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ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


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水路の復活、それから

水路は復活しました。

これからどうするのかな。

意識を取り戻し、イレーネにすがるアン。

「お水がたくさんだね」

そう言いながら。

その様子をママイメルダが優しい眼差しで見つめた。


「アン?だよね。イレーネに伝言ありがとう。私の言葉を聞いてくれるなんてすごい能力だね」

とシャロン。


「アン、あなた魔力が」

ママイメルダがそう言いかけた時、背後に人の気配がした。


先ほどの儀式の神官の側近たちだ。

「アン?というのですか?」

そのうちの一人が言った。


「この子は探していたは我々の一族だ。その魔力から血筋をたどらせてもらいました」

その男が続ける。


「アンの親族だと?」

とママイメルダ。


その男の話によると、アンの母親は自分の従姉妹ではないかと。

行方が分からない幼い親族がいるということで、ずっと探していた。

今夜の儀式の際、その血筋を調べたところ間違いなく、探していた子供だということがわかった。

のだそうだ。


「よくアンを守ってくれましたね」

とイレーネに向かって言う男。


「アンはどうなるの?」

とイレーネ。


男はアンをこのまま連れて行きたいという。

側近の中の女性が、すでにアンに寄り添っている。



「アン、この人たちの行くのね?」

とシャロン。


そこに、ママイメルダの娘リリアと国境沿いの集落から同行してきた、ロバンナがやってきた。

「ママ、ここにいたのね。水路が復活したってもう大騒ぎ。みんな大喜びしているわ」

とリリア。


見ると、東の空が明るくなってきている。

そろそろ夜が明けるのだ。


「おい、ハンス、俺を置いていくなよ、ここは知らない土地なんだぜ。

このレディがいなければお前に合流できなかったじゃないか」

とロバンナがリリアを見ながら言う。


「夜が明けてしまう。もう出発しないと。アンを連れていっていいか?」

側近の男、魔法使いのジャン・ジールが言った。

夜が明けると移動魔法が使えなくなるようだ。


「そういえば、アン、あなたの名前、アン・ジールというのよ。

この方たちと一緒に行きなさい」

とアンに言うママイメルダ。


するとアンはイレーネにすがりついた。

「ねえ、イレーネも一緒に行くの?」


「私は行けないよ」


「なんで?」

そういうアンに、


「この人たちはアンの親族だよ。アンを大切にして愛してくれる。この人たち元でアン、あなたは魔法使いの修行をするんだ」

とイレーネ。


「愛してくれるの?」

その言葉にほほ笑むアン。

誰かに愛してもらえる、孤児院の子はそういうことに飢えている。


「イレーネ、お揃いのブレスレット。ずっと持っててね」

そう言いながら、ジール一族たちのところに行くアン。


「アン、元気でね。そしてアンを幸せにしてください」

アンとジールの面々にそういうママイメルダ。


「約束する。探し求めていた従姉妹の子だ。我々の娘として育てる」

そう言いながら、ジャン・ジールとその一行が移動魔法を使った。

その寸前、一向の女性魔法使いが、濡れたアンの服を乾かし、汚れた顔をきれいにした。

まるでお姫様のようなアンが手を振る、そしてその姿がだんだんと消えて行った。


「アン行っちゃったね」

としんみり言うイレーネ。


「ねえママ、コマがひとつなくなったけど大丈夫なの?」

皆がアンの旅立ちを感慨深く見送っている中、リリアが言った。


「コマ?」


「そうじゃない?孤児院の子はコマだもん」


「やはり噂ほ本当だっのか」

そう言ったのはロバンナだった。


孤児院の孤児たちは何かの「犠牲」は必要な時真っ先に差し出されている。


「それは」

と口ごもるママイメルダ。

そしてイメルダは自分のようなよそ者が孤児院を運営する場合、致し方ないのだと説明した。


[この国の役人たちは何をやっているんだ。子供たちの未来は平等であるべきだ」

そロバンナ。


「これは俺が上に掛け合う、約束する」

と言い切るロバンナに、


「あんたって何者?」

とシャロン。

「私の事宮廷魔法使いだってすぐわかったし」


「えーっと、俺はだな、連邦国の管理のために派遣されている」

そこまで言うと、口ごもるロバンナ。


ロバンナ・イーサム 「国境沿い、水路管理団体」の代表という肩書だが、

連邦の管理のため、そう神の国から派遣されているのだ。


「ねえ、あんたって神様なの?」

とシャロンが小さな声で聞いた。


「いやいや神ではない。神は神の国から出ないから。ま、神様も使い走りだと思ってもらえればいい」

とロバンナ。


そうこうしている間に周囲はすっかり明るくなった。

農場を見渡すハンス。

枯れていた水路に水が流れ、作物が見違えるようだ。


「ここでの僕たちの役目は終わりましたね。そろそろ次へ行きましょう」

イレーネに言うハンス。


「じゃ、わたしはそろそろ戻らないと」

とシャロン。


「そうか、お前たち、次は秋の国に行くと言っていたな。国境沿いまでは俺が送って行こう」

とロバンナ。


「では、一旦孤児院に戻って着替えたりしてはどうですか?

