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ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


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翌日

大酒を飲んだ翌朝。

ベッドの上で呆然としているイレーネ。


「私、どうやってここに戻ってきたんだろう」

イレーネには自分がどうやってこのホステル・フロンティアに帰ってきたのか、まるで記憶がないのだ。


昨日は、「キング&クイーンコンテスト コスプレ部門」でまさかの優勝をして、

フローラとイーサム、そしてハンスに祝ってもらった。

収穫祭に出店しているおしゃれなパブに連れて行ってもらった。


そこで、お酒もお料理もたくさん。


そうだ、そこホッピイ農場のアイルと奥さんに会ったんだ。

コスプレ大会の決勝で観客席にいたあの女性、ハンスとべったりくっついていた。

あれはアイルの奥さんだった。


それで、なんだか安心して、美味しいお酒をぐいぐいと呑んだ。

だんだんと気分が良くなって、そして気付いたら歩けなくなってた。

イレーネが思い出せたのはそこまでだった。


少し動くと頭が痛んだ、それから胃と胸のあたりがムカムカする。

頭を刺激しないようにゆっくりと起き上がり、ベッドの上に座り込む。

そして、思い出せない昨夜の記憶をなんとか探ろうとしていた。


少しずつだが、よみがえってくる。

イレーネが地べたに座り込み、傍にいたフローラやイーサムが話しかけてきた、

そして、次の記憶はハンスの背中、背中の感触だった。

ハンスが歩くたびに伝わる振動。


「そうだ、私、ハンスに背負われてここに帰って来たんだ」


その時、今の自分は昨日着ていた服は脱いでおり、寝間着姿なのに気が付いたイレーネ。

自分で着替えた記憶は、もちろんまったくない。


イレーネは自分で寝間着を着る時は袖口のボタンをはめない。

袖をまくりにくくなるので嫌なのだ。

それが、今は袖口のボタンがきちんと留められている。


「誰が」

昨夜、ハンスに背負われてここに戻っていた。

だとすると、寝間着に着替えさせてベッドにいれたのはハンス以外に考えられない。


もしかしたら自分の下着姿、いや裸を見られたかもしれない。

そう思うととてつもなく恥ずかしくなるイレーネ。


思わず頭を横に振る。

ズキンと痛んだが、そんなことはお構いなしだ。


「どうしよう、どんな顔してハンスに会えばいいんだろう」

ベッドの上で膝を抱えうずくまるイレーネ。

そこに、ドアをノックする音が聞こえた。


「ハンスだったら開けられない」

そうつぶやいた時、


「イレーネさん、起きていますか?」

と女性の声がした。

ホッピイ農場のアイルの妻、ヤアナの声だ。

ハンスではないことに安心してヤアナを部屋に招き入れるイレーネ。


「イレーネさん、ご気分はいかがですか?」

心配そうにヤアナが言う。


「あの、あなたが何故ここにいるの?」

アイルとヤアナとはあのパブで少し一緒にいた後、別れたはずだった。


「私たちもこのホステルに泊まっているんですよ。

昨夜、あなた方とご一緒した後すぐに戻ってきました。部屋に戻る前にしばらくロビーでアイルと話をしていたら、ハンスが貴女を背負ってやってきたんです」


ハンスに事情を聴いたアイルとヤアナ。

ハンスと共に、イレーネを部屋に運びベッドに寝かせた。

その時、その後の世話をヤアナがすべて引き受けてくれたのだった。


「ハンスじゃなかったんだ」

少しホッとするイレーネ。

それと同時に、また頭がズキンと痛みだしていた。


「さ、イレーネさん、これを飲んで」

そう言ってヤアナがグラスに入った冷たい飲み物をイレーネに渡す。

それは、酸味の強い果物とシロップを混ぜた「二日酔いに効く」ことで有名な果実ジュースだった。

ジュースを飲み干すと、だんだんと気分もよくなっていた。


もうお昼になろうかという時間だった。

イレーネは、顔を洗い、髪をとかし着替えをした。

それをヤアナが手伝ってくれる。


「さ、イレーネさん、脱いだ寝間着をこちらに」

ヤアナは手とも手際がよく、とても手馴れた様子だ。


「ヤアナってこういう仕事していたことがあるの?侍女とかメイドとかの。」

と聞くイレーネ。


「うちは貧しかったので、幼い頃お金持ちの家に奉公に出されました。

奉公先のお宅はとてもよくして下さって。勉強もさせてもらえたんです。

大きくなってからはそのお宅のお嬢様のお世話をしていました」

とヤアナ。


「やっぱり。とても慣れている感じがしたから。それと、イレーネさんはやめてよ。

イレーネって呼んで。私の事だけイレーネさん、って」

ヤアナはイレーネの事だけは「さん」と付けて読んでいた。


「そうですか、それではそうさせていただきますね、イレーネ」

そう言いながらほほ笑むヤアナ。


ヤアナは自分が世話をした時のイレーネの態度を見て、イレーネがただ者ではないことに気付いていた。

今朝は、イレーネ本人が気をつけているのか、「自分で出来ることは自分で」というものが見受けられたが、昨夜はヤアナを完全に侍女として扱っていた。

無意識のうちに侍女に対する態度をとるイレーネ。これは幼い頃から身に着いているものだ。

ヤアナが奉公に出された、お屋敷のお嬢様に比べても、比較にならないほどの圧倒的な「上位」感だった。


「このお嬢様、いや違うわ、この子は、お姫様ね。どんなわけがあるのかしら」

ヤアナはイレーネの正体にすっかり興味を持ち始めていた。

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