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ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


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心を強くするもの

国境沿い、ロバンナたちと。

さっきまで釣りをしていた小川の川岸に、

イレーネとマデリンが並んで座っていた。


イーレネは鼻と目が少し赤くなっていた。

しかし表情は晴れやかだ。


シャロンンの気配が感じられない、と涙を流していたイレーネ。

その横にマデリンがそっと寄り添う。


「シャロンの事、話してもらえる?」

マデリンの言葉に、イレーネは語り始めた。


シャロンとの出会い、いつも一緒にいたこと、シャロンには意地悪をしなかったこと、

シャロンはいつも自分を守ってくれていたこと、など。


シャロンが「宮廷魔法使い」なのはマデリンも知っている。

そんなシャロンと共に過ごしていた、「イレーネ」の身分を察するに十分すぎる内容だったが、

あえてマデリンはそこには触れずにいた。


シャロンとの思い出話をひとしきりマデリンに聞かせたイレーネ。

すると少しだけ心が軽くなっていた。


「その、孤児院の子供たちや、院長の娘の事はどう思ってるの?」

マデリンが聞くと、


「リリアがこんなことをしたのは、私のせい。私が酷いことをしたから。

だから自業自得だと思ってる。

でも。孤児院の子供たちが妖精を信じていない、これはとても悲しいことよ。

小さな子が妖精を信じていないの。夢とか希望とかがないのと同じことよ。

あの子たちを希望に満ち溢れた子にしてあげたい、それにほかにもそんな子がいたら私がなんとかしてあげたい。私に何かできることはないのかしら」


そのイレーネの言葉を聞いたマデリン。

「貴女が立派な王女になることよ」

そう心の中で言った。


そして

「貴女ならできるはず」

とも。


「さ、そろそろ戻ろうか。みんな腹ペコだよ」

マデリンに声をかけられイレーネは歩き始めた。


シャロンがいない、シャロンのいない世界。

とても寂しい、けれど何故が心が晴れやかだった。


家に戻るとロバンナとハンスが出迎えた。

イレーネ達が持ち帰った食材をみると、ハンスがキッチンに立っ。

他人の家の台所だというのに、手際よく野菜をスープにし、川魚をさばきに煮つけにしている。


そんなハンスに昼食の準備を任せて、ロバンナとマデリンは昼から酒盛りだ。

そこにハンスが出来上がったばかりの昼食を運んできた。


ダイニングテーブルには、ロバンナとマデリンの酒とつまみ、そしてハンスが作ったスープと煮魚、

いつの間にかイレーネが出してきていたフルーツやパンが並んでいた。


4人でがやがやとしゃべりなら食べる。

イレーネには新鮮だ。


連邦国に来てから、カフェで食事をしたり、ホッピイ農場で働くみんなとご飯を食べたり、

ルルカ村の孤児院でも食堂でみんな食事をした。


イレーネ王女なら、決してできなかったことだ。

いつもは一人の食卓。

やたら長細いテーブルの真ん中に一人座り、後ろには何人もの給仕係が直立不動で立っている。

料理の味には何の感想も言わないのが通例だ。

食事を終えた時に、並んでいるコック長にほほ笑んで会釈すればそれでいいのだ。


なんどか、つい

「これ嫌い」

と出された料理を目の前にして言ったことがある。

担当のコックはその場でクビになっていた。


「ハンス、お料理上手いね、どれもすごく美味しいよ。誰に教わったの?」

マデリンが感心しながら言った。


「うちは父と二人暮らしなので、出来る方が食事を作るんです。

でも僕の方が得意だったからほとんど僕が食事当番でした。

誰かに教わったことはないなあ」

そう言いながらハンスは小さな子供の頃のことを思い出していた。


キッチンで幼いハンスの隣に立ち器用にナイフを使い、誰かがフルーツを切っている。

「私が扱えるのは剣だけじゃないんだよ、ほら美味しく剥けたよ」

そんなことを言っていたのは、長いブロンドの髪をした女性。


あれは誰だったんだろう。


ハンスがそう思ったのとほぼ同時に、


「お母様はどうされたの?」

とマデリンが聞いた。


「母は、小さい頃に出て行ってしまいました」

ハンスはブロンドの女性が長い髪とマントをひるがえし、ドアを出て行く姿を覚えていた。

あれは母だったのだろうか。


「え、お母様って出てっちゃったの?そんなことできるんだ」

イレーネが驚いたように言った。

王族の場合、勝手に出て行く、など決してできないことだ。


「そうですね、うちは代々正当な血筋の勇者の家系です。

それなのに、父は農民だし、僕だって。

母も勇者の家系だと聞いています。だから勇者らしくしないしできない父に嫌気がしたのではないでしょうか。僕を勇者として育てようともしなかった、それも」


「あなたはどうなの?勇者として育てられなかったこと、どう思っているの?」

とマデリン。


「僕は、今のままがいいです。本心では。僕に勇者としての資質がないのはわかっています。

我が家に伝わる聖剣、シュバは僕の言うことを全く聞いてくれないし。

でも僕は勇者にならなくてはいけないんです。」


「本心は嫌だけど勇者になりたいの?」

マデリンが聞く。


「最初はそうでした。でも今は違います。

勇者、それは強いだけではない、他の要素もあると思っています。

確かに僕は戦いだってすぐに負けるし、剣術も下手くそだ。

でも、僕は世界一の勇者になる。そして」


「そして?」

ミランダとロバンナが声をそろえて言った。


「そして」

その後は小さくもごもご口ごもるハンス。


なんだか顔を赤くしているハンスを見たロバンナが、


「じゃ、嬢ちゃんはどうなんだ?

