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スタート、そして。

いよいよ、

「勇者ロードレース大会」の開催日だ。

スタートは午前10時。


スタート地点の王の居城「クレメンタイン城」の正門前広場にはすでに大勢の人でにぎわっていた。

勇者を送り出した、村や集落、都市や街から応援団が詰めかけている。


横断幕やプラカードを掲げ、出場する選手に熱烈な応援をしていた。


その中には、ハンスやマルクの住むバロウ村の応援団もいた。

村長自ら、王都に出向き横断幕には、

「バロウの星、マルク」

と書かれていた。


ほかにも、

「撃破、バロウ村」

「必勝 バロウ村」

などのプラカードを村長とともに王都に赴いた、村の者たちが掲げていた。


その隣には、きらびやかな横断幕がなびいていた。

「われら勇者、アイル・ファイン」

「KING OF 勇者 アイル」

など、なんだかピカピカ光る仕掛けまでついている。

昨日、マルクたちと小競り合いをした、アイルの住むセレントシティの面々だった。

皆、アイル同様、ツンとした表情で隣の「田舎者」を一瞥した。


「無礼な奴らだ。国境の村の勇者の強さを知らないのか。

我々がいるから都市部の連中はのほほんとしていられるというのに」

と村長がつぶやく。


実際、バロウ村のように国境沿いの村や集落では、勇者はつねに鍛錬を怠らない。

毎日のように、剣の手合わせをし体を鍛えている。


「勇者トレーニングスクール」なるものが存在するような都市部とは違う。

あいつらは実戦のことは全く想定していない。

万一、本当の戦闘となれば何の役にも立たないだろう。


バロウ村とセレントシティ以外にも、村の応援団と都市の応援団との静かなバトルが

あちらこちらで勃発していた。


やがて城の門につながる城壁の上に人影が現れた。

国王直属の楽隊だ。

ファンファーレとともに門が開いた。


赤い絨毯が敷かれ、その上を国王と王妃、その後ろからイレーネ王女が進む。

進んだ先に、テントが設置されていた。

テント中央に外出用の王の玉座があり、その隣に王妃の椅子、そしてイレーネ王女の椅子が並んでいた。


国王一行が席に着くと、その前に出場する勇者たちが進み出た。

まずは王都アンデール選出の勇者たち。


王の前に一列に整列し、一斉に剣を天に向かって突き刺した。

そして、その剣の向きを変え地面にさして、王にひざまずいた。

王は自らの杖(王笏)を地面にさして、大会への参加を認めた。


街や村ごとにこの儀式が行われ、

勇者が王の前に整列するたびに、彼らに向かってほほ笑むイレーネ王女。


バロウ村の勇者たちも、そろって王の前に整列した。

そろって剣を天に向ける。


なのだが、ひとりだけ、鞘から剣が抜けない者がいた。

ハンスだった。

列の一番隅にいて、恰好だけは勇者の外套を着剣を腰に差した「勇者」だったのだが、

普段から剣の扱いに慣れていないハンスはスムーズに剣を抜くことができなかった。

隣にいたロイが手伝い、なんとか皆そろって剣を天に向けそして地面に刺した。


全員ひざまずいて王が王笏を地面に着くのを待つ。

ハンスの動作はすべてでワンテンポ遅れていた。


王への礼を済ませ、スタート地点にむかうバロウ村の勇者たち。

その後姿をイレーネ王女が見つめていた。


「なに、あのポンコツっぽいやつ。あいつほんとに勇者なの?」

イレーネ王女が傍らに控えるシャロンに言った。


「姫、誰が聞いてるかわかんないんだから、そういう事は言わないの」

とシャロンにたしなめられていた。


出場する勇者全員がスタート地点にそろった。

ファンファーレが一層高らかに鳴り響いた。


王が立ち上がり、

「皆の健闘を祈る」

と一言。


一歩下がった後方にいたイレーネ王女は自分の胸の前で手を握りしめ、

祈るようなまなざしを勇者に向けた。


バラ色のほほを紅潮させ、大きな瞳を潤ませた姫のはにかんだ笑顔。

スタートを待つほぼすべての勇者の心を鷲掴みにした。


そんななかでハンスだけは、

「また、あの姫様、俺たちに興味ないし」

と心の中で思っていた。


「では、位置について」

そう言って、手を挙げたのはロードレース大会実行委員長だ。


「ようい」


バーーーン、というピストルの音とともにロードレース大会が始まった。

応援団は沿道に陣取り、それぞれ太鼓や笛で声援を送る。

その声援を受け勇者たちが次々と走り出してい行った。


まず先頭で城外のコースに出て行ったのは、

バロウ村の勇者、マルクとセレントシティのアイル・ファインだった。

この二人が並んで競うように飛び出していった。

その後ろを、大勢の勇者たちが追う。


参加者約200名が一斉に駆け抜けていく。

そんな中、だんとつの最後尾にハンスの姿があった。

まだほんの数十メートルしか走っていないのに、すでに肩で息をし腹を押さえている。


「おい、あいつは最初に脱落するやつか」

と周囲の声が聞こえていた。


ロードレースは約3時間ほどでゴールする。

ゴール地点は、スタートと同じくこの城の門だった。


王たち一行は勇者のスタートを見届けると城内に戻っていった。

ゴールは実行委員と王直属の魔法使いたちが立ち会うこととなっていた。


3時間が過ぎても、誰もゴールに戻ってこない。

優勝者の姿を一目見ようと、スタートからずっと待っている、各地域の関係者や

そのほかの見物人たちも騒ぎ始めた。


「遅いな、どうかしたのか」

「何か、あったんじゃないの?先日天気が荒れていたから」


実行委員会の面々も首をかしげていたその時、

ゴールに向かってくる人影が現れた。


周辺の民衆もざわめく。

そして歓声が上がった。


「勝者はだれだ、姫様の夫君はどの勇者だ」

皆、口々に叫ぶ。


そんな大歓声の中、姿を現したのは、

バロウ村の勇者、ハンスだった。


場内での実況がマイクで最初にゴールした勇者を皆に伝える。

「優勝者が決定しました。バロウ村のハンス・シャーロン」

ハンスは、何が起きたのかわからないといった表情で呆然とゴール地点に立ち尽くしていた。







優勝者、決定。

ハンスでしたね。

応援していただけるとうれしいです。

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