ネオ・トワイライト、最初の日
ネオ・トワイライト、初日。どうなることやら
ハンスとイレーネ、食事は進みテーブルの上には最後のデザートが出ていた。
お上品で可愛らしい小さなケーキとフルーツ。
とても美味しい。
馬車の中でフーベル伯爵夫妻が買ってきてくれたアイスクリームといい、この国はスイーツのレベルが高いらしい。
二人がそんなデザートに酔いしれていると、隣のデーブルにいたあの男女が席を立った。
帰るわけではないらしい。
二人は、楽団が演奏をしている前にある広く空いたスペースに行った。
そこで向き合うと静かにダンスを始めた。他ににも何組かの男女が踊っている。
「イレーネ、皆さんダンスしていますね、貴女も踊りますか?」
とハンス。
「ねえねえ、こういうところでのダンスって男女ペアで踊るのよ。
私が踊るんだったらあなたも踊らないと。
でも、やめておくわ、ダンスはしばらくこりごりだもん。また厄介事が起きたら嫌でしょ」
イレーネがそう言い、デザートの続きを食べた。
踊っている男女を見ながら、夏の国の引取り祭りでアンと一緒に踊ったことを思い出していた。
自分の動きを一生懸命まねをしていた小さなアン。
あの真剣なまなざしがとても愛おしく懐かしい。アンは元気にしているだろうか。
「じゃ、そろそろ出ましょうか」
とハンス、
ザートを食べ終わり、しばらく経っていた。
周囲の客も帰り始めていた。
そこで、ハンスが
「あの、イレーネお金ってどこで払うの?」
と聞く。
「え、知らないわ」
イレーネにもわからないらしい。
その時、隣のテーブルのあの男女がボーイを呼んだ。
「チェックを」
と言いながら。
「そうだよ、チェックだ。村の学校の作法の授業でならぅた。高級なレストランではテーブルにボーイを呼んで会計をするんだ」
とハンスがいい、すかさず右手を上げ、ボーイを呼んだ。
素早くハンスのところに来たボーイが、注文した品々の伝票を見せ
「キャッシュでしょうかそれともカードでしょうか」
と聞く。
キャッシュ?カード?なんだそれは。
焦るハンス。
「キャッシュでお願い」
とイレーネが言う。
そして小さな声で
「現金で払うってことよ」
とハンスにささやいた、隣の支払いを見ていたのだ。
テーブルに出された銀のトレイにハンスが財布から出した金を置く。
かなりの金額だ。
トレイを受け取ったボーイが、そのままイレーネの椅子を引き立ち上がるのを促した。
それからハンスの椅子も。
「じゃ、行きましょう」
イレーネがハンスに声をかけ出口に向かう。
イレーネ達のテーブル担当のボーイが出口で恭しく頭を下げ、ドア係がと扉を開ける。
他のボーイとシェフたちも一礼をして二人を見送った。
店を出て歩く二人。
「あの、イレーネ、お会計で払ったお金、お釣りがあったと思うんですが」
とハンス。
ハンスは会計の金額よりも多い金をトレイに乗せたのだ。
「だって、チップがいるじゃない」
とイレーネ。
あのような高級店では幾らか上乗せしてチップとして払う、とイレーネから教えられるハンス。
イレーネは王宮で雑学として学んだのだそうだ。
「そうなんだ。なら仕方ない」
「お金、足りるかな?だいぶ使っちゃっでしょ?」
イレーネの言葉に、
「まだ大丈夫ですよ。ホッピイ農場でのお給料、かなり弾んでくれたから。
さ、明日はまず買い物に行こう。」
そう言いながらなぜか楽しそうなハンス。
イレーネも自分がホッピイ農場で働いてもらった給料をほぼそのまま持っていた。
それでも、
「お店、またインフォメーションに行って聞いてからにしようよ。
間違えて高級店に入っちゃったら大変だよ。いくらネオ・トワイライトがなんだ高級な感じ、と言ってもそうでない人だっているでしょ。だからそういう人の買い物するところとか聞いてみようよ」
となんだか浮かれているハンスに釘を刺した。
