ネオ・トワイライトに着いたものの
秋の国、ネオ・トワイライトで。大きな街で途方に暮れる二人。
ネオ・トワイライトの中心部に馬車が着いた。
大都市に足を踏み入れたイレーネとハンス。
ここからは、自分たちだけで行動しなければならない。
春の国に着いてからもそれは同じだったが、今度は勝手が違うようだ。
まあ、そもそもイレーネはハンスに任せっぱなし、いや頼りっぱなしだが、それでもこの街の大きさ、今までのどこか暖かみにある街とは全く違う雰囲気にを感じていた。
「これからどうするの?なんだかどうしたらいいかわからない気がする」
と不安げなイレーネ。
「そうですね、まずは案内所に行きましょう。それで宿をとって、それからです」
と同じく不安を感じながらも、悟られないように言うハンス。
今までの街なら、中心部に役所や案内所や宿といった施設が集まっている。
中心部には大抵時計塔のような目立つシンボルがあり、そこを目指していけばたどり着く。
しかし、ここは違う。
どの建物もそびえ立つような高さで、ここが中心部とわかるようなものがない。
「伯爵に案内所の場所くらい聞いておけばよかったのに」
とイレーネ。
「でも伯爵ともあろうお方が街の案内所なんか知ってますかねえ」
ハンスが答える。
その答えに少しムッとしながら、
「きっとご存じよ、気さくな伯爵夫妻だったし」
そういうイレーネにを横目で見ながら、ハンスが通りすがりの人に声をかけた。
「あの、この街の案内所はどこでしょうか?」
と。
しかし、誰も立ち止まってくれない。
ハンスの問いに耳を傾けてもくれない。
皆足早に通り過ぎるだけだ。
「何よ、みんなそんなに急いで、答えてくれたっていいじゃない」
とイレーネがイライラした様子で言った。
「じゃ私が聞いてみるわ」
というと、
「すみません。このあたりにこの街の案内所はないかしら?」
といつもよりも少しハイトーンな声で道行く人に問いかけた。
やはり足を止める者はいない。
皆、イレーネを一瞥するるだけで、通り過ぎていく。
「私が聞いても同じだったかも」
そう言いながらハンスを見つめたその時、
「君たち、どこを探してるって?」
と若い男が声をかけた。
「あの、案内所を」
そういうハンスに、
「ああ、インフォメーションね、あそこ、あのビルがコンベンションセンターだ。その中に入っているよ。」
そう言うと、イレーネにウインクをして去って行った。
「インフォメーションだってさ」
「コンベンションセンターだってさ」
とイレーネとハンス。
「ではまず、そのコンベンションセンターに行きましょう」
というハンスと共に歩き出すイレーネ。
道沿いにおしゃれな店がならんでいる。
衣料品店だったり、宝石店だったり。
その時、とある店のショーウィンドウに歩く自分たちの姿が映っているのと見たイレーネ。
通り過ぎる人たちに比べたら、自分たちはなんて
「田舎臭いんだろう」
そう思わずにはいられない、自分たちの姿。
いや、ハンスの姿。
洗練されたこの街の人々に少し引け目を感じずにはいられないイレーネだが、
ここはグッとこらえて、気にしないことにした。
コンベンションセンター、そこは何階建て何だろうと思うほど高くそびえたったビルディングと呼ばれる建物だった。
イレーネとハンスがその入り口に立つと、目の前の扉が自動的に開いた。
中に入る二人、その中にも大勢の人がいる。
大きな廊下がまっすぐ通り、その奥には大きな階段。いや、階段ではないようだ。
人々が立ったままで昇降している。
「すごいねハンス、こんなところがあるんだ」
イレーネが感心しながら言った。
「本当ですね、すごい。こういうのを近代的っていうんでしょうね。
アデーレ王国とは違いますね。さあ、あそこがインフォメーションです、行きましょう」
そう言いながら、先を急ぐハンス。
コンベンションセンター1階、中央の大きな廊下の奥、そこに
「インフォメーション」と書かれた大きなフロアがあった。
幾つもデスクが並び、その上には様々な資料が置かれている。
またテレビ画面のようなもので、調べることも出来るようだ。
ハンスは真っすぐカウンターに向かい、案内担当者に、
「宿をとりたいのですが、あと、収穫祭についても教えてもらいたい」
そう言った。
受付にいたのは「アリス」というネームプレートを付けた女性だった。
「お泊りですね、ホテルをご希望でしょうか、それともホステルにいたしますか?」
ふうわりと香水の香りが漂うアリスが聞いた。
「安い方でお願いします」
すかさずイレーネが言う。
アリスはここネオ・トワイライトで会った誰よりも親切にハンスとイレーネに接してくれた。
安いホステルを手配してくれ、もちろんイレーネは個室、ハンスは大部屋で。
