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ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


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また会うための別れ

ネオ・トワイライトで出会った人々とも一旦お別れです。

表彰式の会った日の夜、フローラとイーロンの行きつけの店で宴が行われた。

イレーネとフローラの優勝を祝うのと、明日には春の国に戻るアイルとヤアナの送別会だ。


「伯爵邸でのことは聞けなくて残念だわ」

とヤアナ。


ここにいる皆、フーベル伯爵邸に招かれている本当の理由を知らない、ハンスを除いては。

国境の街、グリンズフィルズで偶然、伯爵夫妻と出会っていたイレーネとハンスが、

「いつでも遊びにいらっしゃい」

という伯爵の言葉を真に受けて、訪問を直訴したところ願いが叶った、そう言うことになっていた。

まんざら間違いではないのだが。


「ルイザはどうするの?いつまでここにいるの?」

とフローラが聞く。


「私も明日には西の国境沿いに行くわ。そこに同じルビア魔法学校の仲間がいるから。一緒に校外実習をしているのよ。私がここに来ている間待っててもらっているの。そろそろ戻らないと」


「一人で行けるの?西は遠いわよ」


「大丈夫よ、私は認定魔法使いになるのよ、一人で移動できなくてどうするの」


美味しい料理と酒で会話ははずみ、和やかな時間が過ぎていた。

しかし、イレーネだけは

「彼女は僕の婚約者」

その言葉で頭も心もいっぱいになっいた。周囲の会話なんてもちろん上の空。

しかし、笑顔を絶やさず、そんな様子は微塵も感じさせない。

作り笑いと楽し気な素振り、聞いてるフリなら大のお得意だ。


一方、イレーネの心をいっぱいにしてしまったハンスはというと、

まったくもって、いつも通りだ。


「ね、イレーネ」

いきなりハンスに話しかけられて、慌てるイレーネ。


「あの、何の話?」


「いやだなあ、聞いてなかったの?イレーネ、もう酔っ払いってるんじゃない?」

とハンス。


「あの言葉はとういうつもり?」

そう聞きたいイレーネ、でも聞きたくない。

もしも、

「ああ、あれは咄嗟に出てしまったんですよ。貴女の婚約者だとか思ってるわけないじゃないですか」

とか

「そう言えば一緒に行けるかと思って。恐れ多いこと言ってすみません、決して本心ではありませんから」

とか言われたら、


どうしよう、なんだか悲しいかもしれない。


明日の朝、一番の馬車で国境の街グリンズフィルズに向かい、その日のうちに春の国に帰る予定のアイルとヤアナのためにその日は早めにお開きとなった。


「明日の朝はまだ日が昇る前に立つから見送らなくていいよ」

とアイル。


「皆さんに会えてよかったわ。春の国に来ることがあったら教えてね」

ヤアナも少し寂しそうだ。


フローラとイーサムがイレーネ達が泊るホステルまで送ってくれた。

そこで、別れを告げるアイルとヤアナ。


ルイザはフローラ達の好意でフローラの家に泊まり、やはり明日の朝には西の国境に向かうそうだ。


「ここでお別れだね、イレーネ。でも必ずまた貴女の元に戻るから」

そう言うルイザ。

そしてイレーネだけに聞こえるように、

「専属の魔法使いとしてね」

とささやいた。

静かにうなずくイレーネ。


「またお別れだね」


この旅に出てから、何度も出会いがあり、別れがあった。

出会うのはいいが、別れは寂しく切ない、悲し気な表情のイレーネに、


「また再開する楽しみができましたね」

とハンスが声をかけた。


「出会いがあれば、別れもある、でも誰かと出会わなければ再会することもないんですよ。

イレーネ、出会いがあって別れがあった分、再会する機会が増えたんです。

また会う日を待ちましょう」

とハンス。


「フーベル伯爵邸に行って、状況次第ではそのまま冬の国に行くことになるかもしれません」

ハンスに言われ、イレーネもまたの再会を願って、皆に別れを告げた。


翌朝、ドアをたたく音で目を覚ますイレーネ。

前日までの疲れが出たのか、かなり朝寝坊をしてしまったようだ。


「イレーネさん、伯爵様からの使いの者でございます。お支度はよろしいでしょうか」

ドアの向こうから女性の声が聞こえた。

フーベル伯爵邸で秘書とした働く、マリア・ステラと名乗る女性がイレーネの部屋の前で待っていた。


少しだけドアを開けるイレーネ。

ドア越しに、スーツ姿のマリア・ステラが見えた。

イレーネは起きたばかり、寝間着姿の上、髪はぼさぼさだ。


「あの、すみません。起きたばかりで。すぐにロビーに行きますから」

そう言うイレーネに、


「ではお手伝いをいたしますね」

と言いながらマリア・ステラは部屋に入ってきた。


即座にイレーネ手持ちの衣装のなかかから一番見栄えの良い物を選び、着替えを手伝い、髪を整えるマリア・ステラ。

ほぼ同時に、散らかった部屋を整理整頓し、手荷物をまとめる、とても手際が良い。


「イレーネ様、お忘れ物はないか確認してくださいね」

すっかり外出する支度が整ったイレーネにマリア・ステラが言う。


「あの、マリアさん、あなたって」

イレーネがやっとマリア・ステラに声をかけた。


「私は、伯爵様の奥様の身の回りのお世話もしております。奥様はお忙しいお方ですからついついその癖がでてしまって。慌ただしくてすみません」


「いえ、寝坊したのは私の方だし」

そう言いながら、荷物、多少の衣類まとめたカバンと小さなバッグと聖剣フリージアの入った布袋を抱えるイレーネ。


「イレーネ様、お荷物はわたくしが」

そう言ってイレーネから荷物を受け取ろうとするマリア・ステラ。


「あ、いいよ。自分の荷物だから自分で持つよ」

と言ったが、マリア・ステラは譲らず衣類のカバンだけを預けるイレーネ。


「さあ、ロビーでハンス様がお待ちです。これからフーベル伯爵邸にまいりましょう」

マリア・ステラにそう言われて、部屋を出るイレーネ。


このホステル・フロンティアに泊まるのも最後だ。

このまま冬の国へ行くかはまだ未定だが、今夜からはフーベル伯爵邸での宿泊するようにと伯爵直々に申し出がったのだ。


マリア・ステラと共にロビーに行くと、そこには既に荷物を抱えたハンスがいた。

ホステルの正面玄関には既に伯爵家の馬車が待ち構えている。

客人を迎えるための小ぶりの馬車だが、そこらへんの辻馬車とは格段にハイクラス、豪華な馬車だった。


「さあ、ホステルへの支払いは全て済ませてあるわ。さあ、フーベル伯爵様がお待ちよ。

行きましょう」


マリア・ステラの言葉と共に馬車に乗り込むイレーネとハンス。


「イレーネ、打ち合わせ通り、大丈夫ですね?」

ハンスがこっそりとささやいた。

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