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ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


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「キング&クイーンコンテスト コスプレ部門」決勝

ホッピイ農場のアイルとも再会できた二人、コスプレ大会の決勝の開幕です。

「キング&クイーンコンテスト コスプレ部門」の予選が終了した。

ステージから降りたイレーネは周囲から一目置かれる存在になっていた。

周りの視線がイレーネに集まり、すれ違う人々が皆振り返る。


「あの子よ、ほら、まるでベッキーだったわ。普段の姿もすごく可愛い」

と同年代の少女たちが遠目で見ながら言っているのが聞こえてきた。


「ほらね、イレーネ、あなたは絶賛されるって言ったでしょ」

とハンスはなぜか誇らしげに言う。


「ねえ、ハンス、君はロイドになりきれなかったんだけど、それについてはどう思ってるの?」

というイーサムの問いに、


「当り前じゃないですか、僕なんか全くダメですよ。僕はイレーネが認められればそれでいいんですよ。ほら、イレーネは可愛かったでしょう、いつもですけどね」

とどこまでも嬉しそうにハンスは言う。


イレーネはというと、ハンスの大絶賛を真横で当然という顔で聞いている。

照れるわけでもなく、否定するわけでもなく、もちろん謙遜などする気配もない。

かといって、喜んでいる様な素振りもない。


「姫様、ますますお美しくなられて」

「イレーネ王女、まるで絵なら抜け出たような美しさだ」

「おうじょさま、わたしおうじょさまがだいすき、だってかわいいんだもの」

いつもいつもそんな言葉を聞いてきたイレーネ。


そんな時は、ほんの少しだけほほ笑んでただ頷く。

大げさに喜ぶことも、謙遜することもしない。

これが王女としての立ち居振る舞いだ、そう教えられてきたのだ。


「ねえ、フローラ、明日はどんな風にするんですか?ベッキーの衣装」

とハンスが聞く。


「明日はね、あのドラマの最終回をイメージしてるのよ」

とフローラが答えるが、ドラマを見ていないハンスには何のことだかわからない様子だった。


「じゃあ、私は明日の準備があるから」

そう言うと、フローラは足早に去って行った、慌てて後を追うイーサム。


残されたイレーネとハンス。

「じゃあ露店でも見て回りましょうか。ホステルに戻るにはまだ早いですから」

そう言うハンスと一緒に、イレーネは多くの露店が並んでいるエリアに向かった。


「すごく沢山のお店があるのね。引取り祭りの露店もすごいと思ったけど、ここのはそれ以上ね」

とイレーネがずらりと並んだ露店の店を眺めながら言う。


「そりゃ、規模が違うからね。収穫祭はいわば作物の育成の集大成を祝う祭りだから、

それなりに盛大だし、なんせここは大都市ネオ・トワイライトですからね」

とハンスが答えるがその時既にイレーネは、お目当てのスイーツを売る店に向かって走り出していた。


両手に露店で買った食べ物やお土産品を抱えたイレーネ。

その隣にハンスが並んで歩く。


「明日の決戦大会、楽しみですね。フローラはどんな衣装をあなたに着せるつもりなんでしょうね」


「そう?ハンスも一緒だったらよかったのに」

イレーネはハンスと「一緒」の思い出がほしかったのだ。


「もっと気合いれないから。なんで二日酔いだったのよ」


「いや、お酒飲んでなくても僕は」

そう言いながらイレーネの顔を見るハンス、イレーネはとても悲しそうだった。


「ねえ、収穫祭が終わったら私たち、次の冬の国へ行くの?」


「そうですね、タイミングよく収穫祭の時期にここに到着したから、春や夏の国に比べると滞在期間が短いですが、次に進んだ方がいいですね」

とういうハンスに、


「冬の国が最後なのよね」

とイレーネはポツリと言う。


冬の国の滞在が済めば、その後はまた女神アフロディーテの元へ行き、

「結婚の認定試験」の再試験を受けることにになる。


ー不安なのだろうかー


「イレーネ、貴女は立派な女王になりますよ。僕が保証します。

だから、認定試験も大丈夫です」

とハンス。


イレーネは少しほほ笑み、

「そう」

と言っただけだった。


「ハンスさーん、イレーネさーん」

二人を呼ぶ大きな声が聞こえた。

見ると、走って駆け寄ってくるのは、ホッピイ農場のアイルだ。


「ハンスさん、イレーネさん、メッセージありがとうございます。

ここで会えてよかった」


アイルはハンスからのメッセージを受け取って、「最終日の帰り際に会いましょう」と返信をハンスたちの泊まっているホステルに届けていたが、ここ祭り会場でもずっと二人を探していたのだそうだ。


「あの、コスプレ大会に出ていたのって、あなた方ですよね?ベティとファビアンって言うから他人かと思いましたが、あの姿は絶対にイレーネさんだと思って。なぜ偽名なんかを?」

