表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/126

揺れる想い

コスプレ大会、決戦。結果は?

「ハンスの隣の女性(ひと)誰なんだろう」

イレーネが客席にハンスを見つけた時、その隣には女性がいた。

しかも、ハンスときたら、その女性の頬に手をあてて、あんなに近寄って、口がくっつきそうだ。


あれは「キス」をしようとしているの?


イレーネの心が一瞬にして騒ぎ出した。

ハンスが自分以外の女性に興味を持っている?


そう言えば、ハンスは「冬の国の後は結婚の認定試験が待っている」と言う話をした時、

「イレーネは立派な女王になる」そう言ってくれた。

でも、自分も立派な勇者になる、とは言わなかった。

結婚の認定試験の合格条件はにはハンスが勇者として認められること、ということもはいっているのに。


ハンスは自分と結婚したくないのだろうか。

イレーネの結婚、婿となる相手の意志はどうでもいい、いや相手に拒否する権利はない。

自分の結婚相手に選ばれた者は無条件に自分を愛し、受け入れる、そういうものだ。

そう思っていた。


イレーネとハンスが婚姻に至らない場合があるとすれば、それはイレーネがそう決めた場合に限る。

それが王女が王族以外の者と結婚する時の当たり前の決まりだ。

そう思っていた、今の今までは。


ハンスの姿をみつけ、投げキッスをしようとして手をくちびるに近づけたほんの一瞬の間に、イレーネは今まで味わったことのない虚しさに襲われていた。


悲しげな表情でハンスに向かって投げキッスをしたイレーネ。

その姿を観客たちは見逃さなかった。


「まるでドラマのワンシーンそのままだわ」

「レベッカ王女が最後にロイドに投げキッスをする場面よ」


観客席はざわめいたが、イレーネは平静を取り戻していた。

「私は王女なのよ、いずれは女王になる身なのよ。私と夫との間に愛なんかいらないわ。

お父様とお母様だってそうじゃない」

そう言い聞かせて。


しかし

「でもハンスが私を拒否するかもしれない、私の元から去って行ってしまうかもしれない」

心の底はもやもやとした暗雲が立ち込めていた。


「イレーネ、優勝おめでとう。すごいわ、一人での出場なのに」

フローラがそう言いながらイレーネを抱きしめた。


そうだ、私、キング&クイーンコンテストのコスプレ部門で優勝したんだ。


「さすが、イレーネですね」

とハンスも駆け寄ってきた、客席で隣にいた女性は一緒にはいない。

ハンスは優しい笑顔でイレーネを見つめている。


フローラとイーサムの提案で、収穫祭会場にあるパブでお祝いをすることになった。

イーサムが案内したその店は、収穫祭のために出店しているが本店はネオ・トワイライトの繁華街にあり、評判も良くいつも賑わっているのだそうだ。

収穫祭の会場の店はあまり広くなく席の数も少ないが、運よくすぐにテーブルに通された。


「さ、乾杯しよう」

「おめでとう、イレーネ」

そう言いながら、4人がグラスを掲げた。


「ここは酒がうまいんだ」

そういいながら、グラスの入ったビールを飲み干すイーサム。

フローラも負けず劣らず、豪快に飲んでいる。


「ここ、酒もだけど料理もうまいですね、イレーネお腹すいたでしょ、たくさん食べて」

ハンスがイレーネに料理を取り分けながら言った。


4人は酒と料理を楽しみながら、今日のイレーネに付いて話が尽きない。

とくにフローラは大興奮だ。

このコスプレ大大会では衣装やメイクを担当した、「裏方」にも賞が与えられるのだ。


「私も、収穫祭最終日の表彰式には出席するのよ」

とフローラ。

嬉しそうなフローラを見ながら、イレーネはふと心が重くなるのを感じていた。

例の観客席の女性のことが頭から離れない。


やはりハンスに聞いてみよう、

そう思って息を吸い込んだ、その時、


「やあ、ハンス、イレーネ」

