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ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


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シャロン

シャロンの身になにが。

「ママが許しても、私はあなたを許さない」

そう言いながら、イレーネに冷たい視線を送るリリア。


いつのまにか、子供たちが部屋に入り込みドアには椅子が置かれ、外から開けられないようにしている。

そして子供たち、ー今ここに居るのはアンと同じくらいまでの幼い子ばかりだーが取り囲んだ。


イレーネ、ではなくシャロンの周囲を。

シャロンが子供たちの円のなかにポツンと取り残された。


「シャロンに何をするの?」

イレーネが叫びながらシャロンの側に行こうとするが、リリアが阻止する。


シャロンを取り囲んだ子供たちはイレーネのことを見ようともせず、

シャロンに向かって、何か言い始めた。

最初小さかった声が、だんだん大きくなっていく。

何度も何度も繰り返し、子供たちが言う。


「妖精なんか信じない」


その言葉にシャロンが耳を塞いでうずくまる。


「シャロン、いますぐ逃げて、移動して」

イレーネが叫ぶが、


「もう遅いわ。シャロンは子供たちの負の力まともにあびてるもの」

とリリア。


妖精は子供たちがその存在を信じる力が生命の糧となっている。

子供たちが妖精を信じなくなると、命の力も消えてしまう。


シャロンは今まさに、妖精を信じない、と言い続ける供たちに囲まれているのだ。

みるみるうちに弱っていくシャロン。


「ねえ、恨んでいるのは私なんでしょう?シャロンは関係ないじゃない。

それになんであの子たちを巻き込むの?」

とイレーネがリリアに言う。


「そうよ、憎いのはあなた。あの妖精は、まああなたの身代わり、とばっちりね」

とリリア。


「王女のあなたに、直接何かすることはできないわ。

また私たちが罰せられるもの。だから、あなたが信用しているらしいあの妖精に犠牲になってもらうことにしたの」

そう言いながら、子供たちに近寄るリリア、

そして。


「さあ、あと一息よ。もっと大きな声で」

と更に子供たちを煽った。


それとほぼ同時に、イレーネがここも達の輪の中に飛び込んでゆき、シャロンを抱き起す。

すでに動かないシャロン。

イレーネにはシャロンの命の力が尽きようとしているのが分かった。


「シャロン、シャロン、私は妖精を信じてる、今までもこれからも」

ぐったりとしているシャロンに必死に話しかけるイレーネ。


「この子たち、本当に妖精を信じていない、夢と希望がないんだ。かわいそうに。

イレーネ、イレーネはもう子供じゃないでしょ。信じてくれてもね」

とか細い声でシャロンが話す。


「シャロン、このままどこか女神の元に連れて行く、それまで頑張って」

とイレーネが言うが、


「イレーネ、私はもうここまでだよ。体が消えてきている。

イレーネ、一緒にいてくれてありがとう、楽しかったよ。

イレーネ、立派な王女になってそれから女王に。

イレーネ」


そこでシャロンの声が途絶えた。

イレーネが抱きしめていたシャロンの姿が、霧のように消えていく。


その時、ただならぬ気配を感じたママイメルダとハンスがドアをこじ開け部屋に入ってきた。

「なにがあったの?」

ママイメルダがリリアに問い詰める。


「シャロンが帰ったの」

代わりに答えたのはイレーネだった。


「帰った?ですって?」

腑に落ちない様子でママイメルダが言うが、


「そう、シャロンは帰ったのよ」

とイレーネは語尾を強めた。


それから。


イレーネにはその後の記憶がほとんどなかった。

気が付いた時には馬車の中にいた。

ハンスと二人、場所の荷台に。


この馬車は馬に魔法がかけられてはいないから、ロバンナが御者として馬車を操っていた。


「イレーネ、何が起きたというんですか」

とハンス。


「話してください。シャロンはどうしたんですか、」

と続けて聞くハンス。


しばらく口ごもっていたイレーネだったが、やがてポツリ、ポツリとルルカ村の孤児院のあの部屋で起きたことを話し始めた。


「そんなことが。それではシャロンは」

ハンス言うと、


「もういないよ、消滅した。気配が感じられないもん」

とイレーネ。


それまでイレーネはシャロンの「存在」を感じることが出来た。

お互いにずっと一緒だったし、シャロンはイレーネの専属魔法使いだ。


春の国に飛ばされた来た時だって、遠く離れていてもその存在は感じていた。

しかし、今は何も。

イレーネの腕の中でシャロンが消えてしまってから、その「存在」を感じることはできなくなっていた。


二人の会話をロバンナは御者台から聞いていた。

普通なら、荷台での話など御者台にいる者の耳にまで届くことはないが、ロバンナはやはり特別な人間だった。

その耳の能力を生かし、こっそりと聞いていたのだ。


「なんだい、久しぶりに会って愛の告白を期待していたのに、思いがけず深刻な話しじゃないか」

とロバンナ。


「でも、なんでシャロンは帰ったと言ったの」

というハンスの問いに、


「シャロンが、子供たちに消滅させられたってわかったら子供たちが責められると思ったから。

シャロンは宮廷魔法使いだもん。待遇は王侯貴族と同等ってことでしょ。

それに、シャロンがあの子たちが本当に妖精を信じていない、って言ったの。

あんなに小さな子たちが。

それは、夢とか希望とかそういうものがないからだって。

そんな子たちに、これ以上不利なことをになってほしくなかった」


「そうですか。ロバンナはすぐにシャロンが宮廷魔法使いだと気づきました。

彼には黙っていましょう。

せっかく孤児院の待遇が改善されることになったのに、万が一取り消しにでもなったら困りますね」

とハンス。


「ねえハンス、あんなに小さな子が妖精を信じてないの。とても悲しい事よ。

世の中からあんな子供たちがいなくなるように、私に何かできることがあればいいのに」

イレーネは何かを心に思ったように言った。


「貴女のその意識が必要なんですよ。

やっと目覚めてきましたか、イレーネ王女」

それまでの会話を聞いた御者台のロバンナが一人つぶいやいた。


「お二人さん、国境沿いまではまだかかる、後しばらくは道が平坦だ。

今のうちに少し眠るといい」

御者台から振り返りながらそういうロバンナの目に入ったのは、


ハンスにもたれかかり、すでに眠っているイレーネ。

その肩を優しく支えているハンスの姿だった。


「お、こりゃ失礼。いいなずけはもうお休み中か」

ロバンナが言うと、


「いいなずけって、そんなんじゃありませんよ」

と頬を赤くしながらハンスが答える。


「はい、はい」

そう言いながら、前を向き馬を操るロバンナ。

「その目、恋してるって目だぞ」

と心の中でつぶやいていた。


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