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ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


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ネオ・トワイライト行の馬車で

国境の街から少しでも早くネオ・トワイライトに行きたいイレーネとハンス。

ホワイトダンスを踊り、貴族の子息、ジャックに追い回されることとなったイレーネ。

その日の夜、一人宿の部屋で休んだが、悪夢にうなされた。


あの領主の館で、いくつもの部屋を逃げ回っている。

ドアを開け、部屋に入ると誰もいない。

ほっとして一息いれようとすると、ドアをたたく音がして、

「イーリアたん」と声がする。


慌ててまた別のドアを開ける。

するとまた誰もいない。

しばらくすると

「イーリアたん」と言いながらドアをたたかれる。

そんなことが繰り返される夢だった。


翌朝、完全に睡眠不足のイレーネ。

案内所受付でハンスと落ち合ったが、明らかに様子がおかしかった。


「眠たそうですね、イレーネ」

そう声をかけたハンスの言葉にも返事すらない。


「馬車に乗ったらしばらく眠るといいですよ」

そう言いながら、ふらふらしているイレーネを連れ案内所を出た。


案内所の目の前が、馬車の発着地点となっている。

ここは、国境の街。

ここから秋の国の各地に行く馬車が出ている。


中でも、秋の国、最大の都市ネオ・トワイライト行の馬車は数も多く大型の馬車ばかりだ。

幸いすぐに馬車に乗り込むことが出来たハンスとイレーネ。

荷台には椅子が設置されていてまるで客車のようだ。

奥の二人掛けの椅子に陣取に座ると、イレーネはすぐにすやすやと眠り始めた。


そんなイレーネにハンスはショールをかけてやった。

急に日が差してもまぶしくないように、頭からすっぽりと。


馬車はそろそろ街を出ようとしていた。

街を出ると、しばらくは一本道だ。それを進むと行く妻の街を経由して日が沈むころにはネオ・トワイライトに到着するようだ。


その時、馬車が急に止まった。

外がなんだか騒がしい。


馬車に乗客として乗っているのは、イレーネとハンス含め10名ほど。

他の客も何事かとざわめいている。


御者が

「おやめください、勝手に入るのは」

と叫んでいる。

と同時に、荷台に数人の男が乗り込んできた。


「あいつらは」

とハンス。

乗り込んできた男、それは。


「わが名はジャック・ホリデイ伯爵である。人を探している、中を調べさせてもらう」

あの、ジャックだ。


「お前はまだ伯爵じゃないだろう、伯爵のドラ息子ってだけだろう」

とハンスは思った。


それでもこのあたりでは、ジャック伯爵、で通ってしまうようだ。

まあ、貴族であることに間違いはないのだが。


ジャックは荷台の中を見回す。

男はスルーだが、女性、特に若い娘の顔を凝視していた。


ジャックがイレーネの前に立った。

頭にかぶったショールをつまむジャック。

その横で、ハンスがハラハラしながら様子を見ていた。


ジャックがイレーネのショールをとり、イレーネの姿が露になった。

それでもイレーネが目を覚ます気配はない。

膝の上に顔をうずめている。


その顔を覗こうと、頭に手をかけるジャック。

しかし、あまりにぼさぼさの髪で躊躇したようだ。


その時、一緒にいた他の男が

「ここに村の娘はいないようです」

と声をかけた。


「もういいだろう、そろそろお引き取り願えないか?」

ジャックにそう声をかけたのは、昨日案内所の受付カウンターでハンスたちと会った夫妻の夫だった。


「なんだと、お前、私を誰だと思って」

ジャックはムッとしながらそう言ったところで、


「この方、貴族の血筋です」

と耳打ちされ、黙り込むジャック。


「私は、イーリア、またはイレーネという村の娘を探している。知っていたら屋敷まで知らせてほしい。

褒美ははずむ」

そう言うと、ジャックは馬車を降りて行った。


こっそり外を覗くと、ジャックは一緒に来た男たちと何やら話し込んでいる。

ジャックの表情は落胆しながらも怒りをにじませていた。


「イレーネ?このお嬢さんもイレーネよね」

とハンスに声をかけたのは、あの夫妻の夫人だった。