と不思議そうにアイルが聞いた。


「それは、イレーネのファンが多くてね」

とハンス。


意味有り気だと思いながらも、

「明日、決戦大会に出るんだろう?それはすごい。ホッピイ農場に帰ったら、エスティバンさん達にお知らせしないと。いつもあなたたちを懐かしがっているよ。

特に、坊ちゃんはいまだに貴女をお嫁さんにするって言っていますよ」

と語るアイル。

そう言えば、イレーネはホッピイ農場の農場主、エスティバンの息子ルシアンに

「お嫁さんにしてあげる」

そう言われていたのだ。


「私の婿殿になるのは大変よ」

そう言いながらアイルとハンスを交互に見るイレーネ。


「明日の決戦大会、僕も見せてもらいますよ。ちょうどその時間帯は商談もなくて」

そう言うと、アイルは

「また明日」

と言い残して、去って行った。


翌日、収穫祭会場内、フローラの店。

既にイレーネが「ベッキー」になるための準備が始まっていた。

フローラが昨日から一晩で仕上げた最新作の衣装が出来上がっている。


メイクをして髪をセットし、そして衣装を身に着けるイレーネ。

その姿にフローラが思わずため息を漏らす。


「あなた、もしかしたら」

鏡の前のイレーネ、そこにはどこから見ても完璧な「王女」が立っていた。


フローは今日の衣装として、「ベッキーの旅」最終回で、ついにベッキーの正体がレベッカ王女だと明らかになり、母国に戻って帰還の挨拶をした際のドレスを模したものを用意した。


「さ、王女様」

とフローラ。

すると鏡を見ていたイレーネが何気なく振り返った。


「あらまあ、もうすっかりその気になってるわね。

見ての通り、今回はレベッカ王女で勝負するわ。さ、イレーネ、貴女は王女様よ」

そう言いながらフローラはハッとしながらイレーネを見た。


「この子は、もしかしたら本物の王女なのではないだろうか」

内心そう思うフローラ。


「ねえ、イレーネ、あなたって、もしかしたら」

そう言うフローラに、


「このドレス、本当に素敵ね。こんなドレスを着るのは初めてよ、まるでお姫様になったみたい」

とイレーネはわざと陽気におどけて見せた。


フローラが手掛けたこのドレス、いつも王宮で来ているドレスと比べると生地も縫製も全く比べ物にならないくらいの品質だ。

それでも、こんなにきちんと正装した姿をハンスに見せるのは、この旅に出て初めてだ。

ハンスはこの姿をみて見てなんて言うだろう。


「イレーネ、とてもきれいですよ」

そう言ってくれるかしら、そう言ってくれたら嬉しい。

イレーネは胸に手を当てながらそう思っていた。


「さ、そろそろ行きましょう」

フローラに言われて、イレーネはメインステージへと向かった。


「さあ、キング&クイーンコンテスト コスプレ部門、いよいよ決戦大会の開幕です。

決戦にコマを進めたのは、5組とひとり、いずれも素晴らしいパフォーマーだ」

司会者が開会を告げると、会場から大きな拍手が沸き起こった。


出場する順番はくじ引きで決まった、イレーネは3番目だ。

1組目が登場し、大歓声に包まれた、その次の2組目はイレーネとハンスと同様、「ベッキーの旅」の衣装だ。

ベッキーとロイド、ベッキーはともあれ、ロイドに扮した青年はすこぶるイケメンだ。


「さあ、2組目、ジョンとメアリーのカップルは大人気、ベッキーの旅からベッキーとロイドに扮して登場だ」

司会者は盛り上げる。

ステージではロイドに扮したジョンが、機敏な動作でベッキー役のメアリーをリードしている。

1組目より一段と大きな拍手と歓声だ。

満員の観客はこの二人のベッキーとロイドにすっかり魅せられている。


「この二人ほどのベッキーとロイドはいないわ」

「このカップルが優勝に違いない」

そんな声が聞こえてきた。


「さあ、次に登場するのは、異例の一人、単独での決勝進出、ベティ嬢だ。

ベティが扮するのも、同じくベッキーだ、さあ、ベティ」

と司会者がますますテンション高く言うが、


客席は一瞬、静まり返った。

「またベッキー、かなうわけないだろう」

そんな声が聞こえてきそうだ。


客席のそんな空気をイレーネも感じていた。

それでもイレーネはこの姿をハンスに見せたい、その気持ちの方が強かった。


ステージに出て行く直前、フローラがイレーネの頭にティアラを置いた。

それまでは結った髪にお花の飾りをつけていたのだ。


「姫様はやっぱりティアラよね」

そう言いながら。


「さあ、イレーネ姫、お出ましください」

フローラにそう言われて、ステージに進み出るイレーネ。


イレーネの姿を見た観客たちが、またしても静まり返った。

先ほどとは違う静寂だ。


そしてすぐに、

「あれは紛れもなくレベッカ王女だ」

「すばらしい、完璧なお姫様」

「なんて可憐で美しい姫なのかしら」

そんな声とともに歓声と拍手に包まれた。


「今年の出場者はなんというレベルの高さだ、先ほどのベッキーとロイドに度肝を抜かれたかと思ったら、今度はこの完璧すぎるレベッカ王女の登場だ」

司会者も惜しみなく賛辞の言葉をおくる。


イレーネとしては王宮のバルコニーで大勢の民衆の前に姿を見せているつもり、それだけだったのだが。

少しツンとした表情、凛とした立ち姿、それはイレーネにとってはごく自然に身についている「王女」としての姿だった。


ステージでは次の出場者が登場していた。

後ろに並んでいるイレーネは観客席にいるはずのハンスの姿を探していた。


客席、真ん中より少し前の右寄りにハンスがいるのが見えた。

思わず、ハンスに向かって投げキッスをしようとするイレーネ。


しかし、そこで見たのは、ハンスが隣にいる女性と楽し気に話している。

そしてハンスがその女性の頬に手をあて、口を寄せていたのだ。


「ハンス?その女性(ひと)誰よ?」

イレーネの表情はみるみる曇って行った。


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