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ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


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収穫祭、開幕前日

いよいよ収穫祭、前夜。

いよいよ明日から収穫祭が始まる。

イレーネはハンスに誘われて、朝から収穫祭の会場にいた。


収穫祭はネオ・トワイライトの中心部にある大きな公園、トロイアパークがメイン会場だ。

開催前日の今日は、すでに到着している今年収穫された農作物がたくさん並べられている。


その中に、金や銀のリボンが付いているものがある。

今年の優秀賞を受賞した作物だ。


「あ、これは」

イレーネが見つけたのはホッピイ農場からの品々だった。


「私が植えた苗からできたのかしら」

立派な作物を見ながらイレーネが言う。


「そうかもしれませんね、それから夏の国で復活した水路のお陰で大きく育ったんですよ」

とハンス。


イレーネがしみじみとしながら、並んだ作物を眺めている。

その姿を見ただけで、朝からここに来てよかったと思うハンス。


「イレーネは食べ物の大切さなんか考えたことがないですからね」

と一人つぶやいた。


「こうやぅて大切に育てられた食物を調理して、僕たちは食べているんですよ。

苗を育てるのだって大変だったでしょ?だから食べ物を粗末にしてはいけないんですよ」


「わかってるよ」

とイレーネ。

この旅に出てからのイレーネは食べ物の好き嫌いを言うことがある、気に食わないと絶対に口にいれようとしない。


昨日、フローラとイーサムの自宅に招待された二人、

夕食を用意し歓迎してくれるフローラとイーサム。


フローラとイーサムの家は、ネオ・トワイライトの住宅街の一角、庶民的な集合住宅の中にある。

そこで出された、フォノンというフローラの出身地の郷土菓子だという焼き菓子を絶対に食べようとしなかったイレーネ。


「昨日、フローラの作ってくれたお菓子、なんで食べなかったんですか?

