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王女イレーネ誕生の秘密

ロードレース大会に参加する勇者たちが続々と王宮のあるアンデールに集まり始めていた。

王宮の迎えの馬車で来る者もいれば、自分の馬で来る者も。


城下町アンデールはいつになく華やいでにぎわっている。

街のあちこちに「歓迎、勇者様」とか「健闘を祈る」とか書かれた横断幕が掲げられていた。


国境の村、バウロ村からも選ばれた勇者15名が、アンデールに入っていた。

彼らは、王宮が差し向けた相乗り馬車に乗り、ここまでやってきたのだ。


「そういえば、この前の城の開放日にもここに来たんだよな」

バロウ村、村長の甥、マルクがハンスに尋ねた。


「そうだよ、バルコニーに立つ国王陛下、王妃様、姫様をみたよ」

とハンス。


「そうなのか、お前、ナマ姫様を見たのか?どうだった?イレーネ姫は。

おきれいだったか?」

とマルクは興奮しながらハンスに言った。


「そうだね、きれいと言えばきれいだけど、なんだか機械仕掛けの人形みたいだったな」

と言うハンスの口を、とっさにマルクが抑えた。


「お前、何を言ってるんだ。姫様のことをそんな風に言うもんじゃない。ここは王都だぞ、

誰が聞いているのかわからないんだから、王族の批判はしないように」

とマルクが強い口調で言った。


「でも、本当のことなのに」

ハンスは小さく言ったがそれ以上は黙っていた。


「あの姫、作り笑いだった」

そう感じていたが、言葉には出さなかった。


そんなある日、王宮でロードレースに参加する勇者を集め壮行会が開かれた。

マルクやハンスはもちろん、集まってきたロードレースに参加するすべての勇者が招待されていた。


王宮の大広間に勇者たちは集まった。

広間にはいくつものテーブルが並べられていて、その上には豪華な料理が並んでいた。


走行化の司会進行を務める「勇者ロードレース大会開催実行委員会、委員長」コロル伯爵が、

国王、王妃、そしてイレーネ王女の入場を告げる。


大広間の前方にある、一段高くなった席に王たちが入ってきた。

勇者は拍手で迎えた。


国王から挨拶があり、そのあと、王に促されイレーネ姫が中央に進み出た。

そして、

「みなさんの検討をお祈りいたします」

と鈴のような声で言った。


会場からは拍手と歓声が起こる。

集まったどの勇者も、姫に釘付けになった。


愛らしいしぐさ、満面の笑顔。

その姿に、マルクも目を潤ませながら拍手を送っていた。


その様子を隣で眺めながら、

「やっぱり作り笑いだ」

ハンスはそう感じていた。


「あの姫と結婚できるんだ、ロードレース大会に優勝しさえすれば。

俺はがぜんやる気になった。俺が必ず優勝する」

とマルクは意気込んだ。


「おい、お前は参加するだけでも奇跡だ。出場することに意義がある。

それくらいに思ったほうがいい、ただしバロウ村の名を汚すことだけは厳禁だ」

ハンスをみながらそう言った。


王たちは挨拶が終わると、その場から退場していった。

その後は、料理と酒が振舞われ宴となった。


自室に戻る途中、ソフィア王妃はこの壮行会に集まっていた勇者の面々を思い巡らせ、

浮かない表情だった。

あの中から、娘イレーネの夫が選ばれる。

次期女王の夫が勇者だなんて。


自室に戻ってからも、ソフィア妃の気分は晴れなかった。


「なんであんな約束をしてしまったのだろう」

一人つぶやくソフィア。


もともと、ここアデーレ王国の隣国、ドルーガ国の出身のソフィア。

神々と女神の采配で、国同士のいさかいは表向きには起こっていない。

しかし、水面下では火種はくすぶり続けていた。

そんな時、アデーレ王国との和睦の使者としてソフィアが選ばれ、アデーレ国王の妃となったのだ。


国王が妃をめとれば、次に期待されるのは世継ぎの誕生だ。

しかし、セレウス王とソフィア妃の間にはなかなか世継ぎが誕生しない。

結婚から2年がたち3年が過ぎる頃には、国民たちも騒ぎは始めていた。


「お世継ぎはまだなのか」

「王子か王女のご誕生は?」

「妃の役割は元気な世継ぎを産むこと。ソフィア妃は何をしている」

そんな言葉がソフィアの耳にも届いていた。


セレウス王はソフィアを責めるようなことはしなかったが、味方にもなってはくれなかった。

一人悩むソフィア。


そんな時、ドルーガ国から同行してきた魔女メディアがある予言をした。

「次の満月の日、貴女は懐妊することでしょう。生まれてくる子はいずれ勇者と結婚する」

と。

「この予言は必ず守ること」

とメディアは付け加えた。


思い悩んでいたソフィアはその言葉に狂喜した。

その後、メディアがまだ何か言った。頭がいっぱいになっているソフィアは理解もしないでその言葉に頷いていた。


そして、予言通りその次の満月の夜、ソフィアの懐妊が明らかになったのだ。

ソフィアがアデーレ王国に嫁いできてから、5年が経とうとしていたとき

セレウス王とソフィア妃の第一王女、イレーネが誕生した。


生まれた時から、バラ色のほほと大きな瞳、素晴らしく愛らしい姫だった。

眠っているときだけは。







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