その恰好ではね」

その時、ママイメルダが口をはさむ。


「そうだよ、イレーネなんかまだびしょぬれ。ハンスも孤児院に荷物置きっぱなしでしょ」

とリリア。


孤児院に向かって歩くイレーネ達。

シャロンの魔法に頼りたい気はあったようだが、すでに疲れ切っていたシャロンは眠ってしまい、

ハンスに抱えられていた。


きれいな朝陽の中並んで歩くイレーネとママイメルダ。

「貴女の事、見捨てようと思った」

とママイメルダ。


「貴女は私の事、覚えていないようですね。イレーネ王女」

ママイメルダが話し始めた。


かつて自分はイレーネ王女の侍女として宮廷に上がった。

それは一族では初めて、とても名誉なことだった。


献身的に王女のお世話をしたが、ある日。


「あのティアラを作ってくれたの、リリアだったのね」

とイレーネ。


イレーネが投げ捨てたリリアの作ったティアラ。

それは、イレーネ王女のご機嫌を損ねたのだ。

王女に無礼を働いたのだ。

表向きは自分から「暇をもらった」ことにはなっているが、実際にはクビになったのだ。


「そんなことで?」

と驚くイレーネ。


「あなたは王女なんですもの。貴女は絶対だった」


ママイメルダは孤児院にやってきたこの少女がアデーレ王国のイレーネ王女であることにすぐに気付いた。

それでもなぜここに居るのか、疑問には思ったがあまりにかつての王女の姿とは違ったので

そのまま触れずにいた。

「何か訳があるのだろう」と。


「あなたはアンを助けると言ったわね。信じられなかった。

あなたにもそんな心があるんだ、そう思ったわ」


あの水に流されていく二人、イメルダはアンのことは迷うことなく救い出した。

イレーネはこのまま流されていけばいい。

そういう思いが交差した。

「でも出来なかった」


「とても酷いことをしたと思ってる。あのティアラ、なんであんなことしたのかわからないの」

とイレーネ。


「これは貴女が成長するための旅なのですね」

とママイメルダが言った。


「そうかもしれない」

イレーネは思った。


孤児院に戻ると、ハンスもイレーネもそれぞれの部屋で荷物をまとめる、

そこに、ママイメルダが、

「これを」

と言って布袋を手渡した。

イレーネのあのバッグが入った布袋だ。


「トレーラーハウスに残されていたわ。あとこれ」

と言って、聖剣フリージアを渡した。

これもいざという時のためにイレーネがトレーラーハウスまで持って行っていたのだ。


「あーあ、せっかくあげたのに。忘れてこないでよね」

といつの間にか目を覚ましていたシャロンが言う。


その時、ロバンナがママイメルダを呼んだ。

孤児院の今後について話し合いたいそうだ。


今日の夕方にはシャロンは帰り、ハンスとイレーネはロバンナと国境沿いに移動する。

夏の国の滞在もあとわずかだ。


「名残惜しいの?」

シャロンが聞く。


ここでもいろいろな出会い、いろいろなことがあった。

王宮で暮らしていたら決して体験することのない事ばかりだ。


その時、リリアが部屋に入ってきた。

数人の子供たちと一緒に。


「あなたがあの王女さまだったのね」

そう言いながら。


リリアの脳裏に、アデーレ王国を母と共に出国して時のことがよぎった。

家で父が母に罵声を浴びせる。


「王女様のご機嫌を損ねるとは何事だ。侍女にあるまじき行為。

リリアが余計なことをするからだ。

王宮をクビにされたお前をここの置いておくわけにはいかない、

いますぐに出ていけ、お前もだリリア」

鬼の形相の父。


跡取りの兄をそのまま残し、着の身着のままで家を出た母と自分。

「イレーネ王女がなんだっていうの?そんなに偉いの?」

リリアはずっと心で思っていた。


「ママが許しても、私はあなたを許さない」

今まで見たことがないようなリリアの冷たい視線がイレーネを見つめていた。

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