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ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


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ホワイトダンス

ホワイトダンスって?

秋の国、国境の街、グリンズフィルズの領主による歓迎の宴、

そこで踊られる、「ホワイトダンス」


若い女性たちが白いドレスを着て踊るダンス。

王宮などでは舞踏会の一部として披露されることが多い。


「ホワイトダンス」では周りでその地域の有力者たちが見守り、新しく社交界にデビューする若い令嬢たちを迎える一大イベントだ。


中でもダンスのメイン、センターを踊るカップルには注目が集まる。

その地域の最高位の令嬢、そしてそれにふさわしいパートナーの若者。


このグリンズフィルズで行われているホワイトダンスでも、センターを務めるのは領主の娘ドロテアだ。

ドロテアのパートナーとして秋の国の有力者、ホリデイ伯爵の子息、ジャックが選ばれていた。


秋の国は神によって治められている国だが、もともとは王国だった。そのころの名残でこの国にはいまだに貴族という身分が存在していたのだ。


ファンファーレが鳴り、始まったホワイトダンス。

しかし開始早々、ドロテアがうずくまっていた。

パートナーのジャックはなすすべもなく、隣で立ちすくんでいる。


あわてて周囲にいたダンス講師が駆け寄った。

ドロテアは足を押さえて動くことが出来ないようだ。


いささか身体の横幅が広く機敏に動くことが出来ないドロテア。

ダンスの最初のステップで動く場所を間違え、パートナーと思いきり激突してしまったらしい。


その時、

「私の子息では不満だというのか」

と客席から声がした。その声の主はジャックの父、ホリデイ伯爵だ。

客席から見ると、ドロテアがジャックを拒んでいるように見えたのだ。


そもそも、グリンズフィルズの領主は貴族など高貴な身分ではない。

それがこの「ホワイトダンス」を開催するにあたって、センターとなる自分の娘には高位なパートナーをと、父であるノービス公がホリデイ伯爵に頼み込んだのだ。


それがダンスが始めるや否や、メインのレディはうずくまり、伯爵の子息は棒立ち。

これではなんとも示しがつかない。


「ジャックに恥をかかせるつもりか」

ホリデイ伯爵が怒りをあらわにしている。

ドロテアのことなど目にも入っていない様子だ。


ノービス公が慌てて、

「誰か、別の者をジャック殿のお相手に」

とダンス講師に言った。


するとダンス講師が迷うことなく、イレーネを指名した。


「こちらのレディなら、急な代役をでもこなしてくれそうですよ」

そう言いながら、列の後ろにいたイレーネの手を取りジャックの元に向かった。


おつきの者たちに抱えられるように、ドロテアはその場から足を引きずりながら退出した。

そして、ジャックに手を差し出されたイレーネ。


「急で済まない。なんとかこのホワイトダンスのセンターを頼めないだろうか?」

と側にいたノービス公が懇願する。


ホリデイ伯爵の手前、また周囲にいる大勢の観客の手前、ホワイトダンスが無事に踊られないと困るのだ。


差し出されたジャックの手を取るイレーネ。

ジャックは紳士的にイレーネをエスコートする、その仕草はなかなかスマートだ。


ジャックに手をとられたイレーネが、広間中央に立ったところで、改めて音楽が流れ始めた。

ゆっくりとしてテンポのワルツだ。


ジャックとイレーネは互いに向き合い、ジャックの手がイレーネの腰に、イレーネの手はジャックの肩に添えられた。


「レディ、僕の動きに合わせて」

とジャックが言いかけたが、イレーネは既に優雅にステップを踏み踊っている。


ジャックは感心したように

「レディ、お上手ですね。よろしければお名前を伺えないでしょうか」

とイレーネに言う。


「私は、イ、イ、イーリアと申します」

イレーネはあわてて、イーリアと名乗った。貴族なら自分の事を知っているかもしれない。

ここで身分をばらすわけにはいかない。


「イーリア嬢、どちらのご出身なのでしょうか。その身のこなし、とても村の娘だとは思えない。

どこか高貴なお家の令嬢をとお見受けするのですが」


借り物とはい白いドレスを着て、髪を結い上げているイレーネの姿はどことなく気品が漂っていた。

さっきまでの普段着姿からは想像もできないが。

それに、このホワイダンスのセンターを踊れる、それはどこかの令嬢であるという証だ。


「いえ、わたくしは名乗るような家の者ではありません。

