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ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


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ドラマの結末そしてコスプレ大会開幕

いよいよ収穫祭が開幕、どんなコスプレになるのでしょうか。

いよいよ収穫祭の開幕の日がやってきた。

ネオ・トワイライトの街にはいたるところに、祭りのイメージキャラクターが描かれたポスターが貼られ、

祭りのメイン会場、トロイアパーク行の馬車が街中を走り回っていた。


イレーネもハンスとの約束通り、寝坊することもなく朝早くから起きだしていた。

冷たい水で顔を洗う。


「目が腫れちゃった」

そう言いながら濡れたタオルを目に当てる。


昨夜放映された「ベッキーの旅」その最終回。

開始早々、冒頭から涙を抑えることの出来なかったイレーネ。

イレーネだけではない、昨夜、テレビの前にいたほぼすべての視聴者が涙を流したことだろう。


腫れぼったかった目もなんとか、いつもの「大きな瞳」に戻り、ハンスとの待ち合わせ場所に行く。

時間ちょうどだったが、ハンスの姿はまだ見えない。


待ち合わせたホステルのロビーには、すでに何処かに出かける旅人たちでにぎわっていた。

多く人々が収穫祭に向かうようだ。


「昨日、もう泣いちゃったわ」

「私もよ、最初から。なんて切ないんでしょう」

と若い女性の会話が聞こえる。


「そうよねー」

イレーネも心の中でそう言っていた。


約束の時間からかなり遅れて、ハンスがやってきた。

側によると、なんだか酒臭い。


「お酒飲んだの?」

鼻を押さえながらそう聞くイレーネに、


「だって昨夜はイレーネはさっさと部屋に戻っちゃったし、談話室ではみんなテレビに釘付けだし、

つまらないのでラウンジで少し、晩酌しちゃったんです」

少しの晩酌、でここまで酒臭いのか。

そう思わずにはいられないイレーネ。


「とにかく、これ」

そう言ってハンスにミント味のガムを渡し、頭の上から、匂い消しのスプレーをかけた。


「やー、すっきりとしました。さ、収穫祭に行く前に、朝ごはんを食べた方がいいのですが、僕は果物だけでいいので、イレーネはちゃんと食べてくださいね」


二人でホステルの食堂へ行くが、ハンスはの顔色はまだ青いままだ。

イレーネのオーダーでハンスにはフレッシュなフルーツジュースが届けられた。

それを飲み干し、やっと生気が戻るハンス。


「昨日はみんなドラマに夢中でしたね。貴女も見たんでしょ、あのベッキーの旅。

僕は見なかったんだけど、最後どうなったの?」

とハンスが聞く。


「それは」

そう言いながら昨夜の最終回を思い出し、またしても目頭が熱くなるイレーネ。


「ドラマチックなラストだったわ」

と答えるイレーネ。

ハンスはこのドラマのストーリーすら知らないから、話しても面白くないでしょ、そう思ったのだ。


「食事がすんだら、まずフローラたちのところに行きましょう。収穫祭の会場にブースを出すんだって。

朝イチでそこにいるって。」

今日行われるコスプレ大会。ハンスはどんな風になるんだろう。ドラマでのベッキーの相手役、ロイドは恰好よく女性に大人気だ。そして昨夜の最終回ではその好感度を増々上げていたのだ。


「ハンスはどうなることやら」

ハンスの衣装やメイクはフローラの夫、イーサムが担当だ。

自分のベッキーには自信があった、しかしハンスはどうだろうか。すでにあのドラマの虜になっているイレーネ。


「気合を入れなきゃいけない日に二日酔いだなんて」

そう思うとハンスを腹立たしく感じていた。


イレーネはしっかりとそしてハンスは何とか朝食を終えると、収穫祭の会場トロイアパークに向かった。

イレーネ達が泊っているホステルからは歩いて20分ほどだ。


「こんな街のまんなかに、トロイアパークみたいな大きな公園がある素晴らしい街ですね、都市計画をきちんとたてて作ったんでしょね」

とハンスが感心して言った。


ここネオ・トワイライトは整備された道、馬車の通る道路と人の歩く歩道がきちんと区別されている、

そして、立ち並ぶ建物も景観を損なわないような配慮がされていた。


昨日も訪れたトロイアパークは大きな美しい公園で、中には広場や散策コース、白鳥が泳ぐ池などがある。自然豊かでその中にいるとここがと都心のと真ん中ということを忘れてしまうほどだ。


