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ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


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女神の意思

イレーネの心は。

ロバンナ・イーサムの妻、マデリン。

心を癒すことのできる魔法使い。

ロバンナのいうところの、「国境沿いの聖母マデリン」なのだそうだ。


「で、あのお姫さんのこと、どうするつもり?」

とロバンナがマデリンに聞く。


マデリンにはイレーネの根底にある「呪い」が見える。

これに気が付いたのはマデリンだけなのではないだろうか。


「ー呪いーはそう簡単には除去できないよ。だってさ、呪いだもん。

たぶん魔女メディアの仕業だよ。私を退学に追いやったあいつ。

お前さんの話によると、あのお姫様は聖地の女神アフロディーテの差し金でこの連邦国をめぐってるんでしょ。何が目的なんだろう。女王としての修行ならこんなところまで来なくてもいい。ここは危険が多すぎるから」


マデリンは思いあぐねていた。

あの王女をどうすればいいのか。


自分の魔力を使い、イレーネの心を浄化したところで、根本的な問題が解決されるわけではない。

それに、聖地の女神アフロディーテの思惑がわからない。


数週間まえのこと、ロバンナとマデリンの元に、女神アフロディーテの使者がやってきた。

ロバンナの同僚だ。

そして、この先、名ばかりの「勇者」と性格的に問題ありの「王女」が現れる。

この二人は女神アフロディーテの命により、連邦国を旅して周る。

その力になれ、と伝えた。


「抽象的な言い方されてもねえ、もっとはっきり言ってくれない?」

とマデリンが使者を責め立てる。


「だから、ハンスという一応勇者の若者と、普通の女の子に見えるけど実はアデーレ王国王女のイレーネ

って子が、やってくるんだよ。

マデリン、あんたにはイレーネの心を何とかしてもらいたい。

心になんかいるらしいいんだよね、アフロディーテの見立てによると。

それを取り除く手伝いをしてよ」

と「わかりやすく」言い直した。


「なんだ、厄介事だね」

マデリンはつぶやいた。


「かかわらない方がいいよ、ロバンナ」

と続けた。


「いや、マデリン、あんた壊れている心を抱えた奴、見て見ぬふりなどできるのかい?