食事にお呼ばれされて、好き嫌い言っちゃダメでしょう。

それに、あのお菓子にはたくさんの小麦粉が使われていたんですよ、あなたが育てた小麦だったかも。

それから、あの香草だって」

そこまでハンスが言った時、


「わかったよ、悪かったって思ってる。あのお菓子あんなにたくさん、持ち帰らせてくれたけど、捨てちゃった。悪いことをしてしまった」

とイレーネがうつむきながらも遮るように言った。


そのフォノンというお菓子はアデーレ王国にもある焼き菓子と似ていた。

あのお菓子に使われている香草、その味も匂いも苦手だった。


「王宮でもそんなに好き嫌いしてたんですか?」

とハンス。


「ふつうは何も言わずに食べてたけど。たまに」

とイレーネ。

イレーネが嫌だと言った料理を担当した調理人は、もちろんその場でクビになっていた。


「明日の収穫祭本番では、あなたは露店だとかコスプレだとかに夢中でしょうから、

今日の間に収穫された作物を見てもらいたかったんですよ。

あなたがホッピイ農場で頑張って育てた作物たちを」

ハンスにそう言われて、ずらっと並べられた大量の作物を眺めるイレーネ。

今までと「食べもの」への想いがかわったような気がしていた。


トロイアパークからカインモールのフローラの店に向かったイレーネとハンス。

これからコスプレ衣装の打ち合わせだ。


「さ、こっちに来て、二人は別々に衣装合わせをするわ。お互いのコスプレを見るのは明日の本番までお預けだよ」

と店に着くとフローラが二人を別々の試着室に連れて行った。


イーサムがハンスを、フローラはイレーネの衣装をチェックする。

更衣室で、フローラが用意した衣装に着替えながら、


「昨日、せっかく作ってくれたお菓子、食べられなくてごめんね」

とイレーネ。


イレーネの髪を結いながら、

「気にしなくていいよ、でもあのお菓子お口に合わなかった、んじゃないよね。

何かあの味に嫌な思い出でもあるの?」

そうフローラが言う。


イレーネはあのお菓子に使われていた香草が苦手だった。

小さなころを思い出すあの香。

一人の食卓、椅子の背もたれによりかかるとお付きの侍女から怒られた。

「姫、寄りかかるのは下品です」

あまりに何度も椅子にもたれるかかるので、椅子の背もたれに食事用のナイフが差し込まれた。


それから何度も手をたたかれた。

ナイフとフォークをとる順番が違う、持ち方が優雅ではない、食べ方に品がないと。

一国の姫として完璧な食事マナーが身に着くまで、いつも食事の時間は侍女に怒られてばかり。

そのうち何を食べても味を感じなくなってたいた。


「小さかった頃を思い出したの。とても嫌な思い出」

とイレーネが言ったが、フローラはそれ以上何も聞かなかった。


「私、食事をするのが楽しいとか思ったことがなかったの、でもねここにきてからそれは違うってわかった」

と独り言のようにつぶやくイレーネ。

ホッピィ農場で、夏の国の孤児院で、はじめてみんなで食べる食事がこんなに楽しいのだと知った。

それなのに、まだ思い出す、過去の記憶がつらかった。


「さ、出来たわよ」

と鏡を差し出すフローラ。

そこには「ベッキーの旅」のベッキーそのものにメイクされたイレーネがいた。


「どう?、この完璧なベッキー。ここまでなりきれるってすごいわイレーネ」

とフローラは満足そうだ。


「今日の最終回、楽しみだね」

とフローラ。

今夜は「ベッキーの旅」の結末がわかる。


コスプレの衣装合わせを終え、ホステルに戻ったイレーネとハンス。

今日はもう明日に備えてゆっくりと過ごすだけだ。


「私は早めにお部屋に戻るね。今夜はドラマを見るから」

とさっさと部屋へと向かおうとするイレーネ。


「え、ドラマってあの僕たちはコスプレするやつですよね。

談話室のテレビで見ないんですか?みんなと一緒に」

ハンスは王言うが、


「いやー あのドラマ最終回を見るならひとりで見たいでしょ」

あの最終回直前スペシャルを見た限り、ドラマチックな結末が待っているようだ。

そういうものは、一人でじっくり見ないと。それにもしかしたら泣いてしまうかもしれない。

そんな姿、ハンスには見られたくない。


「一人でじっくりと見たい」

そう言うイレーネに、


「そんなもんですかね。じゃ、明日寝坊しないでくださいね」

とハンス。


イレーネは部屋に戻ると、シャワーを使い明日の準備をしてから、テレビの前に陣取った。

いよいよ「ベッキーの旅」最終回の放映が始まった。


ーアデーレ王国 王宮の中庭ー


「アゼリア様?」

庭係の侍女が驚いて声を上げた。


宮廷魔法使いのアゼリアが庭を散歩しているを見たからだ。

杖をつき、歩みはゆっくりとしていたが、自らの足で立ち歩いている。


しばらく庭を散策したところで、

「アゼリア様、そろそろお部屋に戻りましょう。お疲れになったでしょう」

とアゼリアの身の回りの世話をしている弟子の魔法使いが言った。


アゼリアは宮廷魔法使いとして、このアデーレ王国、王宮に仕えているがイレーネのためにその魔力をの多くを使っており、普段はほぼ寝たきりの状態だ。


「ああ、ありがとう。私が動けるようになってきている。イレーネの心に変化が起きているのね」

とアゼリア。


イレーネが自分の力で魔女メディアの呪縛を破りつつある。

それをアゼリアは感じていた。


「でも魔女メディアの呪いは強固だわ。イレーネにとってもこれを完全に打ち払うのは至難の業でしょうね。それにあの子の魔法使いが消えてしまったようね。自分の力を取り戻しつつあるけれど、まだ彼女を守る魔法使いは必要だわ。さて、どうしたものか」


アゼリアには妖精シャロンが消滅し事が分かっていた。かつて自分の弟子だったシャロン。

自分がイレーネへの魔法を任された時一緒にここに来た。そして何故かシャロンはイレーネの封印されている本心と触れ合うことが出来たのだ。


アゼリアはもう感じることの出来なくなったシャロンの気配を、寂しさと虚しさで受け止めた。

そして、

「まあ、私の孫娘。ちょうどいいところにいるじゃない」

アゼリアは孫娘、ルイザが魔法学校の実地訓練のため、四季の連邦国にいることを察したのだ。

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