「アデーレにはそんな都市なんかないわよ。計画たてて街なんか作ってないし。王都アンデールだって旧市街なんて迷路みたいだし」

とイレーネが不満げに言った。


ハンスはここネオ・トワイライトの街に感心しているだけなのだが、イレーネにはアデーレ王国をけなされたように感じたのだ。


「貴女の父上は、伝統を重んじていますからね。街並みも何千年も前から受け継いでいる。

古いものを大切にしている。

貴女が女王になったら、王の意志に背かない程度にいろいろと変えていけばいいんですよ」


ハンスはイレーネを怒らせていることに気付いてはいなかったが、その言葉はイレーネを奮い立たせていた。


「そうね、私が女王になったら、改革をしていくわ」

と。

この時のイレーネは王位継承権を持つものが自分だけではくなろうとしている、その事を知る由もなかった。


収穫祭の会場、トロイアパークの到着したイレーネとハンス。

そこは既に多くの人々がいた。

昨日見た、今年収穫された作物たち、そして、たくさんの露店が並び、広場の真ん中に設置されたメインステージでは、優秀賞を受賞した作物に対する表彰が行われていた。

もちろん、表彰されるのはその作物を育てた農場主たちだ。


「ねえ、ホッピイ農場も表彰されるのよね、誰か来てるってこと?」

メインステージを見ながらイレーネが言う。

ホッピイ農場でイレーネも栽培に参加した作物たち、品質が良く優秀賞を受賞していた。


「それでは次の受賞者、春の国、ホッピイ農場です」

とステージの司会者が言った。

メインステージには、ホッピイ農場の人事担当者だったアイルの姿があった。


「アイルさんが来ているんですね、あとで会えるといいですね」

とハンス。


ホッピイ農場の人事担当者アイル。すごく懐かしい。でも来ていたのが農場主エスティバンだったらよかったのに、いやエスティバンよりその妻ミーリアに会いたい。

イレーネは心でそう思った。


「ハンスとイレーネです。お時間があればお会いしたい」

と大会本部にホッピイ農場のアイルに宛てたメッセージを託す二人。


賞を受賞した作物は、買い手からも注目される。

アイルも商人との商談が目白押しとなることだろう、しばらくハンスたちに会う時間はないのかもしれない。


「イレーネ、ハンス、待っていたわよ」

露店の並ぶエリアの片隅に、フローラの洋服を売っているブースがあった。

店の方は一旦「休業中」にしてイレーネとハンスの支度にとりかかる、フローラとイーサム。


昨日と同様に、イレーネの髪を結うフローラ。

フローラが話題にするのはもちろん、昨日のドラマ「ベッキーの旅」最終回のことだ。


「泣いたわよ、昨日は。もうあんな切ない展開なんて」

とフローラ。

イレーネも同感だった。しかしイレーネはドラマの話に今一つ乗り気ではない様子だ。


「でもさ、ベッキーが実は魔法で飛ばされちゃってた王女様だったとはね、

王女として国に帰れるのに、ロイドとはお別れしなくちゃいけない、ほんとに涙の展開だったわ」


「ベッキーの旅」、その主人公ベッキーは身寄りもなく一人で旅をしているところにロイドと出会い、ロイドに助けられながら旅の目的地、「真実の泉」を目指すというストーリーだ。

