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ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


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フーベル伯爵邸

フーベル伯爵の屋敷に到着したイレーネ達。どうなる?

イレーネとハンスは二人だけで

昨夜、わずかな時間を使って話の口裏を合わせるため打ち合わせをした。

イレーネであろうと、「イーリア」であろうとジャックはホリデイ伯爵の名のもと「平民」であるイレーネを差し出すことを要求してくるだろう。


「こうなったら身分を明かして、お引き取り願った方がいいんじゃない?」

とイレーネは言うが、


「ここまで貴女を追い掛け回しているのに、貴女の事に気付かない奴ですからね。

貴女が王女だと言ったところで信じないでしょう。フーベル伯爵たちに事情を話してかくまってもらった方が得策ですよ」


「どちらにせよ、身バレするんだよね」


「この旅で貴女の身分を隠さなければいけないって制約ないですよね、周りが認識していないだけで。

必要な時は明かしても良いかと思いますよ。貴女がジャックの元に連れていかれてしまったら、逃げ出すのは大変です。逃げられないかもしれない。そうしたら貴女はそのままあのジャックの妾ですよ、それに期限までに女神の元に戻らないと、アデーレ王国はどうなるんですか」


「貴女がジャックに連れ去られるのだけは何としても避けなければ」


ハンスは、自分がジャックの元に連れ去られるのを阻止しようしてくれている。

それはありがたい、うれしい事だ。

でも、それはアデーレ王国の為。


「お前は誰にも渡さない」

とか言ってくれればいいのに。

とイレーネはドラマ「ベッキーの旅」のロイドの名セリフを思い出していた。


イレーネとハンスの乗った馬車はホステルを出発し街中を走り、しばらくして郊外へと出た。

ネオ・トワイライト郊外には、大きな屋敷ばかりの閑静な住宅街が広がっている。

さらに進むと、広大な敷地のフーベル伯爵の館が見えてきた。


「すごいお屋敷ですね」

ハンスが驚きながら言う。


「そうでしょう、フーベル伯爵は秋の国の貴族の中でも高貴なお家柄だから、お屋敷も大きくて格式が高いのよ。今夜からはこちらにお泊りになれるなんて、あなた方は本当に幸運なお方だわ」


「ジャックに連れていかれなければね」

イレーネが小さく呟く。


マリア・ステラは何故イレーネ達が伯爵の館に呼ばれているのか、その詳しい理由までは知らないようだ。


伯爵の館に到着すると、すぐに伯爵夫妻と会うことが出来た。

伯爵の方も、ジャックとの面会の時間より早く、イレーネ達を呼んだのだ。


伯爵家の居間で、おつきの者が誰もいなくなったことを確認すると、

「ホリデイ伯爵の子息、ジャック、あの男が君を見つけてしまったね。偽名まで使ったのに。

面会を求めているということは、君を自分のものにしようとしているということだ。婚約者がいようがいまいがそんなことは彼らには関係がない。彼の思っている君ならそれを拒むことはできないが、そうではないよね、君は」

伯爵の言葉に顔を見合わせるイレーネとハンス。


「貴女は庶民の娘ではないでしょう?とても高貴なご身分だと察するのだけれど」

とテレーズ。


「あの、そのことなんですが」

イレーネがそう言いかけその時、


「おい、ここにいるのはわかっている。

お前、お前だ」

そう言いながらジャックが周囲の制止も聞かず、部屋に飛び込んできた。


「おい、お前、婚約者と言ったそうだな、イーリア、いやイレーネ、もうどちらでもいい」

ジャックはハンスも前に立ちはだかると、


「お前、イレーネの婚約者とやら、俺と決闘しろ」

そういい放った。


「おお、ハンス君、君は婚約者としてこの青年から認知されているようじゃないか」

フーベル伯爵がゆっくりと立ち上がり、二人の間に割って入った。


「ホリデイ伯爵のご子息、ジャック君、面会の時間にはまだ早いようだ、随分と早く到着したんだね」


「それは」

伯爵の言葉に返答を濁すジャック。


「まさか君は、早く来てイレーネ嬢を待ち伏せなどするつもりだったのかな」


伯爵の指摘に思わず、顔を引きつらせる。ジャックは指定された時間より早くやってきて、イレーネの到着を待ち、屋敷に入るところを拉致しようともくろんでいたのだ。


「いや、それは違うぞ、私はイレーネ嬢への誠意を示すために早く到着したのだ。そしてその、婚約者なる者と一刻も早く決闘をして決着をつけたい、その一心で事を急いたのだ。

改めて言う、ハンス、お前に決闘を申し込む。イレーネ嬢をかけてだ」


ジャックはお付きの「使えない」魔法使いのお陰でハンスが勇者の血筋だということを知っていた。

勇者が正当に申し込まれた決闘を拒むわけがない。


「わかりました。その決闘、受けて立ちましょう」

ハンスが高らかに言い放つ。


「ちょっと、待ってよ、ハンス、決闘よ、決闘。伯爵がいる前での宣言よ。これは正当な申し出だわ。あなた、勝つ自信とかあるの?」

あわててイレーネがハンスに言うが、


「シュバを信じています。シュバが僕に戦え、任せろと言っているのです」

と自分満々だ。


「それでは、ホリデイ伯爵家、ジャックと勇者ハンスとの決闘、このフーベルが認めよう。

ジャックにハンス、その血筋にかけての決闘に異論はないな」

二人とも、「異論なし」と大きくうなずいたため、この決闘が成立した。フーベル伯爵が立会人となる。


決闘はこのあとすぐに、フーベル伯爵邸の各闘技場で行われることになった。

二人が準備のため、それぞれ用意された控室に行くと、取り残されたイレーネが、


「私はどうなるの?」

と同じく、その場に残されたテレーズに聞いた。


「勝った方のものってことになるわね」

とテレーズ。


「ものって、私ものじゃないわ。」

とイレーネ。


「それでも貴女は勝者のものになるのよ、これが決闘の宿命なの」

そう言うテレーズはどこか悲しげだった。


イレーネの正体に気付きかけていたフーベル伯爵夫妻だったが、この決闘騒ぎでうやむやになってしまったようだ。

ここでイレーネが身分を明かせば、決闘は避けられるかもしれない。しかし、それではジャックのメンツを潰してしまう。そうなればその後が恐ろしい。父のボリディ伯爵まで手出来て。フーベル伯爵夫妻に災難があるかもしれない。


それに、自分をかけて、決闘する。これが気に食わない。

人の事をかけるだなんて、私の気持ちはどうでもいいの?


イレーネは、この場では身分を明かすことはせず、そのまま決闘を見守ることにした。


「見てらっしゃい」

そう言いながら。


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