはそんなことを言えるような立場ではない。お前は俺の言う通りにすればいいんだ」


「あんた」と呼ばれたジャックも負けじと言い返す。


「お前たち平民は俺たちの言いなりになっていればいいんだ」


顔を真っ赤にしてジャックがこう言い放ったところで、フーベル伯爵が立ち上がった。

そして、


「君たちのようなこの国の未来を担う若者がそういう考えであるのならば、この国の貴族たちはもう衰退していくしかないのかもしれないね」


フーベル伯爵は静かに語り始めた


この国ではかつても今も、貴族や戦士、勇者といった多少の特権階級にある者たちが

「決闘」をすることがある。

自身の名誉の身をかけて行うこともあるが、ほとんどの場合、家族や恋人、治めている領地やその民などをかけて行われる。


「勝てばいいが、負ければ。

勝負には勝ち負けが付いて回る」


ほんの些細なメンツの張り合いから決闘となり、大勢の罪なき人々の命が奪われた。

多くの民が住む場所を追われた。

そんなことが繰り返されているのだ。


「私の妻、テレーズもそのひとりだ」

とフーベル伯爵。


フーベル伯爵がまだ若い頃のことだ、

爵位を継ぐ直前、社会勉強を兼ねて地方視察の旅をしていた。


ある村で、そこの「貴族」から言いがかりをつけられた。放っておけばいいものを若気の至りで、言い合になり言い返してしまった。

そして挙句の果てにこの村を無事に出たいなら、「決闘」せよと迫られた。


「お前が決闘に応じないなら、あいつらは皆殺しにする」

そう言い指さした先に小さなあばら屋に女子供が詰め込まれている。

先日の「決闘」で奪い取った領地にいた民衆なのだそうだ。


その決闘を受けざるを得ない状況にされたフーベル伯爵。

致し方なく応じるが、たぐいまれなる剣の使い手であるフーベル伯爵の相手ではくその貴族はあっさりと敗れた。


「負けは認める。お前の欲しいものを言え」

とい申し出に、


「ならばあの人たちがいた領地を返し、あの人たちも元居た場所に戻してほしい」

そう言うフーベル伯爵。


「よし、わかった。だがそれでは私のメンツが立たない。

あの中から娘を一人連れていけ。お前にやる」

その貴族はそう言って譲らない。


フーベル伯爵は小屋にいた娘の中から、身寄りがいないと思われる一人を選んだ。

それがテレーズだった。


「私は、テレーズの気持ちも考えず、連れ出した。彼女に断ることなど出来ないことはわかっていたのに、私と一緒に来てほしい、などと言って」

伯爵の言葉に


「もう昔の事よ」

とテレーズがほほ笑みながら言った。


その時、闘技場扉が開き、一人の男が現れた。

ジャックの父、ホリデイ伯爵だ。


「フーベル伯爵殿、我が愚息が失礼をした。事の次第はだいたい聞かせてもらった。

この勝負、決着つかず、それでいいなジャック」

ホリデイ伯爵は少し前からここでのやり取りを扉越しに聞いていたのだ。


「やあ、そこのお嬢さん、グリンズフィルズの領主の館で、ジャックとホワイトダンスを踊った娘さんだね。

ジャックはあれ以来、君に夢中らしい、でも無理に連れ去ろうとか決闘で我が物にしよう、などとは不届き極まりない。どうか息子の愚行を許してほしい」


イレーネに近づき、頭を下げるホリデイ伯爵。


「父上、平民の娘になんてことを」

その様子を見たジャックが言うが、


「お前には、まだわからないのか。

このお嬢さんに好意を持っているなら、何故直接言わないのだ、誠意をもって接しないのだ。

相手の身分が何であろうと、自分の好きになった女性(ひと)に直接愛を伝えることも出来なくて、

どうする」


あきれた様子で、ジャックを諭すように言うホリデイ伯爵。


「父上、平民の娘に告白しろってですか?

もうわかりましたよ、もうこの娘などどうでもいい。決闘は俺の負けってことでいい」


苛立った様子で吐き捨てるように言うと、ジャックは部屋を出て言った。


「フーベル伯爵そして奥方、それからお嬢さん、そして婚約者殿、我が息子がご迷惑をおかけした。

この決闘の事は忘れてくれ。

あのような性根ではお嬢さんに好意を持つ資格もない。貴族と言う立場に胡坐をかいているだけの根性の腐った男だ。

どう叩き直したらいいものか」

そう言うと、申し訳なさそうにフーベル伯爵はイレーネに向かって一礼をした。


ホリデイ伯爵とその息子ジャックがフーベル伯爵邸を去ってゆき、

平穏にもどったところで、伯爵夫妻とイレーネ、ハンスでの夕食となった。


イレーネはどうも食欲がなく、食事が進まない様子だ。

それを見たテレーズが


「疲れたのでしょう。早めに休むといいわ。あとでお部屋に夜食を届けるからもしお腹がすいたらどうぞ」

そう言い、先に退席するように促した。


フーベル伯爵邸の豪華な客室で、イレーネは疲れ切った身体をソファに横たえた。


「ハンスはなんで、何も言ってくれなかったんだろう」


ジャックとホリデイ伯爵のやり取りの間、ハンスは何も言わず黙っていた。


「イレーネは僕のものだ、とか言ってくれればいいのに」

悲しいのと、歯がゆいのとが交差する。

そんなことを考えている間に、いつのまにか眠ってしまっていた。

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