「まあ、どこの国でもそうだけど、なんで貴族っていうだけであんなに横柄なのかしら」

と夫人が言う、夫を見つめながら。


「それに、あのお付きの魔法使い、なんて使えないのかしらね。

村の娘の血筋を調べることしかできなかったようね」

と夫人が続けた。


「あの、あなた方って?」

とハンス。

昨日は気付かなかったがこの夫妻、ただ者ではないようだ。


「いや、私達はネオ・トワイライト郊外に居を構えるフーベル伯爵と申します。

こちらは妻のテレーズ。

君たちは、どこからいらしたのかね、この国、いや連邦のお方ではないようだ」

とフーベル伯。


「おっしゃる通り、僕たちは遠い国から来た者です。四季の国を巡っています。

僕はハンス、そしてこっちは」

とハンスが言いかけたところで、


「イレーネね」

とテレーズが相変わらずよく眠っているイレーネを見つめて言った。


「あの、貴族のご夫婦が何故あんな案内所併設の宿なんかに泊まっていたのですか?」

とハンスが聞く。


「ああ、我々は夏の国の視察を終えて国境の街、グリンズフィルズに入ったのだが領主の館っていうのも見ておきたかったので、身分は明かさずただの旅人として振舞ったんだ。

その方が人々の本音が聞けるから。」


「貴族ってことがバレると、周りが堅苦しいし面倒でしょ」


そんな夫妻の話を聞き、

「そう言えばイレーネも似たようなこと言ってたな。王族ってわかると厄介だとか」

と思うハンス。


「あの、ジャックのお付きの魔法使い、使えないってそれはどういうことでしょう?」

とハンスが疑問に思っていたことを聞いた。


「ああ、あの魔法使いね、魔法使いは血筋からその人の事はわかる能力があるんだけど、

あのお付きは、言われた血筋を調べることしかできなかったようね。

きっとのここにいる娘さんのなかで村の者を調べることしかできなかったのよ」


「でも、あなた方を貴族と判別してじゃないですか」

ハンスはジャックに耳打ちをしたお付きの魔法使いの言葉を聞いていたのだ。


「それはね、」

テレーズが言いかけるが、


「それは、私が煽ったからだよ。あの若い魔法使いにもわかるようにオーラを全開にしてでもしないと、引き下がってくれそうになかったからね。

で、やはりこのお嬢さんがあ奴が探しているイレーネなのかい?」

とフーベル伯が続けた。


「それは」

ハンスは口ごもった。


この人たちなら本当の事を話してもいいのかもしれない、そう思えるほど、ハンスはこの夫妻に信頼を寄せ始めていた。

しかし、イレーネの同意なくして真実を打ち明けるわけにはいかない。


「言いたくないのね。それならこれ以上詮索はしないわ」

とテレーズ。


「そうだな」

フーベル伯もそう言い頷いた。


それから、会話は途切れ

フーベル伯爵夫妻も、ほかの乗客たちも静かになった。


まっすぐな道を進む馬車、程よく揺れる車内。

乗客たちは皆ウトウトと眠り始めていた。


「あの人たち、私に気付いた?」

いつの間にが目覚めていたイレーネがハンスに聞く。


「いや、たぶん大丈夫」

とハンス。


「正体がバレるのは嫌だな」


そういうイレーネに、


「嫌、なんですか?バレたら困るとか不都合が起きそう、ではなくて」


「そう、私この旅では何の称号もついていないただのイレーネでいることが大切だと思うから」

イレーネの言葉にハンスは変わり始めている彼女の心を察した。


「あの王女様が」

そう心の中でつぶやいていた。


ーグリンズフィルズ郊外、ホリデイ伯爵の館ー


「何故にイーリアちゃんは見つからないんだ」

怒りを露にしながら、ジャックが言い放つ。


領主から奪い取った、いやもらった「ホワイトダンス」参加申込書の束。

この中にある「イレーネ」という娘の物。


それには、

身分ー平民(階級:農民)

所属ー村

と書いてある。

これはイレーネが農村の娘だという証拠だ。


「イレーネ」と名乗る娘が今朝のネオ・トワイライト行の馬車に乗った。

それは案内所の受付カウンターの男から聞き出した。

それなのに、イレーネはいないじゃないか。


「イレーネ、いや僕のイーリアたん。待ってろよ、必ず見つけ出してやる」

ジャックはイライラとしながら、イレーネの申込書を握りしめた。

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