わたくしの母が王宮勤めをしておりましたので、その影響で所作が身に着いたのかもしれません。

このダンスも姫君の練習を見たことがありますので」

とイレーネ。


「そうですか、貴女はどこか品がある。お母上も上品な方なのでしょうね」

とジャックは優しく言った。


イレーネがジャックのエスコートで優雅に踊る姿は、周囲の観客たちを魅了していた。

ジャックの父、ホリデイ伯爵も目を細めて二人の姿を見ていた。

先ほどまでの不機嫌がうそのようだ。


やがてダンスは終盤に差し掛かり、ジャックのリードでイレーネ最後の見せ場を踊った。

そしてダンスは終わり、イレーネは大勢の観衆の前に進み出て優雅にお辞儀をする。

バラ色のほほと大きな瞳を輝かせながら、ひざを曲げ、手を胸の前にあてる。


後ろにいた大勢の少女たちも同じくお辞儀をする。

みなほほを紅潮させている。

観客からは大きな拍手が送られた。


さっそくホリデイ伯爵がイレーネとジャックの元にやってきた。

「とても素晴らしかった、レディ」

そう言いながら満足げにイレーネに話しかける伯爵。


「父上、こちらはイーリア嬢でございます。イーリア嬢と少しお話をしたいのですが」

とジャックが父、ホリデイ伯爵に言う。


そこに何人かの若者がやってきた。

みな貴族や有力者の子息たちだ。

イレーネ、いやイーリア嬢とお近づきになりたいのだと口々に言っている。


「悪いな、君たち。イーリア嬢は僕と話がしたいんだ」

そう言ってジャックがイレーネを連れ出した。


イレーネとしては別にジャックと特に話をしたいとも思っていないのだが、

招待客のなかには知っている顔、たぶんどこかの舞踏会で会ったことのある貴族、がいたので

できるだけ周囲からは離れたかった。


広間を抜けた先のテラスで二人きりになるイレーネとジャック。


「イーリア嬢、よろしければこれからもお会いできないだろうか」

とジャック。

よく見るとジャックは端正な顔をしている。


「あの、先ほども申しましたが、わたくしは名のある家の娘ではありません。

ジャック様とはご身分が」

とイレーネ。

こういうセリフ、言ってみたかったんだよね。

と心の中でつぶやきながら。


そこに領主、ノービス公がやってきた。

「そこのお嬢さん、今日は本当にありがとう」

そう言いながら。


「ドロテアお嬢様は?」

すかさずイレーネが聞く。


「足をくじいてしまって、しばらくは安静が必要だ。ドロテアも君に感謝していたよ」

とノービス公。


「私が足を踏んでしまったばかりに。あとでお見舞いに伺えないだろうか」

とジャックが言う。


「ジャック殿に見舞っていただけるとは、ドロテアも喜ぶだろう」


ノービス公のこの言葉を聞いたジャックが密かにほくそ笑んだのをイレーネは見逃さなかった。

「ぼくって優しい、気遣いが出来る男でしょ」

と言いたげなほほ笑み。


これ以上、二人きりでいるのはよくない、そう思ったイレーネが、

「そろそろ、戻りませんか?一緒にダンスをした女の子たちともお話したいし」

とイレーネが促した。


大広間では、先ほどのホワイトダンスに参加した少女たちが、観客や招待客と歓談していた。

その輪のなかにイレーネも入っていく。

少女たちがイレーネに賛美を送っていた。


その姿を遠目で見るジャック。

数人の仲間と一緒だ。


「あの子、なかなかだろう?」

とジャック。


「あの子と付き合うことにして、エレナとの婚約を先延ばしにできないかな」

と先ほどとわ打って変わった表情で言うジャック。


「あの子、平民だろ?そんな子、御父上が認めるわけないじゃん。いいの?」

と仲間の一人が言う。


「付き合うだけなら、認めるさ。父上は俺に借りがあるから。

何年か付き合って、遊ぶだけ遊んだら、結婚はエレナとすればいい」


「じや、あの子はどうすんの?」


「どっかの小作人とでも結婚でもなんでもすればいい」


「お前、悪い奴だな。あの子と付き合いながら他の子とも遊んで、結婚はエレナか。

エレナは高級貴族の令嬢だ。これ以上の嫁はいないよな」


そんな会話を陰で聞いている者がいた。

ハンスだった。


「それで、あのイーリア嬢、本当に平民なのか?なんだかお上品な娘だ」

と取り巻きの一人が言う。


「大丈夫、侍従の魔法使いが血筋を調べたが、貴族の気配はまったくなかった。平民だよ」

とジャックがふてぶてしい笑みを浮かべて言った。


「あーあ、貴族の血筋じゃければ平民ですか、安易だねえ。

王族の血ってのもあるんですよ、ねえ、イレーネ」

と物陰からハンスがつぶやいていいた。

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