表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/126

秋の国の入り口で

いよいよ秋の国への入国審査。

秋の国への入り口、夏の国との境界線、国境だ。

ここには長く塀が張り巡らされており、その真ん中に門がある。


その門の前にイレーネ達を乗せた馬車が着いた。

すぐに、国境警備兵と思われる兵士が馬車に駆け寄ってくる。


「入国審査を」

馬車を降りたフローレンスがそう言う。


「入国希望者は、え?あなたもですか?」

と門番の兵士。


「いや、私は違う、この二人だけだ」

とハンスとイレーネを見るフローレンス。


「じゃ、あなたはここでお帰りください。お二人はこちらへ」

そう言って、大きな門の横にある小さな通路を開け、イレーネとハンスだけを通そうとする兵士。


「ここで私が帰ってしまったら、通過できなかった時にこいつらが帰る手段がなくなるじゃないか。

ここで待たせてもらうよ」

そう言って、門の脇にある門番の待機所の小屋に向かおうとするフローレンス。


「いや、ここには入るのはまずいですよ。この先は中立地帯ですが、ほぼ国外ですから。

お待ちになるなら、ご自分の馬車の中でどうぞ」

そう言いながらフローレンスが小屋に入るのを阻止する兵士。


「馬車で待てだって?あんなところ、暗いし狭いし埃っぽいし、

小屋のなかで待たせてよ」


そんな押し問答を、門の中、国境管理官の執務室から見ている者がいた。


「よりによって、この儂が面接担当の日に」


白髪のその男はとても機嫌がわるそうだ。

執務室の机の上には食べかけの食事が置いてある。

夕食の最中だったのだ。

しかし、その面接希望者と付き添いが誰なのか、を把握すると表情が変わった。


「会うだけは会うか」

その男はそう言うと、門番の待機所に電話をかけた。


けたたましく鳴り響く、電話のベル。

門番の兵士が慌てて出ると、


「おい、その方たちをお通ししろ。面接を受けないご婦人もだ」

それだけを言って切れた。


「面接官がお呼びだ。あなたも」

兵士はそう言って、イレーネ、ハンスとフローレンスを門の隣の通用口から中に招き入れた。


そこには、まるで門が家になったような建物があった。

その中の一室、そこが執務室だ。


「面接って何を聞かれるのかしらね?私自信ないな。面接と相性わるいんだから」

道すがらイレーネは不安を訴える。


「まあ、言葉遣いには気を付けてくださいね」

とハンス。


執務室のドアの前で、一応、身なりを整える二人。

そしてノックする。


「どうぞ」

と低い声がした。


ドアを開け、中に入る3人。

部屋の奥に秋の国の国境管理官がいた。


「おおーーフローレンス、こんなところでお前に会えるとは」

その言葉に、


「イーロン?なんでここにいるの?」

とフローレンスも驚いて言う。


国境管理官、イーロン。

「こちらはかつて一緒に訓練した仲だ。私よりかなり年長だが勇者訓練生としては同期だよ」

フローレンスがハンスとイレーネに言った。


「ま、いろいろとあってな。で、こちらの若者たちかい?面接を受けるのは」

とイーロン。


「ま、お手柔らかに頼むよ」

そういうフローレンスに、


「それとこれとは話が別だフローレンス。まずは君から話を聞こう」


イーロンはまずハンスを自分の前に呼んだ。


「君は秋の国へ行ってなにがしたいんだ?」

イーロンの問いに、


「私は春の国で作物を種や苗から栽培し、それを夏の国で大きく育てた。それが秋の国でどのように収穫されるのか、それを見守りたい。作物を最初から育てた者として私にはその義務があると思うのです。

とハンスが堂々と答えた。


ふむ、とイーロンが満足げに頷いた。

「では、そちらのお嬢さん、貴女にも同じ質問を」


次はイレーネだ。

イーロンの前に進み出るイレーネ、しかし。

ハンスのように作物に興味があるわけではないイレーネにとって、収穫なんかどうでもいいことだ。


言葉が出てこない。

「あの、私は」


ハンスが心配するようにイレーネを見つめるが、

イレーネは黙ったままだ。


しばらくの沈黙の後、

「あの、私は、ハンスと共に秋の国に行って、それから」


そこでまた沈黙してしまった。


自分には秋の国にいく明確な目的がない。

女神の再試験を受けるための条件だから行くだけだ。


「秋の国と、冬の国を回って、聖地に行かなくてはならないから」

小さな声で言うイレーネ。

ハンスとは対照的だ。


「そうか、お嬢さん」

と面接官のイーロン。


その時、

「私はイレーネに支えてもらわないと、何もできません。イレーネが私を支えてくれるから自分は自分のやりたいこのに専念することができるんです。イレーネがいてくれないと困るんです」