そして、真実の泉にたどり着いた二人はそこで大いなる邪悪な闇に襲われる、しかしロイドの捨て身の攻撃により、これを撃退。

そしてベッキーにかけられていた呪いの魔法が解ける。

ベッキーは魔法によって母国から異国の地に飛ばされた、王女だったのだ。


王女として国に戻ることが出来たベッキー、しかし、ロイドとはもう一緒にいることはできない。

ロイドに恋心を抱いていたベッキー。ロイドもベッキーに心惹かれていたのだが、それはかなわない恋だった。


国に戻ったベッキーがレベッカ王女として、王宮のバルコニーに立つ。王女の無事の帰還に沸き返る国民たち。

その様子を陰から見守るロイド。

ロイドの姿を見つけたレベッカ王女は、悲し気に投げキッスを送るのだ。

静かに立ち去るロイド。


それが昨夜の最終回だった。


「なんで王女の座なんか捨ててロイドの元に行かなかったのかしら」

とフローラが言う。


「私だったら、王女なんて位はかなぐり捨てて愛する人の元に行くわ」

と続けた。


「でもあのベッキーは王女として育てられているんだから王女であること、が最優先なんだよ」

そう言うイレーネの言葉に、


「へえ、そんなものなのかしら。ねえイレーネあなたなんか王女に詳しいのね、

もしかしたら、あなただって実は王女で何か訳があってこの国を旅してる、とか」


[そ、そんなわけないじゃない、あれはドラマの話よ。一国の王女が普通に旅するなんて考えられないわ」

顔を引きつらせながらそう言うイレーネ。

しかし、衣装の手直しに夢中なフローはそれには気づかず、「そうだよね」と言っただけだった。


「さ、出来たわ。昨日よりも完璧よ、あなたは完全にベッキー」

そう言いながら鏡を見せるフローラ。


鏡の中には、ベッキーにトレードマークである紺色の長いドレスを着た、どこか神秘的な顔立ちの

「ベッキー」がいた。


「さ、大会が始まるわ、メインステージに行きましょう」

そう言うと、フローラはイレーネにすっぽりとフードの付いたマントを羽織らせた。

会場に着くまで、この姿を誰にも見られないようにするために。


メインステージ脇の出番待ちエリアに着くとそこには既にハンスとイーサムも到着していた。

ステージにはすでに何組かのコスプレをしたカップルが登場していた。

人気アニメのキャラクターや、他のドラマの登場人物などに扮しているが、やはりベッキーとロイドも多い。人気のほどがうかがえた。


「さあ、君のロイドだ」

そう言って、ハンスの姿を見せるイーサム。

はんすがロイドに扮した姿を見るのはこの時が初めてのイレーネ。


「あの、これ」

何も言わないイレーネの代わりにフローラがそう言った時、


「次はベティとファビアンのカップルだ、衣装とメイクはフローラとイーサムが担当だ。

さあ、ベティ、ファビアン、こちらへ」

と司会者から声がかかった。


ハンスの手を取り、ステージに向かうイレーネ。


「いいの?あれ。あれのどこがロイドなのよ」

と二人を見送りながらフローラが言う。


「あれが限界だった」

イーサムが申し訳なさそうに答えた。


ステージに登場したイレーネとハンス。

会場を埋め尽くした観客からしばしのどよめきが起こった。


そして、

「ベッキーだ」

「完璧なベッキーよ」

「なんてかわいいの」

「ベッキーよりベッキーらしい」

そんな歓声が沸き起こった。


「おい、そこのロイドもどき、ベッキーが見えないからどいてくれ」

ハンスにはそんな辛辣な言葉が投げかけられた。


「え、僕、だめですか?イイセン行ってるって思ってたんだけど」

ハンスは自分がベッキーの相手役、ロイドになりきっていると思い込んでいたようだ。


メインステージはこの日一番の拍手と歓声、そして怒号に包まれていた。

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