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ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


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勇者フローレンス

フローレンスの正体は?

さっきまで襲撃犯が暴れていた家の中も、外も今は静かだ。

そして天井にいくつもの穴があいたロバンナの家のリビングで、お茶を飲んでいる。


ーこの穴、早く塞がないと雨降ったらこまるでしょー

天井を眺めながらそんなことを考えていたイレーネ。


そこに、

「隊長、隊長はこちらにおいででしょうか」

と玄関から声がした。


応対に出たマデリンが、

「フローレンス、部下だってのが何人か来てるよ」

と言いながら、数人の男を連れてきた。

みな兵士のようだ。


「隊長、この集落を襲撃したゾクは完全に鎮圧、襲撃に加わったもの全員を確保、

このまま国境警備軍に引き渡します」

そう言うと、フローレンスに向かって書類を出した。


そこに手早くサインをするフローレンス。

兵士は次から次へと書類をフローレンスの前に広げる。その一つ一つにサインをするフローレンス。

それらすべてをを受け取ると、兵士たちはロバンナの家から出て行った。


「いやいや、書類だらけで嫌になるね。

襲撃犯たちの護送の許可証、警備軍への受け渡し委任状、それから」

すべての書類にサインを書き終えまた、お茶の席に戻ったフローレンスがぼやく。


「管理職なんてそんなもんだ。仕方ない、な、隊長さん」

とロバンナも頷く。


「それにしても、このあたりが襲撃されるなんて年に一度あるかないかだし、

こんなに大規模な襲撃はまれだ。何が起きているの?」

マデリンが少し不安な表情を見せた。


「いや、これは」

フローレンスが口ごもる。


「これは、我々が襲撃犯をこの村に追い込んでしまって。

ふだんは春と夏の国の国境沿いで暴れている奴らだ。あいつらの掃討作戦をやったのだが、

上手くかわされてしまって、しかし逃げられる前に追い詰めたんだ。

そこまではよかったが、そこからこの集落に逃げ込んだ、というわけだよ」

というのがフローレンスの説明だった。


「あんたたちの計画失敗ってわけ?それで村がこんなことに。隊長だっらなんとかしてくんないかな」

マデリンが今度は怒りの表情に変わる。


「いや、失敗って言われても。まあ全員確保したんだし、住人に被害はでなかったし、

そりゃ、家が壊されたりいくつかあったようだけど、それは軍の修繕部隊が責任持って修理するから。

私が保証する、隊長として」

そういうフローレンスの言葉通り、家の外にはすでに兵士とともに重機が到着していた。


外をみると、穴が開いた歩道を修繕していたり、なぎ倒された樹木の撤去などを大勢の兵士が行っていた。


ロバンナの家にも、「修繕担当」という兵士が数名やってきた。

これから屋根の穴をふさいでくれるのだとか。


「しばらく天井からほこりが落ちるから、少し外出していてほしいって」

とフローレンス。


「しゃ、水路管理団体の事務所に行ってくる。団体職員たちの家に被害がないか確認したい」

とロバンナはいい、出かけて行った。


「それじゃ、私は農地をみてくるわね。ついでに夕食の食材も確保してくるわ」

そういうとマデリンは大きな帽子をかぶって外に出た。


「あなたたちも夕食までには戻ってきてね」

そう言い残して。


あとは、ハンス、イレーネ、そしてフローレンス。


「そうだ、お嬢ちゃん、剣を2本で戦っていたけどあまり慣れていないね、

どう?修理してる間、手合わせ願えない?」

とフローレンスがイレーネに言った。


イレーネがマデリンと魚釣りをした小川の脇に野原が広がっていた。

そこで、剣を構えるイレーネとフローレンス。


イレーネは聖剣、シュバとフリージアの2本を持つ。

一方のフローレンスは長く細い剣を構える。

こちらも聖剣だ。


「やはりこの子は筋がいい」

イレーネと剣を交えながら、フローレンスは思った。


「ねえ、イレーネ、やはり両手に剣はやめた方がよさそうだよ。

一つ一つの剣の使い方を極めた方がいい。」

フローレンスの見立てによると、両手で2本の剣を扱うより、その場での状況に合わせて

どちらかを使った方がいい、そういうものだった。


「そうだね、シュバはもともとハンスの物だしね」

と傍らに座り込んで、二人の剣を見ていたハンスにシュバを渡した。


「やっぱり持ち主はハンスだよ」

イレーネにそう言われてシュバを受け取ったハンス。

使いこなせる気がまったくしない、そう思っていた。


剣を交える二人を見つめるハンス。

まるで師匠と弟子のようだ。

思わず目を細めて、二人の姿を追っていた。


「おい、君も眺めてるばかりじゃなくて、剣をもたないかい?」

フローレンスにそう言われ、渋々立ち上がり、シュバを構えるハンス。


「やはり相性、最悪だ」

シュバを扱うのに苦戦しながらそう思うハンス。

そして、やはりというべきかフローレンスにコテンパンにやられてしまった。


日が傾き始めたのを見て、

「そろそろ戻るか」

というフローレンス。


ロバンナの家、

「痛いです、もっと優しく貼ってください。

だから、痛いって」

とハンスの大声が響いていた。


ハンスは体中に青あざが出来ている。

そこにイレーネとマデリンが湿布を貼っているのだ。


「相当しごかれたんだねえ」

と憐みの目をしているマデリン。


「あんなちょっとでね」

とイレーネ。

フローレンスとハンスが剣の手合わせをしたのはほんの少し。

自分の10分の1ほどの時間だ。

ハンスがあっという間に倒されて動けなくなったのだが。


ガタピシ歩きながらやっと食卓につくハンス。

おでこにも絆創膏が貼ってある。


「おお、傷だらけのヒーロー、どうだ勇者にはなれたか?」

とロバンナが言うが、


「なれるわけないじゃないですか。

僕はね、血筋だけの勇者なんです」

と不機嫌に答えるハンス。


「少し鍛えたらこのザマだ、まったく。正当な勇者の血筋なんだろう、お前。勇者の名が泣くなあ」

とフローレンス。


それからしばらく、ハンスのポンコツぶりに皆が盛り上った。


「どうだい、最強の勇者フローレンス、あんたから見てこのハンスはどうなんだ?」

とロバンナがフローレンスに聞いた。


このハンス、勇者としての才覚を認められることが使命なのだ。


「だめだ、こいつポンコツだから、無理」

とフローレンス。


それを聞いたハンスが、

「だめってなんですか、会ったばかりで決めつけないでくださいよ。

よわっちい勇者がいたっていいじゃないですか。

どんくさい勇者がいたっていいじゃないですか・

何があっても、僕は勇者になるんです」

と言い放った。


その言葉に、ほほ笑むフローレンス。

「待ってた、この言葉」

そう心で思っていた、ロバンナとマデリンもだ。


しかし、

「でも、なんであなたがまだここに居座ってるんですか?

夕飯までごちそうになって、あなた図々しいですよ、

ねえイレーネ、こんなオバサンになってはいけませんよっ」

と暴言が止まらないハンス。


「私に振らないでよ」

イレーネは横を向く。


「お前、随分と言うねえ、口達者だ。

しかし、なんだい?オバサンだって?ひどい言い草だ。お母様に向かって」

フローレンスの言葉に皆動きが止まった。


「お母様?」

「ハンスの?」

「お母様、なの?」


ハンスは遠い記憶を探る。

金髪の女性がいた。

片手に剣を持ちながら、自分を抱きかかえ誰かと戦っている。

あの金髪、そうだフローレンスの髪だ。


あれは、母だったのか。

ハンスは改めてフローレンスを見つめていた。

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