とハンスが口をはさんだ。


「私、ハンスの事支えてるっけ?」

イレーネが驚いたように言う。


「支えてますよ。僕だけじゃゾクに襲われても反撃もできないし、

僕の身を守ってくれるのはいつも貴女じゃないですか」


「そっか、そういえばそうだよね。

あの、私、ハンスが収穫作業を満喫できるように、必ずハンスの事を守ります」

と先ほどとは打って変わって大きな声で言った。


「そうか、お前たちはお互いが必要だ、ということか」

と言うイーロンに、大きくうなずく二人。


「お前たちはいずれ結婚する仲だと聞いている」

とイーロン。

イーロンはイレーネの身分もハンスとこうして旅をしている理由も承知していた。


「だから、秋の国に行かせてよ、そうしないと私とハンスは結婚できないんだもん」

とイレーネ。


「え、イレーネ、僕と結婚ってはっきり言いましたね」

ハンスは少し頬が赤くなっていた。


「そうか、ではお前たち、二人は愛し合っているんだな」

イーロンが二人を見ながらゆっくりと言った。


「あいしてる?」

お互いに顔を見合わせるイレーネとハンス。


「では、その愛を見せてもらいたい」

イーロンがそう言うが、二人にはどうすればいいのかわからない。


「愛し合ってる二人なら」

それまで黙っていたフローレンスが言う。


「愛し合ってる二人なら、キスしろ」

と。


「ああ、キッスね」

イレーネはそう言うと、ハンスに向かって手を差し出した。


「いや、イレーネ、手にキッスじゃないよ、恋人同士のキスだ」

フローレンスがイレーネの手を引っ込めながら言った。


イレーネにとってキスする、差し出した手の甲にだろう。

自分を訪ねてきた要人や他国の王族、みなひざまずいて私の手にキスをした。

「姫、ご機嫌うるわしい」

と言いながら。


手じゃないキスって?

とイレーネが疑問に思っていると、ハンスがイレーネの目の前に立ちはだかった

そして、


そして、イレーネの肩に手を置くそれから、両手をイレーネのほほに。

それから、ハンスが自分の唇をイレーネの唇に重ねた。


最初、驚いたイレーネだったがハンスを拒むこともなく、自分の手をハンスの背中に回す。

そんな二人を見たイーロンが、


「ほほほ、なかなか熱いキスだ。愛を感じる」

と感心したように言った。


「おい、お前たち、通っていいぞ、秋の国へようこそだ」

イーロンが言うが二人のキスはまだ続いていた。


「いつまでやってるんだよ、母親の前で」

とフローレンス。


やっと顔を離した二人。

イレーネが赤い顔をしてうつむいた。


「面接は合格だ、ここをまっすぐ行けば秋の国だ」

イーロンが改めて二人に言った。


「ほんとですか?ありがとうございます。

じゃあ、行こう、イレーネ」

ハンスがほほを紅潮させながら言った。


見ると執務室の奥の扉が開かれている、ここを通れば秋の国へ入国だ。

名残惜しそうな二人に、

「じゃ、元気でな、またアデーレ王国で会おう」

フローレンスが言う。


「あの、母上、お元気で」


「フローレンス、色々ありがとう、剣の稽古も忘れないからね」


そう言うと二人は扉の向こうへ消えて行った。


「勇者フローレンス、あの若者はやはり子息だったのか。

それから、王女、愛する心が芽生え始めているようだな、邪魔するものが現れなければいいが」

とイーロンがフローレンスに言った。


「あの子たちなら大丈夫、どんなことでも乗り換える。だって私息子だもん。

それに王女はアデーレ王国の正当な後継者、彼女は本物の王女よ」

とフローレンスが自信たっぷりに言う。

その目には少しだけ涙がにじんでいたが。

応援していただけるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