「あ、ここですね、今日の宿」
レストランから10分ほど歩いたところに
「ホステル・フロンティア」という宿、ホステルがあった。
中に入ると、あのレストランにいた客層とは全く違う人たちでにぎわっている。
春の国で泊まった宿のようだ。
「ここにもこんな感じのところ、あるじゃない」
とイレーネ。
「少し庶民的すぎましたか?ホテルをとった方が良かったのでは?」
そういうハンスに、
「今はただのイレーネ、日銭を稼ぎながら旅をしてるのよ。身の丈にあった生活をしないとね」
とイレーネが胸を張って言う。
「それならいいんですが。出来るときには貴女の身分に会ったことをした方がいいのではと思いまして。
春の国では僕の独断で貴女を働かせてしまった。
少し後悔しているんですよ」
ハンスは、そろそろイレーネがこの庶民のような暮らし、王女として扱われない今の状況に耐えられなくなるのでは、と気をもんでいたのだ。
「そんなことを気にしていたの?心配ないって。とても楽しいよ、自分で働いてお金をもらったんだよ、
それから自分だけで着替えたりご飯食べたり、お風呂入ったり。
今まで、絶対に出来なかったことをやってるの。それは普通の人々にとってはごく当たり前のこと。
そんなことも知らないで今まで暮らしていたのよ、私。
このまま大人になっていたらと思うと、そのほうが恐ろしいよ」
「そうですか、そうですよね、じゃあ、明日はインフォメーションで、お買い得に買い物ができる店を聞いて、そこでいろいろ調達しましょう。ネオ・トワイライトで目立ちすぎず、引け目も感じないくらいの感じで」
一人、客室に入るイレーネ。
春の国での宿と同じような、質素でこじんまりとした部屋だ。
ふとベッドを見るイレーネ。
無意識にそこにシャロンの姿を探していた。
「春の国にすっ飛ばされて、どうしようと思っていた時に来てくれたんだよね、シャロン」
春の国の宿のベッドで眠っていた姿が脳裏に浮かぶ。
「アンは悲しむだろうな。シャロンと仲良くなりたいって言ってくれたから」
この旅を終え、またイレーネ王女としての生活が始まれば、改めて王女専属の魔法使いが選ばれるだろう。
その時、シャロンと比べずにいられるだろうか。
「シャロンを忘れられるわけがないよ」
イレーネは悲しそうにつぶやいた。
そして、気を紛らわすように、インフォメーションでもらった
「今年の収穫祭へのお誘い」
という冊子を手に取って読み始めた。
そこには収穫祭でのイベント、注目のお店などの情報が載っている。
なかでも
「キング&クイーンコンテスト」
というイベントが目を引いた。
自分たちでコンセプトを決めた衣装で参加して、一番人気だったカップルが
「キング&クイーン」として表彰されるのだという。
「これ楽しそう、ハンス誘ってみよう。
どんな衣装がいいかなあ、美女と野獣?うーん、ハンスは野獣って感じじゃないな。
何かいいアイデアないかなあ」
そう思いながらイレーネは部屋にあるテレビをつけた。
この国に来てからテレビを見るのは初めてだ。
色々なんチャンネルとみてみるが、ふと
「ベッキーの旅、最終回直前スペシャル」という番組で目が留まった。
なんでも「ベッキーの旅」というドラマは今秋の国で大人気なのだそうだ。
ベッキーというみなしごの少女が、偶然出会った青年ロイドと旅をしながら、様々な冒険を経て成長していくという物語で、謎に包まれていたベッキーの正体が最終回でいよいよあかされるというのだ。
その最終回を前にして、今までのダイジェストから見どころまでを特番にした番組をその日放送していたのだ。
イレーネは釘付けになった。
「最終回、絶対に見なくっちゃ」
と心で誓っていた。
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