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ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


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母と子

フローレンスがハンスのお母さん?

「お母様、なの」


「ハンスの」


「フローレンスが?」


フローレンスとハンスを交互に見ながら、驚きを隠せないイレーネ。

もちろんロバンナとマデリンもだ。


「そうだよ、私はこいつの母親」

フローレンスはの腕組みをし、長い金髪を掻きあげながら言う、

まるでなにかの決めポーズのようだ。


「お前、私の事を覚えているの?」

さっきから固まったまま動かないハンスに声をかけるフローレンス。


ハンスはじっとしたまま、答えようとしない。

頭の中で思考を巡らしているようだ。


「あれは、あなただったんですね」

しばらくしてやっとハンスが話し始めた。


自分の記憶の中に時々出てくる女の人。

顔はわからないけれどきれいな金髪の女性。


「3歳までは一緒に暮らしてたんだから少しくらい覚えてるでしょ」

畳みかけるフローレンス。


「だんだんと思い出してきましたよ」

ハンスが話す。


「僕に酒を飲ませましたよね、あびるほど。あの時はまだ2歳だった。

それから、髪を切ってやるって、僕を壁際に立たせて剣ふるって、いたぶるように切りましたよね。

それから、何かって言うと僕の背中を剣でつつきましたよね、それから。」


「どんな親子なの、こいつら」

ロバンナがマデリンに耳打ちする。


「それから、なんで出て行ったんですか」


ハンスは金髪の女性が髪をなびかせて出て行く姿を、何度も何度も心の中で思い出していた。

あれは、母だったんだ。この勇者フローレンスが。


「いや、あれは出て行ったというか、致し方なかったんだけどなあ」

フローレンスが言うには、アデーレ王国国内、いや世界的に名の知れた勇者の家系、それがシャーロン家だ。


シャーロン一家、その一員であるハンスの父、グロウ・シャーロン

グロウは、いわゆる「変わり者」だった。

剣を腕を磨くよりも土いじりが好き、争いごとが大嫌いで、決闘なんてもってのほかだ。

剣の手合わせでさえ、逃げまくる。

そんな一族の異端者、グロウも妻を迎え家族を持った。


そんなころ、国境沿いの警備のための、公共警備軍が強化された。

名のある勇者の家系から、選りすぐりの勇者が派遣されることになった。


そこで、シャーロン一家から選ばれたのが、グロウだった。

「嫌がらせだね、王家からの」

とグロウ。


グロウを指名してきたのは、アデーレ王国、国防軍の将軍だ。

以前から有能なシャーロン家を思いのままにしたいと狙っていた。


グロウを差し出さなければ、シャーロン家は王家に召し上げる。

そう言ってきた。


グロウには妻と幼い子がいる。


「なんとか辛抱して行ってもらないだろうか」

グロウの家に押しかけてきたシャーロン家の長老がグロウに頼む。


その時、召集令状をみていた妻のフローレンスが、

「ここには、グロウ一家の者を招集する、って書いてある。グロウ本人でなくてもいいってことよ」

と叫んだ。


「お、ということはお前さんが行ってくれるのか」

と長老。


あれよあれよという間に、フローレンスが差し出される、ということになっていた。

長老と一緒にグロウの家に押しかけてきていた大勢のシャーロン一族の者たちが、皆口々に

「フローレンス、我が家の代表、フローレンスを国境警備軍に」

と叫ぶ。


正直、グロウが派遣されても兵士として何の役に立たないのは目に見えている。

それを理由にシャーロン一家を召し上げるってことにもなりかねない。


それなら、フローレンスに行ってもらった方がまだ希望がもてるというもんだ。


「うちからは誰もでませんよ、子供だって、ハンスだってまだ小さいんだ。

両方の親がいない子にしたいのか」

とグロウがここで初めて言葉を発した。


「うちからじゃなくてもいいでしょう。それくらい交渉できるんでしょ、叔父上なら」

グロウが長老に抗議する。


「いや、それが」

と長老はくちごもる。


「何か取引でもしたの?叔父上」


「いや、娘一家が王宮勤めで、この話を断ったらい辛くなるんだ」