それから、収穫祭についても
「今年の収穫祭へのお誘い」
とかかれた案内用の冊子をくれた。
「それから、お食事をなさるんですよね、ではこちらのクーポンをどうぞ」
と言って、メニューから25%引きになるというクーポンを手渡した。
「それでは、ホステルはこちらになります」
と地図をくれた。
このコンベンションセンターから歩いて10分ほどだそうだ。
コンベンションセンターを出て大通りを歩く二人。
ホステルの方向に向かっている。
「ねえ、先にご飯食べて行こうよ。このクーポンが使えるレストラン、すぐそこみたいだし」
とイレーネ。
レストランの前、店頭にでているメニューを眺める。
定食メニューが豊富だ。
ガラス張りの窓があり中の様子が見える。
ここはどちらかというと庶民的な店のようだ。
入るのをためらっている、とおもわれたのか、気取った男女が鼻で笑いながら隣の店に入って行った。
覗いてみると、そこは洗練されたレストラン。
この街のお決まりなのか店頭にメニューは出ているが、お値段の桁が違ったいる。
先に入ったあの男女が、イレーネ達を見ている。
「どうせこんな店、お前らなんかには縁がないだろう」
そう言っているように感じたハンス。
「ねえイレーネ、せっかくだからここに入りましょう。たまには贅沢するのもいいですよ」
と言った。
「でも、わざわざそんな高い店に入らなくてもいいじゃない。あっち定食だっておいしそうだし、クーポン使えるし」
とイレーネは乗り気ではないようだ。
そこに、この店のボーイが現れた。
「お食事で?」
と二人に声をかける。
「ええ、二人、お願いします」
そ即答したハンス。
席に案内されたイレーネとハンス。
他の客と比べると、完全に見劣りする格好だ。
周囲から好奇の目が向けられているのがわかった。
隣りのテーブルには先に入店したあの男女がいた。
メニューを見るが内容がよくわからないハンス。聞いたこともない料理ばかりが並んでいる。
「ねえ、お金大丈夫なの?フルコース頼むと結構なお値段になるわよ」
とイレーネ。
「名誉の金貨もありますから、大丈夫ですよ」
とハンス。
そこに
「ご注文は?」
とボーイが声をかけてきた。
こういう場合、注文をするのは男性の役目だ。
しかしこの場でのハンスは全く役に立ちそうにない。
「では、食前酒にはこれを、それから前菜のソースはこれに代えていただけるかしら。
あとメインは、付け合わせはこれで」
代わってイレーネが注文をした。
ハンスには何を頼んでいるのかほとんどわからない。
しばらくすると食事が運ばれてきた。
頼んだ通り、食前酒から前菜、スープ、メインディッシュと続く。
それをテーブルに並べられたたくさんのナイフとフォークで食べる。
こで、王宮での食事でもこんなだった、が思い出していたハンス。
この店では管弦楽団が生演奏をしており、優雅な音楽を聴きながら皆食事を楽しんでいる。
イレーネもすっかりこの素晴らしい演奏に聞き惚れていた。
ハンスは相変わらず、マナーが分からず緊張でカチコチになっていた。
そんなハンスが見ても、イレーネは優雅だった。
食事の作法は完璧、立ち振る舞いはどこまでも上品だ。
隣のテーブルの男女もイレーネの所作に目を引かれているようだ。
態度に出しはしないものの、あきらかに場違いな客と認識していたボーイも、その考えを変えつつあった。
メニューの選び方にしても、細かくこだわりながらもスマートなオーダー、ここからして只者ではない。
食事が進めば、酒を注いだ時、料理を出した時、皿を下げるときの仕草、そのどれをとっても圧倒的な優美さだった。
ボーイたち店の者も、隣の男女も
「このお方、どこかからお忍びでいらしている高貴なお方なのは」
そう思っていた。
しかしハンスはその侍従くらいの存在感だが。
「ねえ、イレーネ、明日にでもあなたの服、買いに行きましょう。
この格好だと、ここでは悪目立ちしそうです」
とハンスが提案した。
村娘の姿ではこの街ではあまり好ましくない。
ハンスはそう思った。
「じゃあ、ハンスも服を新調してよ。あなただってまるで農業しにきてるみたい。
お互いにこの格好、ここではやめた方がよさそうね」
とイレーネ。
「お財布とも相談しながら、なんとか見繕いましょ」
とイレーネ。
「ねえイレーネ、貴女、お金の心配とかするようになったんですね、すごいや」
ハンスに言われてハッとするイレーネ、そういえばイレーネ王女としては値段なんか気にしたことがなかった、気にする必要もなかった。
でも今は違う、
「私はただのイレーネだから」
そう思うとなんだかワクワクしている自分がいるのがわかった。
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