そんなことが出来るんだったら、あんたは魔法学校を首席で卒業して今頃は宮廷魔法使いだ」

使者の言葉に、


「昔の話はやめてよ。ロバンナ、あんた酒のつまみに私の過去、こいつに話したね」


「いや、ついつい、我が愛しき妻の武勇伝を自慢しちまっただけで」

思わぬ方向に話が向き、焦ってロバンナが言う。


「とにかく、アフロディーテはこの王女の事をずいぶんと気にかけておられる。

だから、この連邦に送り込んだのだ。

どうか、姫の力になってやってほしい」

使者はそう言うと、その返事も聞かずそそくさと去って行った。


「なんだよ、人が断れないって知ってて言いに来たな」

とマデリン。


「まあまあ、マデリン、幻の大魔法使い、なかなか放っておいてはもらえませんね」

と笑うロバンナ。


「で、お前さん、その勇者ってやつ、どうするつもりだい?」

マデリンが気に掛ける勇者。


使者は帰り際、

「もう一方の勇者の男ですが、こいつは放置でいいそうです。

一応、姫の結婚相手ってことにはなってるんですが、アフロディーテから見ても似合わないカップルで。

勇者の資質、かけらもないし、この先、メンバーチェンジって可能性大だそうです」

と勇者に関してはこう言い残していった。


「どんな勇者なんだ」


ー「水路を復活させてほしい」-

遠方、ルルカ村からやってきたという青年、ハンス。

その姿を見た時は、とてもアフロディーテの使者が言った「勇者」だとは思わなかった。


いくら何でも、「勇者」の血筋である以上、ほんの少しは勇者っぽいところがあるはずなのに、

このムサっとした男には微塵もその気配が感じられなかった。


ただ実直で、まっすぐな目をしており、「作物を育てるため水路の復活が必要だ」

と力説する姿は農民なのか農学者なのかと言った風貌だった。


しかし、宮廷魔法使いらしき妖精を連れているし、聖剣をもっている。

この剣は相当な代物だ。

真の勇者の家系の者しか持てないはずだ。


「こいつが例の勇者か、そして王女の結婚相手、いいなずけかあ」

そう気づいたロバンナ。


ルルカ村に向かう、超高速馬車のなかであの妖精が、

「とにかく、ハンスとイレーネを結婚させないと、アデーレ王国がなくなっちゃうの。

ハンスはいい子だよ、イレーネは悪い子だけど。

だから、二人とも幸せになってほしんだ」

と嬉しそうに話していたっけ。


「力になってやろうじゃないか、あの二人の」

とロバンナ。


「そうだね」

マデリンもうなずいた。


その日の昼、マデリンはイレーネを誘って昼食の準備を始めた。

まずは家の裏てにある家庭用農地に野菜を採りに行く。


このあたりは、水も豊富で土がよいのか、どこでもいい作物が育った。

二人で野菜を収穫しながら、イレーネはマデリンにいろいろと話す。

とても元気よく。


野菜の次は少し先の小川で釣りだ。

マデリンが、竿に餌をつけて、川に投げ込む。すぐに竿がピンピンと動く。

竿を引き上げるとその先には小魚がかかっている。


次はイレーネが竿を持つ。

もちろん、竿を触るのも、釣りをするのも初めてだ。


「すごい、こうやってお魚を捕るのね」


「おや、お嬢さんは初めてなのかい?」

とイレーネの身分をしらないことになっているマデリンが聞いた。


「それは」

イレーネは口ごもる。

自分には知らないことが多すぎる、やっとイレーネはそう言う自覚が芽生えていた。


「アンにもやらせてあげたいな」

とポツリと言った。


「アン?」


イレーネは雨ごいの儀式でのアンの事をマデリンに話した。


「アンはねお姫様になりたいんだって。とても有能な魔法使いの子なのに。

そして、私の事お姫様みたいだって言うんだよ」

とイレーネは嬉しそうに愛おしそうにアンの事を話した。


「あなたはアンという子が好きなのね」


「そうよ、大好き、かわいい子。それにあの子は妖精を信じていた。

あの子がいれば」

そこで言葉が止まるイレーネ。


「あの子がいれば、シャロンは死ななかった」

とつぶやいた。


その時、背後に人の気配がした。

マデリンが振り返ると、そこには国境沿いの集落を徘徊している流浪人が数人立っていた。


「イレーネ」

マデリンの声でゾクに気付いたイレーネ。


流浪人たちは通りすがりの住民を襲ったり、農作物を略奪したりする。

この集落近辺は比較的安全でこんな輩が現れることはごくまれだ。


一人がイレーネに向かって襲い掛かった。

残りの流浪人たちも、イレーネめがけて走り出す。


「その子に手出しはしないで、何が欲しいの?」

とマデリンが叫ぶ。


あっという間に流浪人に取り囲まれるイレーネ、

しかし、冷静に周囲を見ると、隠し持っていた聖剣フリージアを取り出した、


「ほう姉ちゃん、すっごい剣を持つてるんだ」

せせら笑う流浪人。

フリージアは見た目は細く、小さな剣だ。とても聖剣だとは思わないのだろう。


次の瞬間、最初にイレーネに飛びかかった輩が地面に倒れていた。

イレーネは顔色一つ変えず、フリージアを構えながら次の流浪人を見つめている。

とても冷静だが、冷たく心のない目。


「イレーネ、何をしているの?」

マデリンがその間に割って入った。


そして、心で何かを唱える。

イレーネと流浪人たちに向かって。


「おい、俺たちは何をしていたんだ。

すまない、魔が差したようだ、どうか見逃してくれ。

こんなことは二度としない」

そう言いながら、地面に倒れている男を担いで逃げて行った。


「イレーネ、大丈夫?」

マデリンがイレーネに駆け寄り言った。

だが、呆然としてたっているイレーネ。


「ねえ、イレーネ、何を考えてその剣を使ったの?」


「あいつらをやっつけられればいいって。でもなんだか心が重たかった」


イレーネの言葉を聞いてマデリンは確信した。

「イレーネは善の心を時により封じられる」

これが魔女メディアの呪いか。


「マデリン、私の心を留めてくれたんだね。魔法で」

とイレーネ。


イレーネはマデリンの心の魔法のお陰であれ以上剣を暴走させることはしなかった。


「そっか。やっぱりシャロンはもういないんだね。

こういう時、私を守るのはシャロンの任務だから、どこにいても必ずシャロンの気配を感じる。

でも、今は何も感じないの。

シャロンはやっぱり死んでしまったんだね」

イレーネの目から涙が流れた。


あの孤児院の部屋で、シャロンが消滅して以来、

はじめて心の底から悲しいと思った。初めて涙が流れてきた。


イレーネはその場でいつまでも泣き続けた。

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