「それだけ?」


「いや、娘婿の出世がかかっており」


「そういうことなんだ」

フローレンスが代わりに答えた。


「ねえ、グロウ、私かあなた、どちらかが行かなくてはいけないようね。

それなら、私が行くわ。あなたは許してくれなかったけど、勇者になる。

軍に入って修行するわ。

あなた、どうかハンスを」


既に軍からの迎えがスタンバイしていた。

軍関係者に、早々に連れていかれるフローレンス。


「別れの時間もないのか」

グロウが食って掛かるが、相手にもされない。


ハンスは驚いて家具のかげにかくれてしまっていた。


ふりかえったフローレンスの目がハンスを探す。

「ハンス、どうか強い子に」

そこで言葉は遮られる。


軍が差し向けた馬車に乗せられるその寸前、

グロウがフローレンスに剣を差し出した。


「これ、聖剣、マヤです。我が家の家宝、シュバの同等の力がある、

これを持って行って、貴女は必ず世界一の女勇者となる」


これが、フローレンスとハンスの別れだった。

それ以来、フローレンスが家に戻ることはなく、グロウもフローレンスの事を話すこともなく、

ハンスとグロウは父子二人で、国境沿いのバロウ村に居を構えたのだ。


「ハンス、よく立派に育ったね、グロウに感謝だ」

フローレンスが声を詰まらせた。


「僕はあなたのことを憎んでいましたよ、今もかも。

僕と父を捨てていなくなったあなたを」

そう言いながらもフローレンスに近寄るハンス。


「でも、僕は」

そう言うとハンスがフローレンスを抱きしめる。

フローレンスもハンスを抱きしめた。


しばらく抱き合っていた二人、

「お前たち、秋の国にいくんだろう」

とフローレンス。


「お前と、イレーネ王女。秋の国の国境まで私が連れて行こう」

フローレンが続けた。


フローレンスは改めて、イレーネの前に進み出てひざまずく。

「王女、この婿候補、我が愚息、それでも我が息子です。どうかご慈悲を」

そう言いながら。


「母上、ここではイレーネは」

ハンスが言ったが、


「我々もあなたたちの事には気づいていたよ。

俺は神の国の使いだ、それくらい知る権利がある、そしてこの優秀な魔法使いマデリンはすべてをお見通しってわけだ」


ロバンナとマデリンも並んでイレーネにひざまずく。

その姿を見たイレーネが、


「やめてよ、そんなの、ここでは私はただのイレーネ、どこにでもいる女の子なの」

と叫んだ。


「じゃあ、普通のイレーネ、夕食の続きを始めよう、デザートがまだじゃないか。」

ロバンナに言われて、みなであたらめて食卓を囲んだ。


その後、いよいよ出発の時が来た。

フローレンスの部隊とともに秋の国国境まで行くのだ。


ロバンナとマデリンに別れを告げるイレーネ。

とても楽しいひと時だった。


「またここに来てもいい?」

とイレーネ。


「もちろんだ、少し危険だけどな」

とロバンナ。


ハンスも同様に二人と別れを惜しんだ。


「いつも自分に正直で、それが貴女を救うことになるから」

とマデリンはイレーネに言いながら、この数日でイレーネを取り巻く「呪い」に変があったのを感じていた。


「あの子なら大丈夫、必ず打ち勝つ」

とロバンナに言うマデリン。


「じゃ、世話になったね、また」

そう言って、フローレンスが馬車に乗り込む。

ハンスとイレーネと共に。

ロバンナとハンスは馬車が見えなくなるまで見送っていた。


馬車の中、

「あの、聞いてもいい?」

とイレーネがフローレンス言った。


フローレンスが頷くのも待たず、

「あの、ハンスの事愛しているの?ハンスも。お互いにすごく愛を感じるの」

と聞いた。


「そりゃ、そうでしょう。息子だもの。ハンスからは正直憎まれてるって思っていたけどね。

母って言うのは無条件に子供を愛するものよ」

とフローレンス。


「無条件に、か」

イレーネは自分の母、ソフィア王妃から愛を感じたことが今まで一度もなかった。

父、アデーレ国王にしても同じだ。

そう言えは、ルルカ村の孤児院、ママイメルダとリリアの間にも愛情があった。

春の国の農園主一家にも。


私は、愛されたことなんかない。

今まで感じていた、違和感、その原因の一つに気付いたような感じがしていた。

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