と声がした。

声の主は、ホッピイ農場のアイルだった。


「イレーネ、コンテスト見てましたよ。優勝おめでとう、素晴らしかったです」

とアイル。


そのアイルの横に、あの女性がいた。

観客席でハンスの隣にいた女性だ。


ハッとした顔になるイレーネ。

保っているつもりだが、鼓動が早くなっているのがわかった。


「あ、これは僕の妻、ヤアナだ」

アイルがその女性をイレーネに紹介した。


「え、妻?」

小さく呟くイレーネ。


妻、と聞いて内心ほっとしたが、でもなぜハンスはこのヤアナの顔を触っていたのだろう。

それでもくすぶるイレーネの不信感。


アイルとヤアナも合流して、宴は続いた。

「さっきはありがとう、ハンス。あなたが気付いてくれなかったら」

そう言いだしたのはヤアナだった。


「本当に、焦りました。こんな都会に」

アイルもう言う。


聞けば、あのコスプレ大会をやっていた時、観客席にいたヤアナの髪に、

猛毒を持つ小さなクモ「ゴブリーノスパイダー」がくっついていた。


このゴブリーノスパイダーはも森林や農地に生息しており、街中ではほぼ見かけない。

収穫物と一緒に紛れ込んでいたのだろう。


「あの時、咄嗟に私の顔を動かさないように押さえてくれなかったら、頭を蜘蛛に食われているところだったわ」

とヤアナ。


ヤアナの後ろ頭にゴブリーノスパイダーがとまっているのに気づいたハンス。

慌ててヤアナの顔を両手ではさみ、怯えるヤアナの耳元で事情を説明したのだ。


ハンスがいち早く、その存在に気付いたのでヤアナも周囲の観客にも被害はでなかった。


「本当にハンスは昆虫だとか、自然に関するもへの知識がすごいよね。

ほくなんかには普通の蜘蛛にか見えない。あれに刺されでもしたら大変なことになるところだった」

とアイル。


「そっか、そうだったんだ」」

とイレーネは心でつぶやく。


その後、心も晴れて急に酒が進むイレーネ。

ハンスとアイルは、その猛毒をもつ蜘蛛がなぜ作物に紛れ込んだのか、を話している。

ネオ・トワイライトの住人でもあるイーサムとフローラも話に加わった。


「やはり担当者には報告しておかないと」

そう言う誰かの声が聞こえた。


イレーネは手洗いに行こうとして席を立った、がそのまま崩れ落ちるように座り込んだ。


「イレーネ?」

皆が驚いて声をかける。


「あらま、これ吞んじゃったのね」

とフローラ。


イレーネが呑んでいたのは、口当たりがよく美味しいが、足元をすくわれるといわれている強い酒だった。

「しっかりして、イレーネ」

「どうする?」

「もう僕が背負って宿に連れて帰ります」


そんな会話が多くから聞こえていた。


気が付くと、ハンスが自分をおんぶして歩いているところだった。


「ハンス?」

とイレーネが声をかけた。


「おや、目が覚めたんですか?あの酒強いんだから、ジュースみたいに飲んだら歩けなくもなりますよ」

ハンスはイレーネをおぶったまま言う。


「おろしてよ」

そう言って足をばたつかせるイレーネ。

仕方なくハンスが地面に下すが、イレーネは立ち上がることもできない。


「もう、このまま大人しくしててください。ホステルまであと少しですよ」

再び、イレーネを背負って歩き出すハンス。


「なんであんなに吞んじゃったんですか?普段はそこまで酒、吞まないでしょう」

ハンスの問いに。


「だってさ、ハンスが」

とイレーネ。


「だってハンスがほかの女の人と仲良くしてると思ったんだもん」

酒の勢いもあり、観客席の女性の事を話すイレーネ。


「ハンスは私と結婚したくないのかと思ってた」

そう言いながらイレーネはハンスに対する気持ち、が今までに感じたことのないものだ、ということに気付いていた。

応援していただけるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