「キング&クイーンコンテスト コスプレ部門」予選
コスプレ大会が始まりました。どんな結果が待っているのでしょうか。
歓声に包まれながらステージの中央に立つイレーネ。
収穫祭で行われる「キング&クイーンコンテスト」は毎年大人気だ。
その中でも、コスプレ部門はその年の流行を取り入れた演出が多く、出場者のクオリティも高い。
観客もそれなりに見る目が厳しい。気に食わない「作品」にはブーイングが起きることも珍しくない。
しかし、ステージに現れたイレーネを見たとたん、観客の視線は釘付けだった。
フローラの力作でもあるベッキーの扮装をしたイレーネは誰が見ても完璧なベッキーだった。
他にもベッキーに扮した参加者がすでにステージに登場していた。
しかし、イレーネの姿は別格だった。
圧倒的な存在感で、ステージに立つイレーネ。
しかし、傍らのハンスはすごぶる不評だ。
「ベッキーは素晴らしいのに、ロイドがねえ」
「あの隣はロイド?本当にロイドに扮しているの?」
「ベッキーの足を引っ張るな」
容赦ないヤジが飛んでくるが、ハンスは全く気にしていないようだ。
それどころか、ロイドの恰好をしてすっかりその気になっているようにも見えた。
「まあ、あいつが気分よくしている、それだけでいいじゃないか」
舞台袖で二人を見守っているイーサムが言った。
「そうね、楽しそうだからいいわよね。今回は入賞も決戦進出もあきらめるわ」
とフローラ。
このコスプレ大会、今行われている予選から約5組が決勝に進む。
その選出は6人の専門審査員と観客の投票で決まる。
観客席の最前列に並んでいる審査員たち。
イレーネとハンスを交互に見ては複雑な表情をしていた。
「さあ、ベティとファビアンに大きな拍手を!」
司会者がそう言いながら、イレーネ達をステージ後ろの今までの出場者が並んでいる列に誘導した。
イレーネとハンスがステージ中央にいる時間が終わったのだ。
その後も出場者が続いてステージに現れた。
最語の出場者がパフォーマンスを終え、あとは決勝参加者の発表を待つのみとなった。
「さあ、審査の結果が出ました」
そう言う司会者。
決勝に出場が決まった5組が順番に発表されていった。
そのなかに、イレーネとハンス、いやベティとファビアンの名前はなかった。
客席からもどよめきが起こった。
「あのベッキー選ばれなかったのね、残念だわ」
「相手に足を引っ張られたか」
そんな言葉が聞こえていた。
「えー今回は特に出場者の皆さんがハイレベルで選出は難航しました。そして特別枠ということで、さらに追加の決勝進出者を発表します」
突然ステージに上がってきた審査委員長がこんなことを話を始めた。
多い盛り上がる観客、そして選ばれなかった出場者たち。
「追加で決戦に進むのは、審査員の満場一致で決定しました。
ベッキーに扮したベティさん、あなたです」
そう言いながら並んでいたイレーネをステージ中央に連れ出した。
戸惑いながらも笑顔のイレーネ。
観客から大きな拍手と歓声が送られていた。
「あの、私一人なんですか?」
とイレーネが審査員に聞いた。
元居た場所に取り残されたハンスは、イレーネを見ながら嬉しそうには拍手をしている。
自分は置いてきぼりにされていることなど、どうでもいいようだ。
「審査員特別選出として、このベティ嬢に決戦に進んでいただくこととしましたが、ベティさんは一人で決戦大会に挑むことになります。
それでも審査員として彼女を選ばずにはいられなかった」
審査委員長がこう説明した。
決戦に進むこととなった5組とイレーネは、運営委員から今後の説明を受ける。
決戦大会は明日の夜、入賞すれば最終日に「キング&クイーンコンテスト」の他部門の入賞者と共に、
改めて表彰式がある、そうだ。
5組は表面上はにこやかだが内心、お互いに意識しているのはすぐにわかった。
そしてイレーネへ向けられる視線も同じように鋭いものだった。
その後、ハンス、フローラとイーサムと合流したイレーネ。。
「まあ、イレーネ、あなただけでも決戦に進めたって、なんて素晴らしいんでしょう」
とフローラが興奮しながら言った。
「明日も出るの?あしたは露店巡りしたかったんだけどな」
とイレーネ。
イレーネはまだこの収穫祭での露店を堪能できていないのだ。
「まあ、午前中は露店に行ってくれてていいのよ。でも午後からは気合いれて身支度しましょう。
明日の衣装は今日のとは変えるわね。
私に考えがあるのよ」
とフローラが楽しそうに言う。
「でも私一人だけってなんでなんだろう」
「それは貴女が可愛いからですよ」
ハンスの言葉をフローラとイーサムはほほえましく聞いた。
「そんなの当たり前じゃない。ハンス」
きっぱりと言い返すイレーネ。
フローラとイーサムはイレーネのこんなに強い口調を初めて聞いた。
それに対して、気分を害した様子もないハンス。
「この二人ってやっぱり少し変よね」
フローラがイーサムにこっそりとつぶやいた。
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