そろそろお家が恋しいんじゃないのか?」

とロバンナがイレーネに話の矛先を変えた。


「ちゃんと国には帰るわ。秋の国と冬の国をめぐってから。

それまでにすっごくいい人になってるんだから」

とイレーネ。


イレーネにとって「家が恋しい」そんな感情はないに等しかった。

しかしアデーレ王国には戻りたい。イレーネ王女として。

王女ふさわしい自分になぅて。


「この旅でたくさんの経験をしているのね、イレーネ。

そのひとつひとつが貴女を強く気高くしてくれるわ」

とマデリン。


マデリンはイレーネにかけられている「呪い」これを取り除くことが出来る方法、

それはイレーネの心の変化だ。そう感じていた。

イレーネの新しい経験が心を変化させる。その積み重ねで「呪い」が消滅していくはずだ。


「女神アフロディーテの意図することはこれなんだね」

とマデリンはロバンナにささやいた。


その時、家の外が騒がしいことにロバンナが気付いた。

馬の走る音、男たちが騒ぐ声、遠くで聞こえる悲鳴。

これは。


「襲撃だ、大規模だぞ」

ロバンナが叫ぶ。

食卓にいたハンスとイレーネも思わず身構えた。

素早く剣を手に持ったロバンナが、3人を家の奥に行かせる。


この界隈の家には、隠れ部屋や防護部屋が用意されており、急な襲撃の時にはその部屋に逃げ込む。

ロバンナのこの家もそうだ。

隠れ部屋に身を潜めるマデリンとハンス、イレーネ


「さっき小川でも襲撃があったわね、このあたりはあまり危険ではないはずなのに。

でも国境沿いということには変わりないわ。危険はつきもの。

ロバンナに任せておけば大丈夫よ」

とマデリン。


そのマデリンもゾクの奴やの心を鎮めようと隠れ部屋を出て行った。


「イ、イ、イレーネ、大丈夫ですよ」

ハンスが震えながら言う。


「ホッピイ農場でも強盗団に襲撃されたし、この旅って襲撃がつきものなのかしらね」

とイレーネ。


その時、窓ガラスが割られる音がして、家の中にどかどかと足音が響いた。

襲撃犯に押し入られたのだ。


そっと外の様子を伺うと、ロバンナが剣を持ち応戦しいる。その横でマデリンも魔法で対抗している。

しかし、族の数が多い、このままでは。


「ハンスはここに居て。出てきちゃだめよ」

イレーネはそう言うと、隠れ部屋を飛び出して行った。


そして、右手にシュバ、左手にフリージアを握り、二刀流で襲撃犯に立ち向かう。

相変わらず見事な剣さばきだ。


「なーんだ、このお嬢ちゃん。こんな立派な剣、持ってちゃだめじゃないですかあ、

僕が代わりにもらってあげるからね」

ふざけた口調の襲撃犯に、容赦なく切りかかるイレーネ。

そう様子をじっとマデリンが見つめていた。


ロバンナとイレーネで部屋の襲撃犯を次々と倒していく、


「あと少し」


そう思った時、屋根を突き破って大量の襲撃犯が突入してきた。

上を見ると、屋根に穴が開き、空が見えている。


「俺のマイホームになにをする」

ロバンナが怒り叫ぶ。

そんなロバンナも身動きが出来ないほどの襲撃犯に囲まれていた。


イレーネも同時に2本の剣を振り回すのにはまだ慣れていない、

知らぬ間にスキがあったようだ。

両脇を襲撃犯に挟まれた。


「どうすれば」

目でロバンナに訴えるイレーネ。

そのロバンナも動くことが出来ずにいた。


その時だった、穴の開いた天井からマントが翻るのが見えた。

そして、あっという間に襲撃犯を倒していく。

金髪とマントをひるがえしながら。


そこにはあの女性勇者フローレンスが立っていた。


恐る恐る隠れ部屋から出てきたハンスを見つけると、


「やあ、バロウ村のポンコツ、無事でなによりだ。

それから二刀流のお嬢さん。いきなりそれじゃ戦えないね、修行が必要だ」


とハンスとイレーネに話しかけた。


「なんであなたがここにいるんですか?」

ハンスはフローレンスにそう問いかけるのがやっただ。


「いやあ、家がめちゃくちゃだ、援軍感謝する。

わたくしは、ロバンナ・イーサム 「国境沿い、水路管理団体」の代表だ」

ロバンナがフローレンスに言う。


「そしてこちらが、伝説の魔法使いマデリンね」

フローレンスがマデリンに向かい言った。


「まあまあ、襲撃犯も倒したことだし、ひとまずお茶でも飲んで落ち着きましょうか」

とマデリンがキッチンでお茶の準備を始めた。


「そんな呑気なこと言ってていいの?

ここの奴らは倒したけど、まだ家の外には」

とイレーネが窓から外を覗くと、至る所に倒れている襲撃犯たち。


「私の部下、優秀でしょ」

フローレンスは誇らしげにイレーネに言った。


「さあ、お茶いただきましょう」

















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