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ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


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断ることは許されないー面会要請-

コンテストの優勝者、ベティとしてフーベル伯爵と再会したイレーネ。

表彰式が終わると、フーベル伯爵夫妻との謁見の場が用意されていた。

ステージから少し離れた、収穫祭事務局などが置かれている簡易ハウスの応接室で

イレーネや他の優勝者たちがフーベル伯爵夫妻を待つ。


フーベル伯爵夫妻が部屋に入ると、待っていた優勝者たち、男性は胸に手をあて、女性はひざまずき、

頭を下げて夫妻を出迎えた。


「やあ、皆さん、今回は優勝おめでとう。堅苦しいのは抜きにしよう。控室におられるお連れも方々もここに呼ばれるといい」

フーベル伯爵がそう言うと、にわかに慌ただしく動き回る係の者たち。


やがて控室で待っていた、優勝者の関係者たちが応接室に招き入れられた。

ハンスやイーロンももちろんその中にいた。


フーベル伯爵夫妻を囲んでの懇談かが始まった。

夫妻は優勝者、一人一人に声をかけ場は和やかな雰囲気に包まれる。


「私たちまで伯爵様にお目にかかれるなんて」

「春の国には貴族がいないからね」

アイルとヤアナは興奮した様子だ。


伯爵夫妻がイレーネ達の元にやってきた。

案内役の「キング&クイーンコンテスト」の担当者が

「こちらはコスプレ部門優勝のベティ嬢、そして衣装担当のマダム・フローラでございます」

とイレーネ達を紹介した。


「やあ、ベティ、君のプリンセスレベッカ、素晴らしかったよ」

ウインクしながらイレーネにそう言うフーベル伯爵。


「わたくしもあのドラマの大ファンなのよ」

と夫人のテレーズ。


フーベル伯爵夫妻はベティと名乗りここにいるのが、イレーネであることに気付いていながら

この場では敢えて触れず、コスプレ部門優勝者ベティとして接していた。


「伯爵様、お会いできて光栄でございます」

イレーネもベティとして応対する。


「たった今到着いたしましたわたくしの父母が、ぜひ伯爵様にご挨拶がしたいと申しております」

そう言ってイレーネの前に立ちはだかったのは、今年の「クイーン」ミス・ユーリアだった。


ユーリアが手を指示したところに、品の良い夫婦が立っている。

「あちらがわたくしの両親、西側の国境の街で領主を務めております」


「そうか、君は西側領主のご令嬢なのか。それはご両親にもご挨拶せねば」

とフーベル伯爵が言うと、ミス・ユーリアは得意げにイレーネの顔を見た。


「そこの一般庶民、どいてちょうだい」

そんな声が聞こえてきそうだ。


「それでは、プリンセス、また後程」

と伯爵がイレーネの手を取り、キスをしながらそう言った。

その姿にハッとさせられるミス・ユーリア。


イレーネのその態度はいつもながら、凛としていて気高かった。ただの庶民の娘なら伯爵からキスをもらい少なからず動揺するはずだ。

ミス・ユーリアは領主の娘として育てられ、そのあたりを見抜くだけの知識があった。


「伯爵は気が付かないフリをしてくれましたね」

ミス・ユーリアと共にイレーネ達の元から去って行く伯爵夫妻の後姿を見ながらハンスが言った。


「まあ、いろいろと面倒だもんね。偽名をつかっていたとかバレたら。

あなたもここではファビアンなんだから間違えないでよね」

そうイレーネがハンスに言ったとき、大会関係者の男がイレーネの元にやってきた。


「ベティ嬢、あなたに会いたいという方が来られています」


「私に会いたい?誰ですか?」


「今は申し上げられませんが、あなたに断る権利はありません」

とその男は言う。


やり取りを聞いていたハンスが、

「あいつですね」

とイレーネに耳打ちをした。


断る権利のない面会の要請、会いたいとっている相手の身分が上だということだ。

庶民のベティ、イーリアは農民という設定だからそれよりも格上となると貴族だ。断る権利などありはしない。

そして思い当たるのはただ一人、グリンズフィルズの領主の館で会ったホリデイ伯爵の息子ジャック。


ここまでイレーネを追ってきたのか、偶然ここにいるのを見つけたのかそれはわからないが、あれだけイレーネを追い掛け回している割にジャックはイレーネの正体に気付いていないらしい。


「なんで貴女の事がわからないんでしょうね、あいつ。感性が乏しいのでしょうか」

とハンス。


イレーネに対し、強い興味を持つ者には正体がわかってしまう。

現にルイザはイレーネをアデーレ王国の王女だと認識していた。


「その方がよかったかもよ」

ジャックの自分に対する興味など、どうせ歪んでいるに決まっている。

悪意を持った興味だ。

それならいっそのこと、気付いていないほうがありがたい。

そうイレーネは思った。


「さあ、ベティさんこちらへ」

こう言いながら、イレーネを連れ出そうとする関係者の男。


付いて行こうとするハンスに

「あなたは呼ばれておりません。ここでお待ちください」

そ制した。


「いや、でも」

ハンスも引き下がらない。


「ファビアンさん、あなたはお目にかかる権利がないんです」

と言う言葉に、


「私は断る権利がなくて、ハンスは会う権利がない」

と思わず笑うイレーネ。


「それでも僕は一緒に行きます」


「だから、それは出来ませんって。ファビアンさん、あなたはベティさんのなんなんですか?」


「僕は、イ、イレー じゃない彼女の婚約者だからだ」

とハンスが言い切った。


「え、何言ってるの?」

男より早く反応するイレーネ。


「ではこうしよう、私の屋敷でそのお方とベティ嬢を面会させよう。もちろんそちらの婚約者殿もご一緒に」

いつのまにか騒ぎを聞きつけたフーベル伯爵が傍にいた。


その提案に、別室で待っていたジャックは

「何故今すぐに会わせないのだ」

としばらく反論していたが、ネオ・トワイライトのフーベル伯爵家はホリデイ伯爵よりも格上の家柄だ。

渋々、フーベル伯爵邸でも面会をうけいれたようだ。


「それではお二方、フーベル伯爵様のご配慮に感謝を」

と男が言う。


イレーネ達が答える前に、

「それでは、明日、迎えの馬車をやる。待っているよ」

そフーベル伯爵。


イレーネ達がフーベル伯爵邸に招かれた、とフローラとイーサムは大騒ぎだ。


「なんであの子が」

ミス・ユーリアも不満げだ。


「何か大変なことが起きるんじゃないの?」

ルイザは心配そうに言う。


しかし他の誰の言葉も、視線も、態度も、全く目に入っていないイレーネ。


「彼女の婚約者だ」

ハンスの言ったその言葉だけがイレーネの頭にこだましていた。




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