表彰式
表彰式で久しぶりにフーベル伯爵夫妻と再会、そしてネオ・トワイライトにはあの親子も到着しました。
収穫祭もいよいよ最終日となった。
ハンスは収穫された作物をいろいろと見て回り、今年の農作物の出来など調査していた。
「おおむね今年の出来は良好ってとこですね。夏の水不足もあまり影響はなかったようだ」
とハンス。
「それはいい事?なんだよね。」
とイレーネ。
「あたりまえです。そもそも収穫祭というのは実りの秋に感謝をするための祭りなんですよ。
露店で買い食いするものではありません」
イレーネは収穫祭の露店が大いに気に入っており、今日も露店巡りをするつもりだ。
「感謝はしてますよー だからどんな食べ物も美味しくいただいてるわ」
あまりそうは思えないイレーネの言葉。
「まあ、確かに露店ではおいしいものをくさん売ってますからね。でも食べすぎると太りますよ。
今日はフローラの気合の入ったドレス着るんでしょ?、きつくなってても知りませんよ」
そうハンスに言われて、思わず頬に手をやるイレーネ。
ここ数日、よく食べている、なんだか身体が重いのだ。
「今日の表彰式にはフーベル伯爵夫妻もみえるのよね」
話題を変えるイレーネ。
「収穫祭が終わったら、僕たちも冬の国へ行きましょう。ここを立つ前に伯爵に会えそうでよかった。お別れが言えますね」
「そうね、でも冬の国って何があるの?何ができるの?作物はもう収穫しちゃったし」
とイレーネが聞く。
「僕も詳しくはわからないのですが、冬の国では収穫された作物と一緒にとれた種を守るという役目があるそうですよ。それに雪も降っているとか。ゆきだるま、つくれますよ」
「私、寒いの苦手」
ーネオ・トワイライト中心部ー
コンベンションセンターにつながる大通りを一台の馬車が進んでした。
この都会でも目立つような豪華な馬車だ。
馬車がコンベンションセンターに隣接している高級ホテルの前で止まった。
ホテルのドアマンが駆け寄り、うやうやしく馬車のドアを開けた。
「さすが都会のホテルは洗練されているな、俺にぴったりだ」
そんな独り言を言いながら、降りてきたのあのジャックだった。
国境の街、グリンズフィルズの領主の館でイレーネとダンスを踊り、その後散々追い掛け回したあのホリティ伯爵のドラ息子のジャックだ。
そして、ホリデイ伯爵の姿もあった。
「さあ、お前の不手際のお陰で出発が遅くなってしまったが、なんとか最終日には間に合った。
収穫祭の視察とフーベル伯爵殿への表敬訪問、慌ただしいスケジュールだ」
不満げにそう言うホリデイ伯爵。
旅の手配を息子のジャックに任せたところ、馬車の準備が間に合わず出発が二日も遅れたのだ。
「ジャック、すぐにでも収穫祭に出かけるぞ。もう少し小ぶりの馬車の手配を」
父、ホリデイ伯爵からそう言われジャックはめんどくさそうにホテルマンにその手配を丸投げした。
収穫祭会場、トロイアパークのフローラの店。
フローラ、ヤアナ、そしてルイザがイレーネの準備に取り掛かっていた。
「あのドラマ、私も録画で見たわ。ダイジェスト版だけど」
とルイザ。
「さあ、完璧な花嫁姿のベッキーよ」
フローラがそう言いながら、自身の力作ドレスを着たイレーネをハンスとアイルの前に連れだした。
「これは素晴らしい、ヤアナの花嫁姿を思い出すよ」
とアイル。
ハンスはと言うと、イレーネを見つめたまま声も出ない。
「おい、何とか言ってやれよ」
アイルがからかうが、それでもハンスは何も言えず、ただイレーネを見つめていた。
「素敵でしょう、私の渾身の作品よ。これで表彰式の主役もイレーネで決まりね」
とフローラ。
そう言うフローラも自分でデザインをした斬新なドレス姿だった。
彼女も表彰式に参加するのだ。
「フローラ、その恰好で出るの?」
夫のイーサムが言うが、
「そうよ、この私の作品、お気に入りなのよ」
メインステージで「キング&クイーンコンテスト」優勝者の表彰式が始まった。
「この表彰式にはフーベル伯爵夫妻にもご列席いただきます」
司会者がそう言うと、伯爵と妻テレーズがステージに現れた。
一応正装はしているが、相変わらず気さくな感じだ。
「それではキング&クイーンコンテスト各部門の優勝者たちをご紹介しましょう」
と司会者。
キッズ部門、シニア部門と優勝者がステージに登場する。
「次はコスプレ部門の優勝者、なんと初の女性単独出場での優勝者、ベティ嬢そして製作者、マダムフローラ」
イレーネが登場すると会場が一瞬静まり返る。観客が皆ステージのイレーネの姿に釘付けになっている。
「レベッカ王女だ」
「ベッキーのウエディングドレス姿、なんて素敵なの」
コスプレ部門、決戦大会の時のような、歓声と拍手が沸き起こった。
客席に向かって手を振るイレーネ、その姿はどこから見ても本物の王女だ。
ベティと名乗る花嫁姿の少女を見て、ステージ上のフーベル伯爵夫妻が顔を見合わせた。
優勝者、イレーネとフローラには優勝トロフィーが贈られる。
授与するのはフーベル伯爵だ。
「おめでとう」
と言いながらトロフィーを手渡しキスを贈るフーベル伯爵。
イレーネの耳元で、
「きみはあのイレーネだよね?」
そうささやいた。
その言葉にいたずらっぽく笑うイレーネ。
それ以上話す前に、
「それではコスプレ部門優勝者、ベティとフローラにもう一度盛大な拍手を」
と言う司会の声に遮られてしまった。
いつまでも鳴りやまない観客席からの大きな拍手に包まれるイレーネとフローラ。
続いて「キング&クイーンコンテスト」の優勝者が紹介されたが、イレーネの余韻が大きすぎ
なんだかかすんでしまっていた。
「キング&クイーンコンテスト」はいわゆる美男、美女コンテストだ。
優勝者の二人はそれは美しい男女だった。
クイーンに選ばれたミス・ユーリアはこの状況が大いに不満なようだ。
一番注目されるのは自分のはず。それがコスプレ部門の優勝者がこんなに目立っているなんて。
表彰式のフィナーレで、優勝者たちがステージに並ぶ。
イレーネの隣にミス・ユーリアが立つ。
ミス・ユーリアは美貌と抜群のプロポーションを兼ね備えている。
イレーネと並べばその差は歴然とするはず、なのだが、
イレーネの立ち姿、それはたとえようもないほどの気品があった。
フローラ作のドレスにも助けられていたが、バラ色の頬と大きな瞳、ほほ笑みながら手を振る姿、
それはどこから見ても「姫」だった。
「あの子、本物のお姫様みたい」
観客からそんな声があがっていた。
「やはりあの子はただ者ではないようね」
フーベル伯爵に妻のテレーズがそうささやいた。
観客席の特別招待席に座る、ホリデイ伯爵の子息ジャック。
ジャックもステージの「ベティ」と名乗る娘に目を奪われていた。
「あの子は、イーリアたんではないのか?」
隣にいるお付きの「使えない」魔法使いに言うが、
「若、あの娘に農民の血筋を感じることはできません」
という返答だ。
「でもあの子はイーリアたんだ。あとであの子と面会したい、主催者に伝えろ」
お付きの者にそう言い放つジャック。
「イーリアたん、みーつけた」
ニタっと笑いながらつぶやいた。
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