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ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


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イレーネ王女とドロテア

ジャックに追われるイレーネ、無事に逃げられるのか。

「イーリアちゃん、いるんでしょ?」


「出ておいでよ、悪いようにはしないから」


「はーやーくー」


イレーネ達がいる部屋のドアの向こう側で、ジャックとその仲間たちが声をかけてきた。

貴族とはいえ、さすがに領主の館のプライベート部分の部屋には勝手に入ることはためらわれるようだ。


「おい、ここにはいないんじゃないか?」

取り巻きらしき一人が言う。


「そうだな、いるなら返事くらいするよな、俺に声をかけられるなんて平民にとっては名誉なことだ」

とジャック。


「おい、あのイーリアって娘、本当に平民か?お忍びで来ている外国の貴族の令嬢なんかじゃないのか?

あの所作、やはり只者ではないぞ」

と取り巻き、と言っても同じ貴族の仲間たちが言う。


「いやーあの、ジャック様とはご身分が、とか言ってた時の目は俺を敬い、すがる目だった。あれは平民の娘が貴族の俺様に恋心を抱かないように必死になって抗っているに違いないよ。

もう、イーリアたん、いじらしいなあ」


「はいはい、ジャック、そのイーリアたんはここにはいないよ。今日来ている村娘たちはあとで全員寄り合い馬車で帰るから、その時を狙ってさらえばいい」


「そうだな、イーリアたん、待っていろよ、このジャック様の手籠めにしてやる」

そう言いながら、一団が去って行くのが部屋の中からでも分かった。


「イーリアたん」

とハンスが言った。


「ねえ、イーリアたん」

ともう一度。


「あと一回言ったら、ぶつよ」

とイレーネ。


そのまま大笑いを始めるイレーネとハンス。

その横でドロテアが、


「私、あんな殿方とダンスさせられるところだったのね」

と呆然としていた。


「あのイレーネ王女、貴女をこんなことに巻き込んでしまい、本当に申し訳ございません。

私が怪我さえしなければ、貴女がジャックに言い寄られることもなかったのに」

とドロテアが頭を下げながら言う。


「ドロテア、ここではただのイレーネだよ。歳も同じくらいだし、普通にしてよ。

でも、ここでは何故か周囲の人たちって私の事がわからないらしいんだよね」

とイレーネ。


「そうなんですね、やっぱり。貴女には何かの呪文がかけられていて、貴女の事に強い興味を持つ人間だけが貴女の正体を知ることが出来るようです。

私も最初はわかりませんでした。でも私は貴女の大ファンなので、気付けたんだと思います」

ドロテアが言うには、この国でもアデーレ王国のイレーネ王女を知らないものはいない。

しかし、今のイレーネを見ても、王女だと思わない、という。


「なんであなたはそんなことがわかるの?魔法使いなの?」


「私は、魔力を感じる力があるのです。自分自身は魔力を持っていないけれど、魔法の力、呪いの力、呪文の力、そんなものを感じ取ることが出来るの。あんまり役に立たない能力なんだけどね。

イレーネ様にも魔力があるのね」

というドロテアに、


「だから様はやめって。でもその能力、すごいね。すばらしい才能だと思うよ」

とイレーネ。

その言葉にハンスも頷く。


「でも、何の役にも立たなくて。お父様やお母様からも中途半端でいらない力って言われてるし、

兄や弟は有能だから肩身が狭くて。

でもイレーネが褒めてくれただけで、それだけでなんだか力が湧いてきたかも」

とドロテア。


その時、館の大時計が鳴った、そろそろ宴が終わることを示している。


「あと少しで皆さんが帰り始めます。

ジャックが狙ってくるわ、その前に裏廊下から北側の階段へ。

通用門に我が家の馬車がるわ、その馬車で宿まで帰って」

ドロテアがそう言いながら隠し扉を開けた。


「じゃあ、行って、会えてうれしかった」

そう言いながらドロテアはイレーネに抱き着いた。


「こちらこそ、ありがとう。またどこかで会いましょう」

とイレーネ。


「あと、貴女に興味がある者は貴女が王女だとわかってしまう。それは悪意のある興味であっても、だから気を付けて」


「大丈夫よ、注意するわ。それからあの貴族のクソボンクラ息子、今度会ったらコテンパンにしてやるから」

とイレーネが言うと。


「イレーネ、口が悪いですよ」

とハンスがたしなめる。


「ホントの事ってどこが悪いのよ、あのドラ息子、イーリアたんだって、キモ」


「だからイレーネ、お下品ですよ、貴女ほんとうは王女でしょう」

とハンスが更に言った。


その様子を見たドロテアが

「仲がいいのね」

と笑った。


仲がいいと言われてお互い見つめあうイレーネとハンス。


「そっか、私達って仲がいいんだ」

とつぶやくイレーネ、内心なにか暖かく心がむず痒い気持ちになっていた。


「そろそろ急ぎますよ、外が慌ただしくなってきた」

とハンスに言われ、ドロテアに別れを告げ、そのまま北の階段を駆け下りた。


通用門にはドロテアが言った通り、領主の馬車が待ち構えていた。

御者もすでに準備しており、乗り込むとすぐに走り出した。


「それでは宿に向かいます。お話は全てドロテアお嬢様から聞いております。

安全にお送りいたしますので、ご安心くださいませ」

と御者が言う。

ドロテアがいつ御者に話をしたのだろう、と疑問に思ったがいまはただ早く宿り戻りたいと二人は思っていた。


「イーリアたんを追ってくる気配はないですね」

とハンス。


「だから、ぶつよ。

でもよかった。これ以上関わりたくないよ。

で、明日からどうするの?何か情報は手に入った?」

とイレーネが聞いた。


「数日後、秋の国、最大の収穫祭があるそうです。そこで春の国、夏の国を経て育てられた作物が集結するそうです。そして、収穫作物の最優秀が決まるそうですよ。

春の国からわたってきている僕たちが、今年のナンバーワンを見届けないわけにはいかないでしょう」

とハンスは集めた情報を話す。


「収穫祭か、楽しそうだね。私、お祭りって大好き」

そういうイレーネに、


「露店もたくさん出るようですよ。獲れたてのトウモロコシやお芋もたくさん。

貴女、露店での買い食い好きですもんね」


そうハンスに言われて、イレーネは夏の国の引取り祭を思い出した。

リリアやアン、孤児院の子たちはどうしているだろう。

夏の国を出てまだそれほど経っていないのに、すごく昔の事だったような気がしていた。

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